夕暮れの美術館

ラジオの収録、打ち合わせなど東京での仕事を終え、ホッと一息。そういうときには東京駅近くの美術館へ。そして、観終わったあとのカフェでの白ワインを一杯・・・至福のひとときです。


三菱一号館では 「”狂ってたのは、俺か、時代か?”画鬼暁斎展」が開催されています。
河鍋暁斎(かわなべ きょうさい、1831-1889)は幕末に生まれ、6歳で浮世絵師歌川国芳に入門、9歳で狩野派に転じてその正統的な修業後、幕末には「画鬼」とよばれたそうです。
そして、今回大変興味深かったのは三菱一号館を設計した英国人建築家ジョサイア・コンドル(1852-1920)との交流でした。暁斎に弟子入りして絵を学び、師の作品を広く海外に紹介したこと。日本文化をこよなく愛し、日本人の女性と結婚し、そしてその師弟愛。コンドルと暁斎の親密な交流がみられる「暁斎画日記」コンドルが旅先で絵を描く暁斎を写生した作品も素晴らしいです。
100年ぶりにメトロポリタン美術館が所蔵する暁斎の水墨画が里帰りしました。
個人的には暁斎がコンドルに贈った「大和美人図屏風」(京都国立博物館寄託)が好きです。閉館も近かったので早足になりましたが、やはりこの絵の前で見入っていた若い外国の人もいました。
『画鬼』といわれた河鍋暁斎。正直あまり全貌は知りませんでしたが、今回の展覧会で理解できました。
この美術館の展示室は、明治期のオフイスビルが復元されているため、小さな展示室が連なり、作品との距離が近くじっくり向き合えるのが嬉しいです。


陽の落ちかけた夕暮れどき、仕事帰りの出逢いの場、美術館。
建物に刻まれた歴史を愉しみながらの一杯の白ワインは人生の幸せを感じさせてくれます。
丸の内を歩きながら東京駅へと向かいました。

『思うこと』

先日、スタジオジブリから原稿依頼がありました。
小冊子『熱風』の8月号です。
ご存知のようにスタジオジブリはアニメーションの制作会社で、宮崎駿監督作品「風立ちぬ」「千と千尋の神隠し」「となりのトトロ」など数々の名作を生みだしている制作会社です。
アニメーション以外にも出版も手がけておられます。『熱風』は「スタジオジブリの好奇心」というキャッチフレーズのもと、毎月書店などに配布している非売品です。
今回の特集は「木の家を愛する者として」です。
皆さまご存知でしたか?
「省エネ法」の義務化により、2020年から「昔ながらの日本の木の家」が建てられなくなってしまうそうです。私は知りませんでした。
省エネ法・・・とは
省エネを推進ということで一般家庭でも2020年から、北海道から沖縄まで「冬は暖房を20度以上、夏は冷房を27度以下」に保てる建築にしなければならなくなり、かかるエネルギー消費量(冷暖房、換気、給油、照明)の上限数値も決められており、基本的には断熱材を完全に入れた建物にした上で、消費電力の少ない新しい省エネルギー対策済み家電(エコ家電)を導入しなければ数値はクリアできなくなってしまうのだそうです。
つまり薪ストーブやこたつ、扇風機などは「省エネルギー対策効果の良くない設備」ということになるそうなのです。断熱材が入らない土壁や真壁、ガラス戸の縁側と障子など昔ながらの日本の家の作りは「省エネルギー対策がされていない建築」としてマイナス判定となり、国が決めた数値をクリアできません。
もちろん省エネへの取り組みはとても大切なのですが、数奇屋造り、土壁、昔ながらの古民家など、日本の伝統的な家作りができなくなってしまう・・・ということだそうです。
信じられません。
日本の景色や建築技術の伝承も変えてしまいかねないのです。
私は「趣のある美しい街並みをつくるのは伝統の力と人々の熱意」だと思っております。
図書館で、柳宗悦先生の本に巡り合い、民藝という美の世界を10代で知り、以来、今まで50年、日本全国様々な町や村をお訪ねしてきました。
日本が高度成長期、私が旅していたころ、古いものは価値がなく、新しいものがよしとされた時代。地方では何百年も人々の暮らしを守ってきた古民家が壊されていった時代でもありました。
ダムの底に沈んだ村もありました。
ようやく日本が、まさにジブリが描いてきた「美しい日本の風景・暮らし」が大切だということで見直されつつある時代、このような法律が成立しようとしているのです。
日本の風土にあった伝統的、あるいは歴史的な家が今後、作れなくなってしまう可能性があるということを知り、胸が痛くなりました。
『家はもっとも大きな民藝』。人々の暮らしの在り方を物語る、私たちの文化の基本です。もちろん、それぞれの暮らしのあり方は様々です。でも、ヨーロッパなどに行くと古き良きものは大切な財産・・・自分たちの手で修理し、壁を塗り、補修しながら暮らしています。美しい景観が保全されています。
最近は海外からの観光客も増えています。
観光地だけではなく、日本の里山に人気が出始めました。
“え、こんなところにも外国の人が”・・・という光景にも出会います。それは、私たち日本人にとっても「心のふるさと」のような場所です。
「国が数値を決め、日本の風景が大きく変わろうとしています」
文化を一度断ち切ってしまうということは、それを作ったり修復したりする技術も手放すことでもあります。
2015年8月10日配布の『熱風』8月号をご覧ください。
そして、このブログをご覧くださっている皆さまのご意見もお聞かせください。

ミュシャとラリック

盛夏
本格的な夏の暑さがやってきます。
ここ箱根は爽やかな風が心地よいです。
先日、あまりにも気持ちよい午後、仙石原にあるラリック美術館まで行ってまいりました。


我が家からは、バスで小涌園で「観光施設めぐりバス」に乗り換え、強羅駅を出ると、ひめしゃら林道、こもれび坂を抜けると美術館がいくつもあります。
ポーラ美術館。ガラスの森美術館、星の王子様ミュージアム、そしてラリック美術館。40年前に箱根に居を定めたときから、折りに触れ、訪ねたのが美術館です。
もちろん美しい風景、そして温泉地の温かなホスピタリティー、ホテルのラウンジでいただく一杯のコーヒー。毎日この幸せを実感しながら暮らしております。
7月14日はフランス革命の記念日。
日本では「巴里祭り」と呼びますね。かの有名な王妃マリーアントワネットも処刑されました。市民は、王や貴族による圧政から自由を獲得しました。


時代は1860年。ミュシャとラリックは同じ年に誕生しました。
ミュシャは自然豊かなチェコ南部の村。ラリックはフランスのシャンパーニュ地方の村に誕生しました。今回の展覧会は開館10周年を記念しての世界初の2人の企画展です。2つの才能が箱根で出逢うのです。二人とも長い下積み生活を経て一代で名声を得ます。


出典:箱根ラリック美術館
アール・ヌーヴォーの時代だけではなく、その後も活躍し続けるのですが、共通するのは二人とも大女優サラ・ベルナールにその才能を見出されます。ラリックは、ジュェリー制作から、ガラス工芸家。ミュシャはポスターのデザインから、祖国のための絵画制作へと。今回の展覧会ではそうした時代背景のもと、根底には『芸術で人々の心や生活を豊かにしたい』との想いが共通しています。
私はこの二人を比べてみたことがなかったし、その精神性にまでは思いがいたりませんでした。
素晴らしい企画展です。
「遠国のパリで輝いたユリの冠 百二十年の時を経て、いま箱根に」とあります。これは19世紀末のパリで、異なる分野で活躍していたふたりが、世紀の大女優サラ・ベルナールのために共同制作した唯一の作品です。秘められたストーリーもよく理解できます。
午後の木漏れ日を感じながらのラリック美術館。
お時間があったら、お薦めの展覧会です。
そのあとのカフェでのティータイム、もしくは遅めのランチもお薦めです。
2015年12月13日(日)まで
箱根ラリック美術館:公式サイト

農村女性たちと、青森・岩手への旅

「ハッピースマイル川村綾子さんをお訪ねする会」


「これからの農村を担うのは女性ではないかしら」と思ったのは30年ほど前のことです。「民藝」の故郷を訪ね、美しい農村風景や日々、日常に使う道具類を見たくての旅でした。
勝手口から「こんにちは~」と訪ね、時にはお宅に泊めていただいたこともありました。桑の木を植え、繭を育て、さらにはその絹糸で美しい紬を織り上げている女性。山からつんできた素材を丹念に処理し、手間ひまかけて、美しい食べ物に作り上げ、素材のよさを生かした味わいにする女性。伝統食の掘り起こしを一生懸命にしていた女性たち。その素晴らしさに感動を覚えました。
こうして生み出されたものが商品となり、地域経済にとって重要な地場産業となり、農村を活性化させてきた女性たち。そうした彼女たちの知恵と工夫が、地方の新しい活力になっているのです。
なによりも、形がそろわない、曲がったもの、熟しかけたもの、加工すれば美味しい餅や味噌になり、ジャムになり捨てていたものが生かされます。
個人の収入は、その女性の口座に振り込まれます。
「女性の力を見直し、光をあてる」
私が農村女性とのかかわりのはじまりでした。「食アメニティー」を立ち上げ、国の協力のもとに「食アメニティーコンテスト」事業の開始やヨーロッパへの「グリーンツーリズム」の研修旅行にも行ってまいりました。
『自分の預金口座を持ちたい』
『自分たちの手で、自由に売れる店がほしい』
『お客さんと直接話をして触れ合いたい』
そんな声をたくさん聞いた時代でした。
今では当たり前のような6次産業化や地産地消。そんなことを全国の「農・食」に関わる生産者、生活普及員の方々、また応援団の方々と共に目指してきました。この20年、旅を通して深い絆で結ばれた仲間たちです。同志です。
世の中の流れが確実にその方向に進んできたので「食アメ・ネットワーク」の会も一応幕を閉じました。でも、その深い絆は「ハッピースマイル・80歳を越えた女性たちを訪ねる」という目的で続いています。今回は、熊本・長野に続き、青森の川村さんをお訪ねしてきました。
農家の嫁として大変なご苦労があったはずです。
82歳の川村さんは元気溌剌、現在は福祉分野で活動されています。
「いつもこころに太陽を・農村で働く女性たちへ」を読ませていただきました。「名川チェリーセンターー101人会」を発足させ、食と関わり、軌道にのせ「自分の口座」を持ち「女性たちが変わった」とおっしゃる川村さん。数々の賞も受賞しました。
後進に道をゆずり、会長である最後の日、トラックの助手席に乗り込むと、ご主人がにこっと笑顔で「ご苦労さんだったね。がんばったね。」と労ってくださり、目から涙があふれでたそうです。
こうして、日本の農業を陰で支え日本の農業の今日があるのです。
お金だけのためではないのです。
子や孫たちの世代へ何を引き継いでいくべきか・・・。
今回の旅では「さくらんぼの摘み取り」、「小岩井農場見学」、「盛岡冷麺の麺打ち体験」など、楽しみながら学びの場でもありました。さくらんぼの種類の豊富さ、ご苦労・・・など。

そして、私は初めての”小岩井農場めぐり”でそのあゆみを知りました。不毛の原野を創始者たちは土壌改良し、林業・酪農、一世紀以上のたゆまぬ努力が今日の小岩井農場なのですね。


今回も仲間たちと素晴らしい旅ができました。
さらに絆が深くなりました。
70歳を過ぎた私にこれから何ができるでしょうか・・・。
「農の国・美しい日本」は守っていきたいと思いました。
そして、若者たちにそんな日本を手渡していきたいと思いました。
皆さん、ありがとございました。

オーガニックバンブー リラクシングウェアー展


先日、大涌谷の噴火警戒レベルが引き上げれ多くの方からご心配の声をちょうだいしましたが、我が家は規制エリアから離れておりいつも通りの生活を行っております。箱根は火山の恵みとともに歩んできた土地、今回はその火山が持つ怖さも体感しておりますが、正確な情報をもとに事態を見守りたいと思います。
規制区域からの距離、公共交通機関の運行状況、そして道路もほぼ全面開通していることを考え、箱根やまぼうしでのイベントは通常通り開催させていただきます。規制エリアなどの詳しい情報は箱根町のページをご覧下さい。
http://www.town.hakone.kanagawa.jp/hakone_j/ka/kankou/page000051.html
『Zhai(ザイ) オーガニックバンブー リラクシングウェア展』
2015年7月11日(土)~17日(金)まで
11:00-17:00
最終日 16:30迄
7月15日(水)休館
箱根はふんわりとやまぼうしの花でおおわれ初夏の美しい季節を迎えます。
まるで山全体が白い帽子をかぶったようです。
こうした心地よい季節は肌に優しく自然素材が一番ですね。
今回ご紹介するZhai(ザイ)は、2009年に設立されたシンガポール発のファッションブランドです。デザイナーのダニエルさんはカナダ出身で3児の母。
まるでシルクのように柔らかく優しい手触りで、天然の抗菌作用もある竹繊維で作られた生地。100%オーガニックの竹繊維、製品に化学染料はもちろん一切使用されていません。
また、同時にアルパカの天然素材を使ったお洋服のブランド「ソルイルナ」さんもご紹介させていただきます。
ソルイルナとは太陽と月を表すスペイン語。月の光のように優しくエレガントに、降り注ぐ太陽のように温かく包み込む、という願いが込められているそうです。
箱根の森の涼しさを味わいながら、天然素材のお洋服を手にとって触って味わってください。きっと手づくりの暖かみのある商品は幸せをはこんでくれるはずです。
詳しくは「やまぼうし」HPをご覧ください。