スバらしきバス

皆さんは普段バスに乗る時は、家に帰る時、買い物に出かける時、通勤通学の時など、様々だと思いますが、平田俊子さんの「スバらしきバス」を読んで「わぁ~こういうバスの大好きな方がいらっしゃるのだわ!」と感動いたしました。
私もバス大好き人間です。バスには特別な思い入れがあり、社会人デビューはバスの車掌でした。平田さんの心温まるエッセイ「スバらしきバス」はタイトル通り、バスの魅力がギュッと詰まった内容で、東京都内のバスを中心に、車内の光景がユーモアあふれる表現で綴られています。「バスに乗る楽しみの一つは乗客を観察することだ。とりわけ子どもたちを見るのは面白い」・・・と書かれておられます。ぜひ、もっとお話を伺いたいとラジオのゲストにお迎えいたしました。
詩人で作家の平田俊子さん。
1955年島根県のお生まれ。立命大学・文学部を卒業後、「鼻茸について」などで現代詩・新人賞を受賞。数々の文学賞を受賞。詩集・小説・戯曲集など数多くの作品を発表しています。
ご本の中ではバスの中で見られるささやかな日常が書かれています。私は伺いました。「お気に入りの座席はありますか?」と。「まず最前列、運転手さんの横、一番後ろの隅っこ」なのだそうです。
私も一緒。小田原から自宅の箱根町まで帰るときには早めにバス停に行き、まず最前列を狙います。視界が広く、人々の乗り降りが分かり、運転手さんの運転が見れて・・・。平田さんはあるとき後部座席に座ったまま窓の外をふと見ると、大きく立派な虹が西の空に架かっていて、ほかの乗客は誰も気づいていない。「皆さん、虹です。虹がでています」といいたいけれど度胸がない。母親と一緒に途中から乗ってきた小さな男の子が、やがて虹に気がつき「虹が出てるよ、虹が出てるよ」窓の外を指さしてその子は興奮した声で繰り返す。その声にほかの乗客たちも空を見上げて笑顔になりバスの車内が穏やかな空気に満ちたそうです。
分かりますよね、この雰囲気。私もローカルバスに乗った時など、窓の外の景色をぼんやり見ていたり、車内の子供たちの話し声に耳を傾けたり、お年寄りの方言での会話など聞いていると嬉しくなります。そして、町の浮き沈みも分かります。私が行きたかった、乗りたかったバス。東京駅八重洲口からの「犬吠崎太陽の里」にも乗っていらっしゃる。千葉交通の高速バスです。伺うと終点の一つ手前の「犬吠崎」で下車すると灯台は目の前だそうです。夏にはぜったいに”乗ろう”と思いました。目的に向かってひたすら進む日常。
あとがきで平田さんは書かれています。「わたしは気ままな一人暮らしだ。といって満たされているわけではない。からっぽの心を抱え、自分をごまかしながら、一日一日やり過ごしている。バスに乗ったからといってからっぽが満たされるわけではない。むしろ逆かもしれない。誰もいなかった車内に人が集まり、賑わい、また減っていき、最後は誰もいなくなる。何て寂しく、同時に安らぐ光景だろう。からっぽだった場所が再びからっぽに戻るのを見たくて、わたしは何度でもバスに乗るのかもしれない」と。素敵なお話をいっぱい伺いました。
ぜひラジオをお聴きください。
文化放送「浜美枝のいつかあなたと」
日曜10時半~11時
放送は6月8日です。


御所人形の世界

箱根に今年もまた御所人形が京都からきてくださいます。
御所人形は鑑賞用の人形として江戸時代中期に大成され、宮中の慶事や出産、あるいは結婚など、さまざまな祝事の際に飾られてきた由緒ある人形です。木地の肌へじかに顔料で文様をほどこした彩絵の筥や台は、奈良時代に作られたものが現在でも正倉院に伝えられていますが、この伝統はその後宮中に伝わり、現在にいたっております。
有識御人形司・十二世伊東久重氏。伊東家では初代庄五郎のころより、代々「木彫法」により制作を続けています。御所人形の特徴である白い肌の光沢は桐の木地に胡粉(牡蠣の貝殻の内側の部分をすりつぶしたもの)を50回ほども塗り重ね、磨くことによってあの美しさが生まれでるのですね。気の遠くなるような作業です。現在、伝統技法を守る人形師はきわめてすくなくなっていますが、伊東家では100年、あるいは200年たっても「修復できる」ことを守りぬいています。
その伝統は、お父様、十二世 伊東久重先生からご子息の建一さんにしっかり受け継がれています。
ご子息の伊東建一さん作のお雛さまを今年は部屋に飾りました。優しさに満ち溢れた姿、そして透き通るような白い肌。人形のもつ品格と技、愛らしさ。今回の展覧会では御所人形の原点ともいえる子どもの遊び姿も拝見できるとか。初日の5月24日は建一さんと私のギャラリートークもいたします。「お人形に込める思い」などを伺おうとおもいます。作家から直接お話を伺い、作品を拝見すると愛おしさがまた深くなります。
皇后美智子さまもこの御所人形を愛でていらっしゃるのでしょうね。
樹々の葉も優しく風にそよぎ、箱根の美しい季節。
ぜひお越しをお待ち申し上げております。
伊東建一~御所人形の世界

鎌倉散策~鎌倉文学館と報国寺

新緑を揺らす風が心地よく鎌倉まで行ってまいりました。


まず向かったのが娘の小さなアンティークショップ「フローラル」。
私自身がこういうショップをやるのが夢でしたからついつい足が向きます。


そして、歩いて10分ほどの報国寺へ。ここは鎌倉竹の寺として知られ、海外の人にも人気のスポットです(ミッシェラン・三ツ星)。
境内に一歩入ると見事な竹林。
爽やかな5月の風が吹きぬけ気持ちよいお寺の庭です。
そして”やぐら”と呼ばれる鎌倉時代の墳墓も素晴らしいです。
散策はゆっくり抹茶でも頂きながら過ごしたかったのですが、午後は鎌倉文学館に行く予定でしたので、今回は庭散策だけでした。
(鎌倉駅から京急バス乗車10分、浄明寺バス停下車徒歩3分)


そして、お薦めは道路反対側の釜めし「多可邑(たかむら)」の海鮮釜めし。
もう・・・絶品です。
あぶらとり一枚もらふ薄厚かな    日野草城


そんな汗ばむような陽気でしたが、釜めしをフウフウ言いながら娘とお昼を食べて駅まで戻り、江ノ電で鎌倉文学館へと向かいました。
鎌倉文学館は、国登録有形文化財で旧前田公爵家別邸。鎌倉ゆかりの文学者の展示がされており、建物に入るまでの道のりが素敵。青葉を渡る風に”薫風”とでもいうのでしょうか、かぐわしい香りを運んでくれ、心地よいこと。


今回、文学館では特別展「愛とブンガク」が開催されていたのです。
夏目漱石、芥川龍之介、三島由紀夫、立原正秋、川端康成・・・など館内のご挨拶に「江戸から明治へ時代が移り、西洋から近代的な”愛”の概念が輸入され、日本に”恋愛”という言葉が誕生したといわれます。
それから100年有余年、「ブンガク」の大きなテーマ”愛”について多くの小説が書かれてきました。そうした作品を、現代の女性作家が見つめなおします」このように書かれていました。
中沢けい、高樹のぶ子、小川洋子、角田光代、柳美里など現代を代表する女性作家の方々の解釈が大変興味深かったです。
私、恋愛小説って大好きです。トルストイの『アンナ・カレーニナ』など意味も分からず読んだ少女時代。もちろん、いろいろなジャンルの小説は好きです。柳美里さんは、芥川龍之介を「小説の中の”暮らし”」と題して書かれています。
高樹のぶ子さんは立原正秋を「花と刃(やいば)」と題して書かれています。
立原正秋の「薪能」は好きな小説です。
館内を回ると作家の直筆の原稿を見ることができます。そこに作家の息づかいや、空気間、鼓動など五感が感じられ至福のひとときでした。
愛は一直線である。  夏目漱石「野分」より


そして何より気持ちがよかったのが、広大な敷地に手入れされた庭園とバラ園の散策。ほぼ満開に近いバラ。その薔薇の種類は194種、234株に及ぶそうです。


心地よい風に送られて、江ノ電に乗り鎌倉の散策を終えて箱根の山に戻りました。小さな旅気分。
「愛とブンガク」特別展は7月6日まで。
バラまつりは5月14日から6月8日まで。

『家めしこそ、最高のごちそうである。』

作家でジャーナリストの佐々木俊尚さんの書かれた本(マガジンハウス)です。
毎日新聞の記者時代はそれこそ寝る時間もなかったそうです。
警視庁捜査一課という殺人を扱う部署担当で激務の毎日。
とうとう病魔に襲われ、大きな脳腫瘍がみつかり手術をし、復帰後は取材部署を移してもらっての生活。最終的には退職しフリージャーナリストとして、IT・メディア分野を中心に執筆し、忙しい日々のかたわらほぼ毎日自宅で料理を作っておられます。
本の”はじめに”に「この本のメッセージはたいへんシンプルです。ひとことで言えば次のようなこと。値段の高いスーツを着て食べに行くフレンチレストランみたいな派手な「美食」ではなく、かといって散らかった家でジャージを着てむさぼり食うコンビニ弁当や「鍋の素」でつくった人工的な味の鍋のごとき「ファスト食」でもない。さらにいえば、やたらと無農薬有機野菜やオーガニックにこだわる「自然食派」でもない。その外側に、もっと別の素晴らしい食文化が可能なのでは、というメッセージです。しっくりなじむ洗いざらいの綿のパンツと清潔なシャツを着て簡素な台所に立ち、素早く手軽に、しかもお金をかけずに健康的で美味しい家めしをつくる。そういう生活が、いま求められているのではないでしょうか。」・・・と書かれています。
奥さまと二人暮らしで、外食の予定がないときは朝と晩、毎日作っておられるとの事。私は1943年生まれ。佐々木さんは1961年生まれ。私70歳、佐々木さん52歳。1970年代の家庭料理ってどんな感じだったのでしょうか。ご本の中にも書かれていますが、作家・向田邦子さんのドラマ『寺内貫太郎一家』や『あ・うん』など向田さんのホームドラマに出てくる食卓風景。今ほど食材も豊かではありませんでしたよね。外食なんてほとんどありません。たいへん興味深いご本でしたのでラジオにゲストとしてお越しいただきました。まず「家めし」という言葉の響きがいいですよね。男性的で力強さを感じつつ、誰かと一緒に食べたいという温かさもあります。
バブル時代の外食ブーム以降、家庭料理がどう変化し、どのような状態になっているのか・・・をお聞きした中で、興味深かったのが冷凍食品やスーパーのお惣菜等の進化に押されているものの伝統的な家庭料理が復活しているそうです。
なんとその狼煙をあげたのは「ヤンママ・ギャルママ」たちなのだそうです。
「え~そうなのですか!」と思わず伺ってしまいました。彼女たちはだいたい二十代前半くらいで、なかには十代で子どもを生んでいる人もいます。子育てで忙しいから仕事は難しく、同じように若い夫の収入に頼って生活をしていて、お金には余裕がありません。その分時間には余裕があり、地方などに住んでいればご主人は、そう遠くには勤めていませんから帰宅も早く、家族で食事をする時間がとれるそうです。お金はないけど時間があって、家族で食事ができる。人気なのが「なんちゃって」レシピ。ちくわに海苔を重ねて照り焼きして「なんちゃってウナギの蒲焼」・・・お金がないから冷凍食品もひかえます。醤油・味噌・酢といった基礎調味料を使うそうなのです。佐々木さんはおっしゃいます。「それがギャルママ料理の特徴です」と。
なるほどね・・・。
洋服は自分で作り、食費は「なんちゃって」で倹約。正直私などは地下鉄に子どもをバギーに乗せ、高いヒールで乗り込む彼女達に「???」と思っていましたが、なるほど、と納得できた部分もありました。
最近の家めしって、「手抜き」と「やり過ぎ」の両極端になっていると思います。ともおっしゃいます。本の中には簡単でセンスのいい料理の数々が載っています。参考にしたい料理が満載。中でも本を読んですぐに実践した料理。これはご一緒している寺島アナウンサーも一緒でした。
『天ぷら、たったひとつの冴えたやり方』
なかなか家ではパリっと揚げられませんよね。それはころもに水のかわりに焼酎を、揚げ油にオリーブ油を使うこと。焼酎はなんでもかまいません。オリーブ油は高級品はもったいないので使ってはダメ。ちょうど我が家に友人から「タラノ芽」をいただいたので揚げてみたらびっくりするほどカラッとあがりました。それから春キャベツのお好み焼き。キャベツはざく切り、ボウルに卵を割りいれ塩はきつめににふる。そこにキャベツをドサッといれ手でしっかりかき混ぜます。卵とキャベツがからむまでしっかり焼きます。どっさりキャベツが食べられとても美味しいです。
何だか長々と書いてしまいましたが、とにかくすぐに作りたくなる料理の数々。
テクノロジーと社会の衝突をテーマにした本をたくさんだされてきた佐々木さん。「これからは会社に安住できる時代は終わり、個人と個人がつながってさまざまな生き方を模索していくようになる」とおっしゃいます。まさに「家めし」のあり方を考える時代ですね。
「文化放送、浜美枝のいつかあなたと」
放送は5月11日(日)日曜10時半~11時
ぜひお聴きください。


映画のハシゴ

ゴールデン・ウイーク、皆さまはどのようにお過ごしでしょうか。旅に出かけた方もいらっしゃるでしょう。私は先週、今週と映画のハシゴをしました。
「あなたを抱きしめる日まで」
「美しい絵の崩壊(試写)」
「8月の家族たち」
そして見落していた「大統領執事の涙」
ひょんなことで女優になってしまった私。そう、スカウトされたのです。私は中学を出てすぐ働いていました。一年間、バスの車掌になりました。必要に迫られて働きました。 生きることに一生懸命でした。生活がかかっていましたから。中卒でできる仕事というのは、あの時代でも非常にすくなかったのです。バスの車掌になり三年間勤め上げると、試験を受けて、ガイドになることができたのです。なによりもお給料がよかったのです。大卒の方が一万二千円の時代に、私は九千円いただいていました。
それまでに観た映画は「路傍の石」と「赤い靴」ぐらいでした。才能もなければ、基礎の勉強もしていなかった私は、一方でやめたほうがいいのではないかという思いも捨てきれずにあったのです。
そんな頃、仕事で画家の岩田専太郎先生に出会いました。
私はおもわず先生にこう申し上げたのです。
「私、女優をやめたいのです。才能もないし、ちっとも上手なわけもありません。女優を辞めても今なら違う職業につけそうな気がします」と。
すると先生は、「そうだね。君はへただねぇ」とおっしゃるじゃありませんか。先生は、こうもおっしゃいました。「浜君、人生というものは、生涯学ぶものだよ。何をやってもいい。仕事を替えてもいいよ。君は女優として、あまりうまくないから、大成しないかもしれない。でもね、365日、365人の人に出会いなさい。会うことで、キミは何かをみつけていくだろう。答えは自分で探すしかないのだから」・・・と。今、思うと、そのときの岩田先生の言葉が私を前へと進ませてくれたのだと思います。
映画もそうですね。
歳を重ねてから観るとより深く、より愛おしく、そして感動を与えてくれます。
10代から観続けてきた映画。映画のない人生って考えられません。
本と映画が私の青春でした。でも70歳になってから観てこそ胸にさらに響いたのでしょうか。
ストーリーはあえて載せませんが、ハシゴした映画を少しご紹介。
あなたを抱きしめる日まで
50年間隠し続けた秘密を告白し、奪い去られた息子を探す旅に出た主婦フィロミナ。主演はイギリスを代表する女優ジュディ・デンチ。旅を共にする皮肉屋で信仰心がない元エリート記者はスティーヴ・クーガン。監督はやはりイギリスを代表する・スティーヴン・フリアーズ。
美しい絵の崩壊
原作は歴代最高齢(88歳)でノーベル文学賞を受賞した英国の女性作家ドリス・レッシング。彼女が83歳の時の作品。これほどまでに瑞々しい感性にただただ感動しました。美しい絵はいかにして崩壊し、どんな結末を迎えるのか。親友同士の母親と、その若き息子たち。純粋ゆえに禁断の愛の行方は。(5月31日ロードショー)
8月の家族たち
主演はメリル・ストリープとジュリア・ロバーツ。この二人の名前を聞くだけで胸がドキドキします。彼女たちの芝居・演技はただ息を呑むばかり。豊かでリアルで確かな演技力には、最近観た映画の中でも圧巻。信じられない贅沢な2時間でした。家族とは何か?を考えさせられるテーマです。
大統領執事の涙
オバマ大統領が来日したその時間に観ていた映画です。人権問題をこのような角度から捉えた映画も少ないし、見終わった後に生きる強さ、忍耐、優しさ・・・さまざまなことを与えてくれました。
そう、5月10日ロードショーのアカデミー賞主演女優賞受賞のウディ・アレン監督最新作の『ブルージャスミン』も観たいです。
演ずるという女優を卒業し30年がたちますが、ますます映画が愛おしくなります。