映画 ベロニカとの記憶

1月20日から公開された『ベロニカとの記憶」』を観てまいりました。

上質な大人の映画。

監督は世界中で大ヒットしたインド映画「めぐり逢わせのお弁当」のインド・ムンバイ生まれのリテーシュ・バトラ。そしてキャストはイギリスの名優ぞろい。

私の大好きな1946年生まれのシャーロット・ランプリング。
「さざなみ」(15)でアカデミー賞主演女優賞にノミネート。
この役は彼女しか考えられませんでした。と言う監督。
納得です。

主人公のトニーを演じるのは1949年生まれのジム・ブロードベント。他にも素晴らしいキャストの皆さん。原作「終わりの感覚」は読んでおりませんが、ぜひ読みたくなりました。

原作に基づいているとはいえ、映画では他の観点が加えられています。
主人公を演じるジム・ブロードベンドは語っています。

「原作は台本を受け取る前に読みました。素晴らしい作品ですね。自分の”主観”と他者が見る”客観”にはずれがあるというテーマに惹かれました。」と。

青春時代の思い出、初恋の真実、自殺した親友。美しい青春の物語。でも残酷です。

人間って、とくに若い頃の記憶は過去を美化し、意とせずに記憶を正当化し、記憶を塗り替えてしまう側面があります。ストーリーを詳しく書きたいのですが、この映画は人生の”ミステリー”です。

詳しくは公式ホームページをご覧ください。

私自身も観終り自分の思い出の扉をあけてみました。
初恋のこと、自分自身の青春時代、そしてそれらは歳を重ねて今思うと、生きて来た時間の中でその”記憶”は正しかったのか・・・と。

『奇妙な遺品が、40年前の初恋の記憶を呼び覚ます』・・・と書かれています。でも、観終わったあとの清々しさ、そして、人生に新たな希望と輝きを与えてくれる、元気になれる映画ですし、”人生って素晴らしいものだわ”と感じさせてくれます。

そして、老いてからの”許し”についても考えさせられました。

いかにもイギリス映画ですし、インド生まれの監督は世界中で映画を製作していますが、イギリスの歴史、文化、人々の営みを知り尽くされておられる・・・とも思いました。

アメリカ映画では実現できなかったでしょう。男と女、なかなか理解し合えないけれど、いつか寄り添うことで理解できるかも・・・とも思いました。秀逸の映画でした。

映画公式ホームページ http://longride.jp/veronica/

詩とオードリー・ヘプバーン

友人から一冊の詩の本をお借りしました。

倚りかからず』(ちくま文庫) 茨城のり子著

よりかからず

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはやいかなる権威にも倚りかかりたくない
ながく生きて心底学んだのはそれぐらい
自分の耳目
自分の二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある

倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

そうですね・・・そうそう。
椅子の背もたれだけで充分ですね。
他に倚りかかって生きていくのは美しくないですね。

この年齢になって、この詩の偽りのない、美しい日本語が理解できるようになりました。他にも素敵な詩が収められています。

先日、日本橋三越本店 新館で開催されている『写真展オードリー・ヘプバーン』に行ってまいりました。22日(月)まで。

オードリー・ヘプバーン(1929~1993)は「ローマの休日」、「麗しのサブリナ」、「ティファニーで朝食を」、「マイフェア・レディー」など数々の名作品に出演し、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞など受賞しているのは皆さんもご存知ですよね。

痩身、大きな瞳と長い脚。ファッションセンスも抜群。世界中の人たちに愛されたオードリー。亡くなってからすでに25年が経とうとしているのに、会場は中高年と若い人も多少・・・いっぱいでした。

おちゃめな姿。妖精のようなしぐさ。会場の男性も女性もご自分の青春時代を重ねるように「あの映画・・・素敵だったわね~」などとお話ししながら一枚一枚を眺めていました。

スイスでの家族とのプライベート写真、ご主人のメル・ファーラと息子ショーンとの姿。そして、撮影の合間の写真など素顔のオードリーに出会えました。

私はシャンプーをしている姿や、セットの片隅で出を待つ姿。また自室で台本を手にしている姿など、今までに見たことのないプライベート写真など素敵な写真に出会いました。

会場には映画音楽が流れ私自身も青春時代に戻っていました。

私は幸せなことに、偶然二度彼女をお見かけしました。

一度は私が007の映画出演のため、ロンドンの格式高いドーチェスターホテルにかんずめにされ(笑)英語のレッスンに明け暮れていた毎日。

夕方終わり、クタクタになり格式あるホテルですのでジーンズというわけにはいかず、着替えてロビーに降りてゆきソファーに腰掛けひと息入れていたとき、回転ドア(現在はオーナーも変わり当時の面影はありません)が開きドアマンがレディーを迎えいれていました。

その周りには”オーラ”が輝き・・・そうなのです”オードリー・ヘプバーンさん”が入っていらしたのです。ジパンシーのベージュのコートをエレガントに着こなし、妖精のような大人の女性の気品があり、周りの人たちも静かに彼女を迎えていらっしゃいました。私はただ見とれているだけ。ため息がでそうな美しさでした。

もう一度は、彼女が女優を引退されユニセフの活動を熱心にされていらした時代。東京駅で偶然お見かけしました。

新幹線のエスカレータを上がると何か雰囲気が違い、どなたかいらっしゃるのかしら・・・と思いました。ちょうどオードリー・ヘプバーンさんが新幹線に乗る時でした。

スーツケースを関係者の人が持とうとしたら「ありがとう、これは私の荷物、自分で持ちます」と仰り新幹線の入り口に入れておられました。

私は感動しました。年を重ね、もう若くはなく、でも顔のシワすら美しく、背筋を伸ばして乗り込んだ彼女を”本当の大人の女性”だと思いました。

写真展を見ながら彼女の人生も順風満帆というだけではなかったはず。

しかし、”倚りかかるとすれば それは 椅子の背もたれだけ”の詩が脳裏に浮かびました。

詩、写真。

豊かな一日でした。

寒中お見舞い申し上げます。

皆さまはお正月はどのように過ごされたのでしょうか。

私は、2日、3日の「箱根駅伝」で始まります。私の住むところが往路のゴールから5分のところにあり、往路では少し前に下りて行き、選手を迎えます。

駅伝には毎年ドラマがあります。若者が青春をかけ母校の襷を繋げる、その姿にいつも胸が熱くなります。往路は東洋大学、復路は青山学院が4連覇達成。シード権をかけての若者達の走りには毎回大きな声で応援します。

3日のスタートは夜明けとともに芦ノ湖辺りを、応援団の元気な声を聞きながら、散歩します。夜明けの富士山は凛とした神々しさを感じます。

三が日は箱根神社は大変な混雑なので、避けて初詣にまいります。早朝ですと人もほとんどおらず、ゆっくり参拝できます。

今年はどんな年になるのでしょうか。世界を見渡せば、問題山積、どうぞ”平和を”と祈りました。

そして、昨年12月から読み始めた原田マハさんの『たゆたえども沈まず』(幻冬舎)をお正月でようやく読み終えました。

そして読み終えたら行きたかった、上野の東京都美術館で1月8日まで開催されていた『ゴッホ展・巡りゆく日本の夢』へ。

もっと早くにでも行けたのですが、なにしろ本を読んでから!と思っていましたから。正解でした。

1880年代のフランスを舞台にした長編小説。画家ゴッホと、日本美術を欧州に広めた美術商・林忠正。そして、兄ゴッホを終生支え続けた弟のテオ。

実在の3人に原田さんは架空の日本人を絡ませ、傑作が生まれる過程を描いています。もちろん小説ですからフィクションの部分もあるでしょう。でも、展覧会をじっくり観ると、数奇な運命を辿り、自らの命を絶ってしまった描写がより理解できましたし、これほどまでにゴッホが「日本への憧れ」をもった背景も良く理解できました。

南仏のアルルに滞在中に書かれた自室やひまわり・・・私はそのあと、サン・レミ時代の「オリーヴを摘む人々」など風景画も好きです。いかにまだ見ぬあこがれの日本、浮世絵版画に影響をうけたかが分かります。

新聞のインタビューに原田マハさんは答えられています。

「ゴッホは情熱と狂気という枕ことばがつくけれど、彼の数奇な人生を超えた所に『星月夜』のような名作生まれ落ちている。それがアートの素晴らしさだと、小説を通して分った」

「私の作品を読んで、アーティストが面白いと思った人は、美術館や展覧会に足を運んでほしい。それで私の小説は完結すると思っています」・・・と。

かつて、10代の頃、女優としてこのまま続けていくべきか、と迷ってヨーロッパ一人旅をし、最後に辿り着いたのがまだ古い木造建てのゴッホ美術館でした。

軋む階段を上ったところに飾られていた「馬鈴薯を食べる人々」や履きふるした「靴」を、またアルル時代の絵に出会い感動して涙がとまりませんでした。

それはなぜなのか・・・

55年の時を経て原田マハさんの「たゆたえども沈まず」を読み、何度も観ていたはずのゴッホの作品を改めて観て、私の心の奥深くにある「日本」への憧れがオマージュとして迫ってきました。

芸術って、時にその人生を導いてくれますね。

美術館から歩いて「鈴本演芸場」へ。恒例の「新春爆笑特別興行」の夜の部へ落語を聴きに行きました。

太神楽社中の獅子舞、追っかけをしている柳家小三治師匠、紙切りの林家正楽さん、はじめ漫才、講談、粋曲の小菊さん、他落語家の皆さん。トリは柳家三三師匠。大いに初笑いでお正月の締めくくり。

2018年 お正月も終わり、新たな年のはじまりです。
皆さまにとって良き年でありますように。

今年も宜しくお願い申し上げます。

新年のご挨拶


新春のお慶びを申し上げます。
穏やかな光に包まれた一年でありますように。
メインパーソナリティをつとめる文化放送『浜美枝のいつかあなたと』(日曜・十時半)が今年で十九年を迎えます。この番組で、多くのゲスト、そして農に携わる人々と出会い、いつもたくさんのことを学ばせていただいています。
また朝日新聞の連載『もつれた糸をほぐして』には、嬉しい反響をいただき、その声に励まされるように書き進めております。
人に恵まれ支えられ、こうした貴重な機会に巡り合ったことに感謝し、今年も前を見て、一歩一歩丁寧に進んでいきたいと思っています。
2018年 元旦 浜美枝