コンビニ人間

第155回 芥川賞受賞の『コンビニ人間
大変興味深く読みました。わたしたちの生活に欠かせないコンビニエンスストアを舞台にした小説です。「コンビニエンスストアは、音で満ちている。」で始まります。
受賞なさった村田さんは、1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部を卒業後、2003年、「授乳」で、第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞して作家デビュー。2009年「ギンイロノウタ」で野間文芸新人賞、はじめ2013年、「しろいろの街の、その骨の体温の」で第26回三島由紀夫賞受賞。など活躍されている方です。
受賞発表のときの村田さんのはにかんだ感じ、授賞式の日、7月19日もコンビニで働いていた・・・というエピソードに私自身驚いたものです。つまり、私は村田さんご自身が「コンビニ人間」なのかしら・・・と思ったのです。
村田さんが書いた「コンビニ人間」は、36歳の独身の古倉恵子が主人公です。大学卒業後も就職せず、コンビニでバイトも18年目。(この辺は村田さんと一緒)コンビニで働いている時にしか生きがいを感じられません。ある日、そのコンビニに婚活目的で一人の男がやってきて、主人公の古倉に「そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい」と突き付け、物語が展開していくのですが、そのコンビニでの描写や、なにか・・・ちょっと普通ではない人間たち、もしかしたら、私など敬遠したいタイプのように映るのですが、読み進めていくうちにその主人公たちに作家は限りなく慈しみをもち、周囲からは厄介者に映る男に主人公は寛容なのです、とても。
作品の中で、36歳の独身の主人公は「結婚は?」とか「まだバイトなの?」と家族や周囲から異物扱いをされます。この本を読んでいると世の中の「普通であること」や「世間一般の価値観」に対して村田さんご自身はどのようにお考えなのかを伺いたくなりました。登場人物がとても魅力的、人間的に思えてくるのです。
村田さんはコンビニ勤務歴18年、深夜2時に起きて早朝6時まで執筆。午前8時から午後1時までコンビニ勤務。その後、喫茶店で執筆。夕食後、お風呂に入って寝る。週3回のペースで働きながら小説を書くのが、原稿が進むし、バランスが取れる・・・とおっしゃいます。作家歴13年、コンビニ店員歴18年!
ラジオにお招きしてじっくりお話しを伺いました。小さい頃から読書好きな少女で、空想壁があり、少女小説家になりたかったそうです。
みなさんはコンビニってよく利用されますか?
私の場合、住む町にはコンビニがないので、月に何回か箱根神社に参拝に行った帰りには早朝かならず寄ってみます。工事現場に行く前にトラックの助手席でお弁当を食べている人や観光客、時にはお年寄りがひとりで買い物や、様々な人に出会います。一人用の便利なお惣菜、日用品、おむすび、サンドイッチ・・・新聞や雑誌、など等。
「買い物難民」といわれるお年よりが多くいる日本列島。コンビニの役割は大きいですね。最終のバスで小田原から終点の町までバスで帰って来る時など辺りの商店の灯りは消えて真っ暗。バスの中からコンビニの煌々と光る灯りにホッとすることも。そのコンビニの中でくりひりげられているドラマの数々。「コンビニ人間」は大変興味深かったです。
芥川賞作家 村田沙耶香さんにじっくり2週にわたりお話を伺いました。ぜひラジオをお聴きください。
放送日は9月11日と18日
文化放送「浜 美枝のいつかあなたと」
日曜10時半~11時まで。


『爺(じじい)のひまつぶし』

作家で評論家の吉川潮さんが、司会者でエッセイストの島敏光さんとともに「爺の暇つぶし – もてあます暇をもてあそぶ極意、教えます – (ワニブックスPLUS新書)」をお書きになりました。
帯には「男の暇つぶしに定年はない!」とあります。落語にも造詣が深い吉川さん。ふ・ふ・ふ・・・と笑いをこらえて読むところもございましたが、そもそも女性には「暇つぶし」などありませんものね!
ご近所のお付き合いや友人達、遊ぶ仲間や、やることがいっぱい・・・でも男性はそうでもないらしいのです。ラジオにお招きしてじっくり伺いました。「暇つぶしガイド」とでも申しましょうか。
時間を持てあましているシニアの方、とくに男性、必読書です(笑)定年を前にして、その予備軍も多いそうです。「安く、楽しく、イキイキと余暇を過ごすには」まず吉川さんは、ご飯を一緒に食べる「飯友(めしとも)」がいらっしゃるとか。
その飯友がいないひとには・・・。映画・音楽・ライブは暇つぶしの三種の神器とのこと。それには足腰が強くないと出かけられませんよね。旅もいろいろ。男性は一人旅を好むそうですね。そういうときには”話しかけない”が礼儀とのこと。
散歩はお金のかからない川べり、日比谷公園、新宿御苑など普段からよく歩かれるとのこと。落語家の亡き立川談志師匠とのお話しは大変興味深く伺いました。師匠が60代の後半になった頃、食道ガンの手術をし、70過ぎると、『人は未練で生きている』とおっしゃったそうです。吉川さんは「未練たらしく生きるほうがいいと思うんです。皆さんも未練をなくさず、未練たらしく長生きしましょう」とおっしゃいます。中々薀蓄のある言葉です。
究極の暇つぶしとは吉川さん曰く「暇つぶしと意識しないで一日が終わること」。この本はかつて流行った「濡れ落ち葉」にならないように奥さまがご主人に贈るのも良いのではないかしら(笑)と私は思いました。
67歳の吉川さんに70歳を前にして思うことなども聞かせていただきました。
スタジオは笑いの渦。ぜひラジオをお聴きください。
放送日8月7日
文化放送「浜美枝のいつかあなたと」
日曜日10時半~11時


謎のアジア納豆

納豆って、日本だけで作られているんじゃないの?と思われる方がいるかもしれません。私もアジアの国々、インドなどを旅すると豆の料理はふんだんにありますから、納豆があっても不思議ではないのですが、まさか・・・こんなにアジアに納豆があることは知りませんでした。
『壮大な納豆の旅』に出かけた方がいらっしゃいます。それも3年もの時間をかけ、辺境作家が目指した最後の秘境。タイ北部チェンマイで食べた納豆スープ、ミャンマー北部カチン州のジャングルの民家で食べた納豆卵かけご飯。
旅に出かけたのはノンフィクション作家の高野秀行さん。高野さんは、1966年、東京生まれ。1989年、早稲田大学・探検部の活動を記した「幻獣ムベンベを追え」で作家デビューしました。
『誰も行かないところに行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかし
く書く』のがモットーだそうです。
著書も数多く、2013年、「謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プラントランドと戦国南部ソマリア」で、第35回講談社ノンフィクション賞と梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞。そして「謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉」をお書きになりました。
納豆は「トナオ」というのだそうです。せんべい納豆、蒸し納豆、納豆味のタレに野菜をつけて食べる「ナッピング・トナオ」タイのシャン族は、納豆をせんべいのように薄くするのだそうです。
あまりにも面白く興味がわき、ラジオにお招きし直接お話しを伺いました。スタジオには薄いせんべいのような納豆を高野さんが焼いて持参してくださいました。(写真に写っているもの)
スタジオ内は香ばしい納豆の香りがします。
インドとミャンマー国境の山岳地帯にあるアジア最後の秘境「ナガ族のエリア(元・首狩り族)にも納豆汁があり、納豆は味噌とダシの代わりに使われているとのこと。
そして、「日本の納豆」を探し求めての旅がはじまります。
私のイメージする「日本の納豆」は稲藁に包まれた納豆・・・が思い浮かびますが、最近は中々見かけなくなりました。それは何故?岩手や秋田、そして京都の山深い集落へ・・・・と、納豆の奥深さに感動しました。
2週にわたり放送いたしますのでお聴きください。そして写真も載っている「謎のアジアの納豆」をお読みください。食文化って素晴らしいですね!
「浜美枝のいつかあなたと」
文化放送 日曜10時半~11時まで。
6月12日 19日の2回です。


原節子さん

ノンフィクション作家の石井妙子さんが『原節子の真実』(新潮社)をお書きになられました。本の帯にこのように書かれています。
彼女が最も望んだのは何だったのか
その存在感と去り際、そして長き沈黙ゆえに生まれた数々の神話。埋もれた肉声を丹念に掘り起こし、ドイツや九州に痕跡を辿って浮かび上がったのは、若くして背負った「国民的女優」の名と激しく葛藤する姿だった。伝説や憶測に惑わされることなく、真実だけを積み重ねて甦らせた原節子の実像。
石井さんは、1969年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。白百合女子大学を卒業後、大学院修士課程終了。2006年、およそ5年の歳月を費やし、伝説の銀座マダムの生涯を浮き彫りにした「おそめ」が、新潮ドキュメント賞、講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞の最終候補作となりました。これまでの著書や共著に「日本の血脈」、「満映とわたし」などがあります。
原節子さんは私の憧れで、ちょうど私が女優になってすぐに砧の東宝撮影所で何度かお見かけしました。背筋を伸ばし、歩幅は大きく颯爽と撮影所の中を歩くお姿は大輪のバラの花のようでもあり、クレマチス、いえ楚々とした都忘れのようでもあり・・・15歳の私には眩しい存在でした。でも今回、石井さんの本を読みその時原さんは40歳。すでに引退を考えていらした時期だったのですね。
ラジオのゲストに石井さんをお招きし、原さんがどんなことで悩み、何を望んでいらしたのか・・・。じっくりお話を伺いました。石井さんは原さんのお誕生日には花束を持参し、手紙をそえて鎌倉のご自宅を何度もお訪ねになり、甥ごさんに手渡したそうです。そこでの暮らしは「原節子」ではなく「会田昌江」としての慎ましい暮らしだったようです。映画界を去ってから50年以上も沈黙を守り、その私生活は謎に包まれています。
去年9月、95歳で亡くなりましたが、石井さんも直接取材は叶わぬままでしたが、今回の本で、青春時代の戦争との関わりや、小津映画が代表作と言われることえの多少の不満。日独合作映画「新しき土」に出演した時の心模様。よくお調べになり、執筆にあたり、現存するすべての作品を観て、入手困難なものは市井の映画フアンの協力を得たそうです。当然原さんはご自分の本が出版されるのはご存知だったでしょう。恋愛についても私は納得できるものでした。
原節子さんは、「きっと喜ばれたと思います」・・・と思わず石井さんに申し上げてしまった私です。
私も演じる”女優”は40歳で卒業いたしました。
原さんは写真家の秋山庄太郎さんに「ことさら美しく撮ろうとしないでほしい。ありのままの私を撮ってほしい」と何度も念をおしたという。そこにも原節子の真実があるように思います。
ラジオをお聴きください。そして、「原節子の真実」をお読みいただきたいです。私自身、ようやく青春時代を過ごした映画界のことが分かったように思います。
文化放送 「浜 美枝のいつかあなたと」
放送日4月24日 日曜10時半~11時


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江ノ電

藤沢と鎌倉を結ぶわずか10キロの路線に、年間の乗客の数が1700万人を超えるという江ノ電。
皆さまはお乗りになったことがございますか?


私は娘のショップ”フローラル”が鎌倉にあるので時々山を下り東海道線で大船、乗り換えて鎌倉へと向かいます。江ノ電には鎌倉から長谷へ。長谷は長谷寺や鎌倉文学館に行きます。でもすご~い人・人。大仏様がおられるから外国の方も多いですね。でもほとんどが長谷で下車されます。
私はお隣の極楽寺が好きです。
長谷駅から極楽寺隋道(トンネル)を抜けると「ここって町中?」とおもえるほどの懐かしい駅が極楽寺駅です。駅を出て徒歩2、3分のところにある極楽寺は趣のある小さなお寺さん。静かにお参りができ人も少なくお薦めです。


そしてぜひ見逃さないでください「極楽寺の歴史的なトンネル」を。かつて鎌倉側の抗口で土砂崩壊が発生し、長時間にわたり運行が止まったこともあるそうです。それから昭和48年に蛇腹になったドームを11メートルほど突き出し防護されています。
鎌倉市の景観重要建築物に指定されています。この古い趣深い姿に、心が和みます。ここも緊急時以外は現場職員が夜間に点検をしているそうです。煉瓦造りのこのトンネルを守るだけでも大変なことでしょう。
江ノ電には何度も乗っているのに、藤沢から鎌倉までの10キロを乗車したことがありませんでした。今回、江ノ島電鉄(株)前社長・深谷研二さんのご著書「江ノ電 10kmの奇跡―人々はなぜ引きつけられるのか?」を読み、藤沢から鎌倉まで乗ってみたくなりました。観光気分で快適に乗れる裏には会社をあげ、社長自ら年末には徒歩で10キロの線路を歩き安全の確認をされるとか。根っからの鉄道屋・職人気質『鉄道は生き物』です。と語られます。
民家の軒先や駿河湾のそば江ノ島を通り、四季折々、いろいろな楽しみ方ができます。交差点の赤信号停車や住宅ぎりぎりの生垣からは生活の匂いもします。ゆっくりと走る江ノ電は土地と土地、街と街を結びます。何と魅力的な鉄道なのでしょうか。
お話を伺いたくてラジオのゲストにお迎えいたしました。
深谷さんは1949年のお生まれ。日本大学理工学科土木工学科卒業後、小田急電鉄に入社。その後、私の地元 箱根登山鉄道と江ノ電で社長を務め、昨年、江ノ電の相談役を退任なされました。


親子2代の「ぽっぽや」鉄道への愛情も人一倍です。運転士が指導者を「師匠」と呼ぶ職人の世界。かつては周辺の道路整備で通勤通学の足が鉄道からバスへとかわり、マイカーブームで一時は廃線の危機もあったそうです。江ノ電はどうして生き残ることができたのか・・・。たっぷりとお話をうかがいました。江ノ電を支える地元住民の方々との信頼関係も濃密だとお見受けいたしました。
さあ新緑の季節、江ノ電で小さな旅はいかがですか。
私は早朝のバスで下山し鎌倉で朝食を娘といただくのが嬉しいひとときです。(駅から2、3分のGADENN HOUSE)パンケーキにソーセージとたまご。美味しいのでお薦め。そして早い時間に江ノ電に乗ってください。


文化放送「浜美枝のいつかあなたと」
放送日は4月17日
日曜10時半~11時

紅茶

皆さまは紅茶はお好きですか?


私は大好きです。でも、若いときには「ちょっとマナーがあって難しそう!」とおもっておりましたが、その思いが一変したのは10代の時にインドを旅したときに飲んだ紅茶です。
ニューデリーから列車に乗り込み5~7時間かけて田舎の石仏を見に行くときなど、一日に数本しか入らない列車がホームに入ると、子供たちが『チャイ!チャイ~!』と舗装されていないホームの横で作りたてのミルクとお砂糖たっぷりの紅茶を売りに来てくれるのです。
素焼きの小さなカップに入れて、たしか5円くらいでしたか・・・とにかく甘くて美味しいミルクティーにぞっこん!体と心が満たされ幸せな気分で旅を続けられました。それからはインドに行くたびにその「チャイ」を飲みました。忘れられない味です。
そして、映画007の撮影のときは10時と3時のお茶の時間はどんな状況でも手を休めティータイムです。日本人の私などは「もう~後ちょっとでこのシーンは終わるのに・・・」などとブツブツ思っておりましたが、慣れてくると「紅茶タイム」の意味、必要性がよくわかるようになりました。ただお茶を飲む、ということだけではなくコミニケーションの場であり、心身をリラックスさせてくれる効用があります。ロンドンの水は硬水ですから紅茶には良く合います。色は濃いのですが、飲むと渋みが少なく、後味に渋みが残りません。
イギリス人にとって最高の紅茶とは、カフェでもホテルでもなく、一家団らんで楽しむ紅茶が最高とのこと。友人の家に招かれて伺うと「ティーウィズミルク?」と聞かれます。そう、私はミルクティーが大好きなのですが、イギリス人はミルクにこだわります。「どんな紅茶もミルク次第」だそうです。そして入れ方は、ミルクが先か、紅茶の後か。
本題にはいります。素敵な本に出会いました。『紅茶の手帖』磯淵猛著(ポプラ新書)です。
磯淵さんは紅茶研究家で1951年生まれ。28歳で紅茶専門店「デンブラ」を開業し、スリランカなどの紅茶の輸入販売を手がけ、各地の紅茶の特色を生かした数百種類のオリジナルメニューを開発しておられ、世界各国を今でも訪ね、実際茶畑での試飲もされています。
大ヒットした「キリン 午後の紅茶」にはアドバイザーとして今でもかかわり、30年に及ぶロングセラーに導いています。
紅茶の効用にはインフルエンザや口臭の予防、骨粗しょう症の改善などにもいいそうです。
そこで、ラジオのゲストにお招きし「紅茶」の素敵なお話をたっぷりお聴きいたしました。そうそう磯淵さんにお聞きした「ティーウィズミルク」の美味しい淹れ方だけお教えいたしますね。
◎ 茶葉はブラックティーよりさじ加減を多めにする。
◎ 先に注ぐミルクで冷めないよう、カップを温める。
◎ 紅茶はカップの9分目まで注ぎ、温かさを保つ。
紅茶の歴史や意外に合う料理、ティーパックでの美味しい淹れ方等々、楽しいお話でした。ラジオをお聴きください。
文化放送『浜美枝のいつかあなたと』
放送は4月10日(日) 10時半~11時


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『激安食品の落とし穴』

昨年から今年にかけて、日本の農業についてマスコミをはじめいろいろな所で議論が盛んに交わされてきました。それは皆さまもご存知のTPP(環太平洋パートナーシップ)の大筋合意がなされたからです。「人・モノ・お金」が原則自由になることです。
私は40歳から環境・農・食の問題を勉強してまいりました。この20年あまりで農業の現場も大きく変わりました。将来に農業者の人口は減り続けます。農業就業者の平均年齢は66歳です。50歳未満の農業従事者は25万1千人、5年前から比べると23%も減少しているのです。もちろん一部には優れた農業者もいます。輸出にも力をいれ成功している人もいます。「足りなければ輸入すればいい、そのほうが安くすむ」という声も聞こえてきます。
“食は命に直結しています”
そんな環境のもと、私は心配なことがたくさんあります。全国各地を自分の足で歩くと耕作放棄地のなんと増えたことか。美しい景観が大きく変化し、このままだと日本の農業、食はどうなってしまうのか・・・。日々の暮らしに目をやるとスーパーなどでの安売り競争。たしかに安いにこしたことはないのですが・・・。
「新鮮でおいしく、安全でしかも安い」そんなことはありえないのです。私の子供のころの暮らしには、庭先に鶏が走り回り、牛舎で牛のお乳を搾る光景など生産現場を身近に感じることができました。現代は、たべものを巡る不祥事も取りざたされています。考えたこともない破棄すべき食品を流通に流す。こんなことってあるのでしょうか。私達台所を預かるものとして考えてしまいますよね。『これってどういうこと?』と。
そこで出会った本『激安食品の落とし穴』です。
お書きになられたのは、農畜産物・流通コンサルタント山本謙冶さんです。山本さんは、1971年・愛媛県生まれの埼玉育ち。慶応義塾大学・環境情報学部在学中、畑サークル「八百藤(やおふじ)」を設立。キャンパス内外で野菜を栽培し、この活動は今も後輩に引き継がれています。これまでの著書に「日本の食は安すぎる」「無添加で日持ちする弁当はあり得ない」があります。私も山本さんの本は以前に読んでおりましたので、現在の「農・食、そしてわれわれ消費者」のことなど伺いたくラジオのゲストにお迎えしました。
安くて美味しい食品は家計を助け、一見、理想的ではありますが、これが「安すぎる」となると、生産者や食品メーカーは生産行為を続けられない状況に追い込まれます。「今の事実を伝えたい」と、全国各地の食の現場で取材して書かれたのがこの本なのです。
本の中で「消費者は弱者であり、守られるべき存在というのが日本の消費者運動の趣旨だが、果たしていまの時代に合っているだろうか。いまや消費者が最も強い立場にいるのではないかと思うほどだ」と。(第一次産業からみた)買い手側が圧倒的パワーを持ってしまい、価格を支配している。
そうですよね・・・この安さで安全?だれか泣いている人がいるのでは?と思うことがあります。皆さんはどのように思われますか?たしかに昭和のころとは環境が変容しています。賞味期限は自分達で判断していました。食べ物にたいする基礎知識が変化している・・・というか、頼りすぎていて期限切れは破棄してしまう。破棄する量も日本は桁外れに多いのです。テレビや雑誌に取り上げられると、スーパーではその商品が瞬く間に棚やカゴからなくなります。
山本さんはおっしゃいます。「日本人はたまごが大好きだ。ひとりあたりが年間に消費する個数は世界でトップクラスだし、しかも生たまごを食べる文化がある!」そのたまごは「物価の優等生」といわれてきた。でもそうでなくなる時代がくるか?
私はスーパーでの納豆とたまごの「激安競争」を見ていて心配になります。たまごの生産者は激減しています。わずか2600戸しかありません。農家戸数の0.1パーセントなのです。「激安」にさらされ商売にならないのです。
日本は競争社会になり合理化と大規模化が進んでいます。最初に述べたようにTPPでの合意によりさらに競争社会になっていくでしょう。でも、私達消費者だけが「食」のあり方を変えることができるのです!食卓を守ることができるのです!そして生産者と消費者がお互いを理解しあうことができるのです。
ぜひ放送をお聴きください。
そして「激安食品の落とし穴」(KADOKAWA)をお読みください。
未来を担う子供たちのために私達ができることからはじめませんか。
文化放送 「浜 美枝のいつかあなたと」
2月28日放送 日曜10時半~11時まで。


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『正直』

この本をお書きになったのは松浦弥太郎さんです。
松浦さんのことはかねがね”気になる”方でした。「暮らし手帳」の元編集長。民藝運動にたいして、というより「人の手」を感じられる「手仕事の道具」に対しての考え方に大変興味深い文章を読んでおりました。民藝に対して疑問に思うことも私自身と共通しておりました。ひと昔前は民藝は土臭いというイメージでしたが、実は非常には洗練されていて、もしこの民藝という「手仕事」が、また「民藝運動」がなければ私達日本人の暮らしはどのようになっていたか・・・と時々考えるのです。
さて、今回はその松浦さんが昨年春にお書きになられた「正直」を読んで、大変感銘を受け、ぜひスタジオで直接お話を伺いたいとお招きいたしました。
松浦さんは、1965年、東京生まれ。18歳で渡米し、アメリカの書店文化に惹かれ、帰国後、オールドマガジン専門店「m&co. booksellers」を赤坂に開業。2000年、トラックによる移動書店をスタートさせ、その後、中目黒にCOW BOOKS」をオープン。2006年、「暮らしの手帳」編集長に就任。9年間務めた後、去年、日本最大の料理レシピ投稿検索サイト「クックパッド」に入社されました。なぜ180度違う世界に飛び込んだのか・・・・その辺もうかがいたかったのです。
著書も数多く、「本業失格」、「くちぶえサンドイッチ」、「おいしいおにぎりが作れるならば」などがあります。本、雑誌、ラジオ、インターネットなどあらゆるメディアで、今、幅広い世代から注目されている松浦さん。今回の本「正直」には、仕事をはじめ、何かを懸命に頑張っている人たちの背中を押す言葉が数多くつづられています。
仕事とは何か、を考える本でもあります。
成功している人はなぜ成功しているのか、答えをしりたくて1年考え続け『成功している人は、人を助けている』と気づいたそうです。現代社会はお金優先が多いです。「全ての仕事は人を助けること。」そうですね・・・。そしてこうもおっしゃいます。「人生で、自分に関係ないことはひとつもない。学び、そして好奇心をもつこと。無関心が一番怖い」たしかに無関心な人が増えているとおもいます。
「人間はみな、弱くて狡くて不完全だ。全員が悩み、苦しみながら生きている。だからこそ、何かあっても許し、受け入れ、人は信じ合い、許しあってこそ、関係が築ける」と考えているそうです。「成功の反対は、失敗ではなく何もしないこと。」とてもあたたかな人生の応援歌、教科書です。
50歳を迎えるときに、リスクを自覚しながら、新たなフィールドに飛び込む松浦さん。かっこいいです!ぜひ、ラジオをお聴きください。そして本を読んでください。
文化放送「浜美枝のいつかあなたと」
1月31日 日曜10時半~11時まで。

『終わった人』

刺激的なタイトルの本。
「定年って生前葬だな」という書き出しではじまります。
この度、『終わった人』をお書きになられたのは、脚本家の内館牧子さんです。正直、「キビシイ・・・タイトルだわ。」と思いましたが、ページをめくると愛と定年男性へのエールであることがよく分かります。
内館さんは1948年、秋田市生まれ。東京育ち。武蔵野美術大学を卒業後、13年半のOL生活を経て、1988年、脚本家デビューなさいました。
「思い出にかわるまで」
「ひらり」
「出逢った頃の君でいて」
「私の青空、」など数々の人気作品があります。
大相撲にも造詣が深く2000年から10年間、横綱審議委員を務め、現在東北大学相撲部総監督を務めておられます。
最新小説が「終わった人」なのです。これから定年を迎える人、あるいは夫とともに歩ん妻や家族、若い世代など、どんな人が読んでもリアリティあふれる描写に引き込まれました。内館さんの観察眼や物語の展開に時間を忘れ読みました。これはぜひ直接お話を伺いたい・・・とラジオのスタジオにお招きいたしました。
本の帯には「大手銀行の出世コースから子会社に出向、転籍させられそのまま定を年迎えた田代壮介。仕事一筋だった彼は途方くれた。妻は夫との旅行などには乗り気ではない。『まだ俺は成仏していない。どんな仕事でもいいから働きたい』と職探しをするが、取り立てて特技もない定年後の男に職などそうない。生き甲斐を求め、居場所を探して、戸惑い、あがき続ける男に再生の時は訪れるのか?」・・・とあります。
ジムやカルチャースクールに通ったものの、エリート意識が抜けず、満たされない日々が続いていたところに年下の女性との出会いがあり、ある会社からの誘いがあり・・・と後は読んでお楽しみください。
スタジオでは寺島尚正アナウンサがー『現役時代から、定年後は別の人生が始まると覚悟しておいたほうがいいのでしょうか?』と真剣です。シリアスな話の中にユーモがあり「う~ん、分かるな奥さんの気持ち」・・・など私は普遍的なテーマも内館さんの手によると、・・・こんなに人が愛おしくなるのね・・・と思わずうなずいていました。
スタジオに現れた内館さんはチャーミングで素敵な方。7年前に大病をされて、13時間の大手術をなさり2週間もこんこんと眠り続け、奇跡的に目を覚まされたそうですが、お元気で、今でも何にでも興味を示され、学び、ワイン教室、最近は将棋にも夢中とのこと。すごいバイタリティーです。
「勉強することが大好きなの」とおっしゃられます。
故郷についてや、「終わった人」のラストにも関係してきますが、私は伺いました。
「熟年離婚する夫婦と離婚を踏みとどまる夫婦には、どんな違いがあるのでしょうか?」・・・と。
その答えは、ラジオをお聴きください。
そして、将来避けられないテーマ・・・をご夫婦で語りあってください。
文化放送「浜美枝のいつかあなたと」
日曜日、10時半~11時まで。
放送日は12月20日と27日の2回にわたります。
1回目は本を中心に。
2回目は内館さんご自身についてです。


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『老いの希望論』 

老いの希望論』 森村誠一(徳間文庫)
老いて人は、失う代わりに大いなるものを得る!
1月2日に83歳を迎える作家の森村さん。
仕事や家庭に尽くした日々は終わった。
これからが自分のための純金人生だ。
そうご本の帯に書かれています。
女性と男性では生活習慣も違うし、働き方も違います。そろそろ団塊の世代の方達は定年を迎え、退職後は本物のオフを独りで使いこなさなくてはなりません。よく定年後、夫が家族の中で孤立するケースもあると聞きます。
「リタイアは終着駅ではなく、第二の始発駅」とおっしゃる森村さん。女性として”男の本音”を聞かせていただきたく、ラジオのゲストとしてお越しいただきました。
森村さんは1933年、埼玉県のお生まれ。9年余りのホテル勤務の後、1963年「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞。
1973年「腐食の構造」で日本推理作家協会賞を受賞。
「人間の証明」「悪魔の飽食」、「忠臣蔵」など、多くのベストセラー作品があります。2011年には「悪道」で吉川英治文学賞を受賞。2015年には「運命の花びら 上・下」を発表し、昨年、作家生活50年周年を迎え、『老いの希望論』をお書きになりました。
男の定年後を中心に、第二の人生に入ったら、夫は妻との関係をどのように見直すべきか・・・などお話を2週にわたりお聞きいたしました。
スタジオに現れた森村さんはとてもお元気で、現在も旺盛な執筆活動を続けておられます。ダンディーでソフトな語り口。
朝6時半には起床。午前中馴染みの喫茶店へ。午後から本格的な執筆活動。夕方から散歩や病院(定期健診)など夕食は午後9時ごろから。深夜0時に就寝。昼間30分の昼寝も。
「老いる」ということは、言いかえれば人生の達成に近づくことです。たった一度限りの生涯を達成しきることは、理想的な生き方です。人生の達成こそが理想的な生涯であり、人間として生まれたからには達成したい。 人生八十年時代、誰もが長い老後と向き合わなければなくなりました。極度に恐れる人は、退職後のこの長さが耐え難いゆえに、身体ではなく心が老いていきます」 と本の始めに書かれています。
会社や職場に勤めていた現役時代と定年後で違うの、は人間関係や時間の使い方現役時代のオフは、どこか会社のしっぽが残っている。本物のオフを独りで使いこなさなくてならず、会社以外の人間関係もつくらなければなりません。・・・と。
たしかに男性は仕事ばかりで、地域や町内のことに関心のない方もおられます。まずは町内のイベントから参加してみるのもいいでしょう。祭りの世話役、選挙事務所に来た人の相談役、など。そして若者とのつながりを持ちたいですね。若者と交流することで、現代が見えてくるし、年齢の違いで生じるギャップを埋められます。
森村さんはカメラは若い頃からの趣味。登山、旅行、そして写真と俳句を合わせた写真俳句を公式サイトで発表していますが、やはり「人に見られる」ことは大事なのですね。新聞に投稿するとか。
たしかに妻側は夫抜きの生き方をすでに学んでいます。(今の若い方達は別です)いきなりオフになってもそれぞれの時間、居場所は持っている存在だと理解するから、”つかず離れず・・・がいいですね。そして、相手を”空気のような存在”ではなく、異性としてもみるべきです。
お話はいろいろ伺いました。
さまざまな経験を積み、これまでの人生が濃縮された果実であれば、第二の人生の始発駅からの旅には、この果実を携えていくこともできるのです。身一つで出発した第一の旅よりは充分安定しているのです。
ほんとうに内容の深いお話でした。男性、女性に関係なく人間としてですね。若者のように時間の浪費はできません。
具体的には本をお読みください。
そして、ラジオをお聴きください。
放送は1月10日と1月17日の2回
文化放送「浜美枝のいつかあたなと」
日曜10時半から11時まで