映画 「ニュースの真相」

何しろ主演がケイト・ブランシェットとロバート・レッド・フォードです。
ジャーナリストが主人公で実話が基の映画です。アメリカで現在も続く「60ミニッツ」は1968年から放送が始まり、現在も続くアメリカCBSテレビの報道番組です。この番組に長年携わってきたプロデューサーの自伝がベースです。
ブッシュ大統領(当時)の過去の軍歴詐称疑惑。番組のプロデューサーを演ずるのが、ケイトブランシェット。そして花形キャスター、ダン・ラザーをロバート・レッドフォードが見事に演じます。時は2004年、再選活動を展開中のブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑の大スクープを放ったのです。
この事件は世界で広く報道され、そのスクープがしかし一転して、誤報か?とバッシングに遭い、二人は番組から去らざるをえなくなります。大スクープから誤報とその過程を追うドラマは「ニュースの真実」とはなにか・・・を真正面から取り上げます。
孤立無援での真実への追求、あの事件にはこのようなことがあったのか、と思い出させてくれるのと、ドラマ仕立てにはなっているものの、報道陣の覚悟と良心が感じ取れ、同じ問題が生じたら日本では、このような映画がはたして撮れるだろうか・・・と考えてしまいました。
今年のアカデミー作品賞受賞作品は「スポットライト」もジャーナリストが主人公で実話が基になっています。スポットライトは新聞記者の勝利で終わっていますが、「ニュースの真実」は違います。主人公のプロデューサー、メアリー・メイプスはこのように語っています。
『ケイト・ブランシェットやロバート・レッドフォードのような俳優が、私たちを演じてくれるなんて・・・驚いて言葉もでなかったは。私はCBSという組織とジャーナリズム、そしてジャーナリストの仕事の清廉性や重要性を信じていたわ。』と。
彼女は2004年にテレビ局を解雇になってから2005年にエミー賞グレイシー賞、多くの賞において認められています。後年、本作の原作となった自伝「大統領の疑惑ー米大統領選を揺るがせたメディア界ー大スキャンダルの真実」を出版。現在は、テキサス州ダラスで夫と息子とともに暮しています。
インタビューで印象的だったケイト・ブランシェットのことば。
『男性が優位にある業界は多いと思うわ。メディアやニュース、特にテレビニュース業界は、明らかにそうだと思う。小さい男性社会ね。でも、私がこの映画で一番気にいっている点の一つは、メアリーが母親であること、あるいは女性であることに関してくどくどと言及していないことね。女性であることはこの映画の空気感の一部に過ぎないの。だって主人公が男性なら、奥さんや子供が登場したとしても、それは些細な側面に過ぎないはずでしょ?それよりだいじなのはストーリー。それをジェームズ(監督)はわかってるの。メアリーはあくまでも敏腕プロデューサーで、ジャーナリスト。実在の彼女が求めるストリーを観客に見せたいならそうするはず。彼女はもちろん女性だけどね』と。
女は度胸!と感じた映画でもありました。
脚本家 ジェームズ・ヴァンダービルトの初監督作品です。
素晴らしい映画でした。
映画公式HP http://truth-movie.jp/

コンビニ人間

第155回 芥川賞受賞の『コンビニ人間
大変興味深く読みました。わたしたちの生活に欠かせないコンビニエンスストアを舞台にした小説です。「コンビニエンスストアは、音で満ちている。」で始まります。
受賞なさった村田さんは、1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部を卒業後、2003年、「授乳」で、第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞して作家デビュー。2009年「ギンイロノウタ」で野間文芸新人賞、はじめ2013年、「しろいろの街の、その骨の体温の」で第26回三島由紀夫賞受賞。など活躍されている方です。
受賞発表のときの村田さんのはにかんだ感じ、授賞式の日、7月19日もコンビニで働いていた・・・というエピソードに私自身驚いたものです。つまり、私は村田さんご自身が「コンビニ人間」なのかしら・・・と思ったのです。
村田さんが書いた「コンビニ人間」は、36歳の独身の古倉恵子が主人公です。大学卒業後も就職せず、コンビニでバイトも18年目。(この辺は村田さんと一緒)コンビニで働いている時にしか生きがいを感じられません。ある日、そのコンビニに婚活目的で一人の男がやってきて、主人公の古倉に「そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい」と突き付け、物語が展開していくのですが、そのコンビニでの描写や、なにか・・・ちょっと普通ではない人間たち、もしかしたら、私など敬遠したいタイプのように映るのですが、読み進めていくうちにその主人公たちに作家は限りなく慈しみをもち、周囲からは厄介者に映る男に主人公は寛容なのです、とても。
作品の中で、36歳の独身の主人公は「結婚は?」とか「まだバイトなの?」と家族や周囲から異物扱いをされます。この本を読んでいると世の中の「普通であること」や「世間一般の価値観」に対して村田さんご自身はどのようにお考えなのかを伺いたくなりました。登場人物がとても魅力的、人間的に思えてくるのです。
村田さんはコンビニ勤務歴18年、深夜2時に起きて早朝6時まで執筆。午前8時から午後1時までコンビニ勤務。その後、喫茶店で執筆。夕食後、お風呂に入って寝る。週3回のペースで働きながら小説を書くのが、原稿が進むし、バランスが取れる・・・とおっしゃいます。作家歴13年、コンビニ店員歴18年!
ラジオにお招きしてじっくりお話しを伺いました。小さい頃から読書好きな少女で、空想壁があり、少女小説家になりたかったそうです。
みなさんはコンビニってよく利用されますか?
私の場合、住む町にはコンビニがないので、月に何回か箱根神社に参拝に行った帰りには早朝かならず寄ってみます。工事現場に行く前にトラックの助手席でお弁当を食べている人や観光客、時にはお年寄りがひとりで買い物や、様々な人に出会います。一人用の便利なお惣菜、日用品、おむすび、サンドイッチ・・・新聞や雑誌、など等。
「買い物難民」といわれるお年よりが多くいる日本列島。コンビニの役割は大きいですね。最終のバスで小田原から終点の町までバスで帰って来る時など辺りの商店の灯りは消えて真っ暗。バスの中からコンビニの煌々と光る灯りにホッとすることも。そのコンビニの中でくりひりげられているドラマの数々。「コンビニ人間」は大変興味深かったです。
芥川賞作家 村田沙耶香さんにじっくり2週にわたりお話を伺いました。ぜひラジオをお聴きください。
放送日は9月11日と18日
文化放送「浜 美枝のいつかあなたと」
日曜10時半~11時まで。


映画 「トランボ」

皆さまはこの猛暑の中、どのようにお過ごしでしょうか。
暦の上では立秋、「残暑」の波は少しずつ小さくなるのでしょうか。私の住む箱根はお蔭さまで朝夕は初秋を感じさせてくれます。
この夏はどこへも遠出はせず、ラジオの収録以外は「映画三昧」をしております。収録後だったり映画のはしごをしての”うだるような暑さ”も映画館は天国です。前回の「めぐりあう日」から「エイミー」そして今回は「トランボ」。
“永遠の妖精”オードリー・ヘップパーンの「ローマの休日」は誰が脚本を書いたのか、私は知りませんでした。そして、ハリウッド激動期の内幕を伝えるこの映画を観るまで知らないことばかりでした。
ソ連との冷戦下の1947年、共産主義者を弾圧する赤狩りが始まり、その標的にされたのがトランボ達。「ローマの休日」を書いたのは、クレジットには脚本家イアン・マクレバラン・ハンターとありますが実は違っていたのです。
1940年代~1950年代のハリウッドを舞台にした「トランボ ハリウッドにもっとも嫌われた男」は数奇な運命を辿った一人の映画人の実像とその苦悩、そして復活、家族愛、実話です。
偽名で書いた脚本、三年後には再びアカデミー賞を受賞しています。映画には実在する俳優たち、ジョン・ウェインやカーク・ダグラス、監督のサム・ウッドなどが登場し、あの時代のハリウッドの様子が良く分かる映画です。しかし・・・私はこのような状況はほとんど知りませんでした。主演のトランボ役のブライアン・クランストンは本作についてインタビューでこのように語っています。
『私は役を引き受ける時に3つの要素を考える。1つ目は脚本そのもの。感動したか?人生が少しよくなったような気持ちで劇場を後にすることができるだろうか?2時間だけでも心配事を忘れさせてくれたなら、それは価値がある2時間だ。
2つ目はセリフ。とても変わった物語でも、うまく語る必要はある。
3つ目はキャラクターだ。本作がそのすべてを満たしていることは間違いなかった。大作ではないが大きなメッセージを秘めている。その裏に大きな思想があり、人権を求めて闘うことの大切さや、この国の憲法修正第一条の意義についても語っている。言論の自由は常に守らねばならない、どんな法律もこの自由を侵すものであってはならない、政府の行いについても同じだ。これがトランボの主張なんだ。』と。
“自由を勝ち取った国、アメリカ”そんなイメージでアメリカ映画を観ていました、これまで。私はどちらかというとヨーロッパやアジアの映画が好きでよく観ます。しかし、このような映画がアメリカで創られことに驚き、またヒューマンとは何か・・・を考えさせられた映画でした。最後の彼のスピーチには思わず涙がこぼれました。
日比谷で観ましたが、中高年の人たちでいっぱいでした。
トランボの妻を演じるダイアン・レインも素晴らしいです。来週は「ニュースの真相」を観ます。今年のアカデミー作品賞は「スポットライト」でした。どちらもジャーナリストが主人公で実話が基の映画です。「大統領の陰謀」で主演したロバート・レッドフォードのフアンの私には楽しみです。
映画ってやはり素晴らしいですね。
この季節、子供の頃、お盆に乗せられた西瓜をむしゃぶりつき種を飛ばしっこしたことなどを思いだします。帰省なさった方は気をつけてお帰りください。
そして、今年も8月15日「終戦日」が巡ってきます。暗い歴史やテロの続く世界の現状から目をそらすことなく心にとどめておくために、大切にしたい「終戦日」ですね。
映画公式HP http://trumbo-movie.jp/

めぐりあう日

映画『めぐりあう日』を岩波ホールで観てまいりました。
「冬の小鳥」でデビューした韓国系フランス人の監督ウニー・ルコントの2作目の映画です。1作目で、その瑞々しさ・・・監督自身の生い立ちをめぐる映画。一人の女性の生き方に深く感銘を受け、6年ぶりの2作目を待ち望んでおりました。出生めぐる世界は前作と同様ですが、今回の主役を演ずる女優セリーヌ・サリットが繊細な心のひだを見事に演じています。
パリで理学療法士として働きながら夫と暮すパリを離れてフランスの北部の港町に8歳の息子を連れて引越します。生みの実母を探しに。そこにはフランスの法律で実母を探す困難な状況に阻まれます。
そんな彼女のもとをある一人の女性が治療で訪れます。理学療法という実際に肌に触れてする治療。アラブ系の8歳の息子の転向先の学校で給食の世話をする老女。とにかく脚本が素晴らしいし、カメラワークも心象風景のごとく観客を誘います。
主人公が悩んでいる時のシーンは特に胸が締め付けられるような感覚になります。映画ですからストーリーは細かくは書きませんが、移民の問題、養子縁組など現代社会がかかえるテーマもおり込まれ素晴らしい映画でした。
1回目11時からの回でしたが中高年の女性たちでいっぱいでした。
映画ってやはりいいですね。
映画の公式HP
http://crest-inter.co.jp/meguriauhi/