映画『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』

2001年9月11日のアメリカから送られてきたあの映像に衝撃をうけ、同時テロの後、「イラクが大量破壊兵器を保有している」ことを発表しイラク戦争へと突入する報道を私は当時何も疑わずに画像を見たり、新聞を読んでいました。

当時のブッシュ政権は、テロ組織アル・カーイダの本拠地があるアフガニスタンだけではなくイラクも攻撃し、多くの一般人も巻き添えにしての進攻でした。「大量破壊兵器」は本当にあったのか・・・。

あれから時を経て、今回の映画「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」を観ました。ロブ・ライナー監督作品。「スタンド・バイ・ミー」「恋人たちの予感」など娯楽作品の数々を世に送り続けヒットさせてきた監督が、執念で映画化したといわれるこの実話を基に映画化された作品に、正直に言って私はとても大きな衝撃をうけました。

満員の劇場内。第一印象は「よくこのような映画をつくることができたこと」への驚きと米国の民主主義の底力、”真実を伝える覚悟”にまず驚きと畏敬の念をいだきました。

あの戦争は”嘘”だったこと。大手メディアは軒並みこの権力の暴走を止めることなく報道を進めていましたし、私は日本の報道でそうだと思い込んでいましたが、政府のウソを鵜呑みにするなか、中堅新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局は、そのニセ情報に疑問を抱き、4人の記者が当時のニュース映像などを交え、米政府が情報を捏造していたこと、大手新聞社が政府の方針を追認していた実態を明らかにしていきます。

封切に来日した監督はインタビューで「政府を批判する内容だけに制作は難航した。撮影数日前に、一部の出資者から降りると言われ、自腹を切って制作した。それでもこの映画を作る価値はあると思った」と語っています。

撮影にあたり出演予定だったワシントン支局長役の俳優が急遽降板したので「どうしようかと思っていたら、妻が『あなたがやればスケジュールもあいているでしょ』のひと言ででやったんだ(笑)とのことですが、俳優でもある監督がいい味だしているのです。

現場には実際モデルになった記者達がほとんど付き合ってくれアドバイスをくれたそうです。骨太の映画ですが、記者同士のかけあいなど楽しくみられます。英語のニュアンスの分からない私は笑うことができないところで、劇場内での笑い。さすが、ロブ・ライナー監督です。

監督はインタビューで『世界は今、大きな岐路に立っている。例えば気候変動、例えば独裁主義の台頭。世界で起っていること、あるいは政治について感じることを表現していきたいと思っている。』

そして『観客に人生の1~2時間を削ってもらって、しかも暗い部屋で作品に関与してもらうわけだから、何か提供しなくてはいけないと思っている。どんな暗い作品でも、ユーモアとのミックスを大切にしているんだよ』との新聞記事を読みますますロブ・ライナー監督のファンになりました。

私たちは”ウソ”を見抜く目をたえず持ち続けなければいけませんよね。”鵜呑み”にしてはいけませんよね!だってそれらを許していたらその”ツケ”は未来の子ども達につながってしまうのですから。

後味のいい、そして深く考えさせられる映画でした。

映画公式サイト
http://reporters-movie.jp/

奇想の系譜展~江戸絵画ミラクルワールド

上野公園は満開に開花した桜を愛でる人々で賑わっておりますが、私がこの展覧会を観にいったのは1週間ほど前。5分咲きでしたが、それでも賑わっておりました。

会場の「東京都美術館」は午後1時でもかなりの人がチケット売り場に並んでいます。「江戸アヴァンギャルド一挙集結!」とあります。美術史家・辻惟雄(1932年~)が1970年に著した「奇想の系譜」。その著作に基づいた江戸時代の「奇想の絵画」展の決定版といわれています。

今もっとも人気のある「伊藤若沖」。そして狩野派きっての知性派といわれる狩野山雪、歌川国芳など8名の作品が一堂に会しました。

いまや超人気の若冲。会場に入ると、いきなり巨大な白象と黒鯨に対面する。お~~と「象と鯨図屏風」に出くわします。のけぞるほどの迫力、ユルキャラのようにデフォルメされた白象、鯨は潮を吹く背中しか見えません。この絵画を観たかったのです。

しかし、これまで美術展に行き、目的の絵画に出会うまでのウォーミングアップが楽しみなのですが、今回はいきなりです。自由で斬新な発想、まさに江戸のアヴァンギャルド!

因襲の殻をやぶり描かれていますが、一方初期の作品「紫陽花双鶏図」は観察しつくした緻密な鶏と紫陽花には若き頃の若冲の才能を感じられます。(米国・ブライスコレクション所蔵)

そして、目的のもう一枚。狩野山雪の「梅花遊禽図襖」(ばいかゆうきんずふすま)は花鳥画と見えますが主役は花でも鳥でもなく、画面中央をもだえるように枝が描かれているのです。

上に伸びようとしている枝が押さえつけられでも、小枝は真っ直ぐに伸び・・・この非現実的な世界に魅了されます。こうして江戸時代に”アヴァンギャルド”が存在し、現代の私たちの目の前に現れてくれる・・・本物に出逢う、体験し、感じ、感動する。もうすぐ終わってしまいますが4月7日までです。

上野公園・東京都美術館にて開催中。
https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_kisounokeifu.html

『骨まで愛して 粗屋五郎の築地物語』

ご存知、発酵学者の小泉武夫さんが、魚の頭や骨などの「粗」をテーマにした小説をお書きになりました。皮からジュルジュルコラーゲン、骨酒グビグビコピリンコ、目玉の周りはトロットロ!と帯に書かれております。

これが実に美味しそうで、読んでいるとお腹がグーグー鳴り、ヨダレがでてくるほどなのです。あらすじは福島県いわき市出身の主人公が集団就職で上京して以来、築地一筋。築地ナンバーワンのマグロ捌き職人として有名でしたが、55歳で勤めていた仲卸をやめて、子どもの頃から好きだった魚の粗だけを使うお店をオープンさせます。

場所は、築地四丁目の路地裏。鳥海五郎の人柄と腕にひかれた様々なお客さんがやってきて・・・という風に物語りは展開していきます。

小泉さんは東京農業大学名誉教授・農学博士で、鹿児島大学、琉球大学などの客員教授を務めるかたわら、食に関わる様々な活動を展開し、和食の魅力を広げ、辺境の旅を愛し、世界の珍味、奇妙な食べ物に挑戦する「食の冒険家」でもあります。

とにかく小泉さんは大変な”くいしんぼう”。といってもご自分で何でも料理をしてしまいます。このご本に出てくる料理のレシピはほとんど小泉さんのもの。

烏賊の腸煮、皮剥の肝和、煮こごりをぶっかけ丼・・・などなど食前酒にはヒラメの骨酒、河豚の鰭酒、暑い日にはキリリと冷やした日本酒に海鼠の腸をいれた海鼠腸(このわた)酒。

調味料にもこだわり、醤油は千葉・銚子や和歌山湯浅の老舗から。味噌も赤は仙台、豆は尾張・・・というように。

料理好きな小泉さんは「食摩亭」と名付けた自宅の台所でご自分で粗もさばいているそうです。福島県小野町出身。母を早くに亡くし、祖母のこしらえる料理で育てられ「うまい、からだにいい」粗料理で育てられました。

ご著書を拝読していて粗は無駄でなく立派な食材であると教えられます。そういえば、亡くなった私の熊本の祖母も「骨まで愛して」派、煮魚の残った骨にお湯をかけ美味しそうに最後まで食しておりましたね。

ぜひお話を直接お伺いしたいとラジオのゲストにお招きいたしました。

一番好きなのは書くこと。出された本は140冊は超えているそうです。小説の中に「食品廃棄物」の問題も出てきます。食には恵まれた日本。でも”フードロス”は国民みんなで考えなければいけない問題ですよね。

スタジオの小泉さんは「うま味と甘みがチュルチュルと」「ペナペナとしたコクが囃して」「見るだけで涎がピュルと沸きでて」など音で表現する様に、もう~たまりません。

ご本の中には千葉にある「粗神様」もでてまいります。

スタジオの小泉さんはおっしゃいます。「この本には5つの学問がある」と。

『調理学・環境学・民俗学・芸能・発酵学』

飽食社会への警鐘・・・とも受け取れます。かたや「子ども食堂」の問題が全国にひろがりつつあります。世界に目を向ければ飢餓に苦しむ子ども達がいます。『食の問題』は深いですね。

文化放送「浜 美枝のいつかあなたと」
4月14日 日曜日
10時半~11時 放送

映画『グリーンブック』

2月末に発表された米アカデミー賞で作品賞など3部門を獲得した「グリーンブック」を観てまいりました。

「グリーンブック」とは、黒人が利用できる施設を記した旅行案内本。人種差別が色濃い1960年代の米国を舞台に、白人と黒人の交流をユーモラスに描いています。

人種差別が公然とされていた時代の実話を基に描かれた映画です。主人公は、がさつなイタリア系白人で、過去にニューヨークで用心棒をしていた運転手。そして黒人の天才ピアニスト、ドクタードナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ)は、カーネギーホールの上に住む裕福で教養もある人物。

自分をちやほやしている進歩的な白人の目にさらされていることに疑問を感じ、あえて差別の最も強い南部へ演奏旅行にでます。招かれたどんな豪邸やホールでも、トイレは別、控え室も別という理不尽な扱いも受け入れます。

偏見をテーマにする作品ですが、ファレリー監督は随所にユーモアをちりばめ、ジョークで観客を魅了させます。内面に深い悩みを抱えるシャーリーが、南部を移動中に過酷な農作業をしている同胞を車窓から眺めるシーンは胸が熱くなります。二人は旅を通じて分かり合い、、友情を深めていきます。

監督は来日した時に新聞のインタビューにこう語っています。

「50年ほど前の話だが、現代を生きる我々の心に響く部分があると感じた。残念ながら、今のアメリカは、そこからほとんど変わっていない。その愚かさを見る人に感じてもらいたかった。」

伝えたかったのは『希望』だ。とも。

複雑な内面を持つピアニストを繊細に演じたマハーシャラ・アリは「ムーンライト」に続いて2度のアカデミー賞助演男優賞に輝きました。

1970年代後半、私は南アフリカを旅しました。ケープタウンのテーブルマウンテンにロープウェーで上がっていた時に、下を見ると黒人家族がピクニックに行くのに歩いて山を登っていました。飛行場のトイレも別。乗るバスも別。非常にショックを覚えたのがよみがえりました。たった半世紀前のことなのですね。

そして、今回の映画で、現在はロサンゼルス映画批評家教会会長、米公共ラジオNPRの映画番組解説者のクラウディア・プイグさんは『この作品は「差別の現実」をみていない。いつから人種差別は愉快な話になったのか。実話に基づいているとしても、深刻なテーマにユーモアを見つけようとするのは、無知で浅はかだ。演技力は強いのに、シナリオが単純すぎるし、しばしば不愉快ですらある。(中略)表面的なユーモアを探すあまり、現実にある人種差別を過小評価している。もし、米国に人種をめぐる一触即発の状況がなければ、もっと好意的に受け止められたかもしれない。人種差別は過去のものだという誤った認識をもつ白人に心地よい内容になっている。』とコメントしています。

私にはこうした人種差別やアメリカ社会の深層は正直よくわかりません。(それではいけないのでしょうが)ただ映画を通して、黒人の勇気 白人の敬意・・・旅を通じてわかりあう友情、偏見の愚かさ、など、アメリカ社会の多様性に挑んだ映画人たちのメッセージはしっかりと受け取れました。

映画公式サイト
https://gaga.ne.jp/greenbook/

春の陽光を浴びながら青山界隈の散策

毎月一度は通う美容院の入り口のミモザが満開でした。そしてここは一軒家なのでガラスの窓からは陽光が射し、天井が高いのでのんびり過ごせる私の大切なひとときなのです。

先日、美容院の帰りに辺りを散策し、目的の根津美術館へと向かいました。青山通りからちょっと入っているだけで静かな住宅街。ぶらぶら歩いていたら見つけました!「タイ料理」の小さなお店。

遅いランチでいただいたのがパッタイ(890円)。サイドオーダーで大好きなコリアンダー(100円)をたっぷりのせて。美味しかった!また今度ぜひ行きたいです。

そしてまた歩いていたら何だか木材に覆われた建物。中を覗くと台湾のパイナップル菓子(月餅のような…でもちょっと違うの)屋さん。二階を覗くとカフェのよう。「お茶いただけますか?」と伺うとなんとなんと、ブログに載せていいのかしら~。でも教えたくなります!そこはカフェではなく、その日によってですが無料で台湾のお茶とパイナップル菓子を振舞ってくださいます。

何でもオーナーが台湾でパイナップル畑のオーナーでもあり、お菓子作りもしているとの事。”皆さんに知っていただきたいので”と、店員さん。この建物は、あの東京オリンピックスタジアムの設計も手掛けている隈研吾さんの設計だそうです。

帰りに少しだけお土産にお菓子を買いました。パイナップルがしっかり入っていて美味しかったです。不思議な空間でした。

さて、ぶらぶらウィンドウショッピングをしながら目的地の根津美術館へ。この美術館は展覧会を観た後に四季折々の庭の散策が楽しいのです。国宝7点、重要文化財87点など日本と東洋の古美術約7,400点を収蔵していますから、季節ごとの展示が素晴らしいです。

今回の展覧会は『ほとけをめぐる花の美術』です。

仏教美術に描かれる花に着目した展覧会です。泥の中から伸び、水に触れることなく清らかに咲くハスの花は、”蓮華(れんげ)”と呼ばれ、仏教を象徴する花ですが、沙羅も知られていますよね。今回私が見たかったインドに咲く、脇の下から釈迦が誕生したという”無憂樹”(むゆうじゅ)や、釈迦が悟りを開いた時に敷いていたという”吉祥草”(きちじょうそう)など、それらの花が写真でみられますし、解説がついています。

想像上の花”宝相華”(ほうそうげ)や”宝樹”(ほうじゅ)、日本の聖地に咲く桜など、30数点の仏教絵画に描かれたさまざまな花をみることができます。経箱など工芸品も展示されています。仏をより荘厳に、どのような花が描かれるのか・・・興味深い展覧会でした。

ガンダーラの石仏に惹かれインドを10年近く旅してから半世紀がたちます。こうして青山の真ん中で仏さまにめぐり逢えるなんて幸せ。そしてお庭を散策しました。この頃に吹く西風が、西方浄土から現世に吹く『涅槃西風』というのだそうですね。まだ冷たさが残る風ですが、この涅槃西風が吹き静まると寒さも終わり、春を迎えます。

美容院からタイ料理、台湾のお菓子に、ほとけをめぐる花。幸せな一日でした。根津美術館は表参道から歩いて10分ほどです。3月31日まで。

根津美術館公式サイト
http://www.nezu-muse.or.jp/

映画『あなたは まだ 帰ってこない』

フランス文学を代表する女流作家、マルグリット・デュラス原作の自伝的原作「苦悩」(河出書房新社刊)を見事なまでに映画化された作品。

ナチス占領下のパリで、女たちはそれぞれ愛する人の帰りを待つ。第二次世界大戦時のナチス占領下のパリ。1944年、マルグリット・デュラス(1914~96)が30歳の時の話です。

「愛人ラマン」の翌年70歳でこの「苦悩」を発表しています。「愛人ラマン」は、ゴンクール賞を受賞し、ベストセラーになります。

今回は自身の愛と、その苦しみが戦争の記憶ととともに語られます。1985年刊行された「苦悩」は、デュラス自身が「私の生涯でもっとも重要なものの、一つである」と語っています。

監督はゴダールなどの助監督を務め、その才能は高い評価がされているエマニュエル・フインケル。主演は私の大好きな「海の上のピアニスト」に主演したメラニー・ティエリー。

ドイツ占領下のパリで抵抗運動に身を投じるデュラスと夫。ゲシュタボは夫を逮捕し、手先とデュラスが接触し、アジトを探ります。

この映画は”夫を待ちながら”デュラスは愛人マスコロ(バンジャマン・ピオレ)の理解と協力で手先の誘惑・裏切り・・・など彼女は夫の消息を知りたい、と願います。

複雑な国際政治の流れの中で脱出に失敗した夫を愛人と仲間たちが助けだします。8月パリ解放。瀕死の夫を1年の看病後、「愛人の子どもが欲しい」と、妻は離婚を申し出ます。命がけで助けた夫。画面には夫の海辺で療養している横顔しか登場しません。極限状態においての『愛』。彼女を誘惑する手先の男の『愛』。愛人の『愛』。

作家としてのデュラスの生きる姿に正義感や道徳・・・などといった判断は簡単には当てはまりません。作家の冷徹な目、燃え尽きた愛のなかでは生きていけない女。やはりフランスならではの女の生き方です。(と、言っていいのか・・・)

愛とは歓びなのか、苦しみなのか、あるいは待つことなのか?すべての女性に突き付けられる、愛の葛藤とパンフレットには書かれていました。成熟した大人の映画でした。

渋谷Bunkamura Le Cinemaにて。
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/

辞世のうた – 先人たちが残した魂のメッセージ

歴史上の人物が、五・七・五・七・七の三十一文字に思いをこめてこの世に残した「辞世のうた」(ワニブックス「PLUS」新書)をお書きになったのは歌人の田中章義さんです。

涙が出てしまうようなうた、背中を押してくれるようなうた、ユーモアのあるうた、様々です。

田中さんは、1970年、静岡県のお生まれ。慶応義塾大学1年生の時、角川短歌賞を受賞し、その後、短歌にとどまらず、ラジオ、テレビの出演、絵本、紀行文、人物ルポルタージュの執筆など幅広く活躍し、現在、國學院大學で教鞭をとっておられます。

現代社会ではインターネット、SNSなど、ましてや遺言状は書いても”辞世のうた”を詠む・・・などありませんよね。31文字の中に先人たちの生き方や考え方を学びます。

ラジオ「浜美枝のいつかあなたと」にお招きし、そもそも私など”短歌を詠む”なんてことはできませんし、日本人なら誰でもが知る人々が、人生の最後に何を語ろうとしているのかをお聞きしました。

まずは教科書で学ぶもの・・・と思っていた私。旅などしていて”あ~、短歌が詠めたらこの風景・光景、この感動をどのように詠むのかしら・・・”とたびたび思います。

「最初は好きなうたの真似で一文字自分の感じた言葉を当てはめ、それでもいいのですよ!音楽のリズムのように、歌うように詠んでもいいのですよ」と田中さんはおっしゃいます。

が、なかなか簡単ではありません。ご本の中で田中さんはおっしゃいます。

『辞世のうたと向き合うことは、今という時間の尊さと対峙することに他ならない』と。

そうですよね、あの時これをしておけば、と後悔しても始まらないのが人生・・・とも。分かっていてもなかなかできないものです。そこで、今回は田中さんのご本の中から先人の詠んだうたを一部ご紹介いたしますね。

高杉晋作
「おもしろきこともなき世をおもしろくすみなすものは心なりけり」

豊臣秀吉
「露と落ち露と消えにし我が身かな難破の事も夢のまた夢」

源義経
「後の世もまた後の世も廻りあへ染む紫の雲の上まで」

千利休
「提(ひっさぐ)るわが得具足の一つ 太刀今この時ぞ天に抛(なげうつ)」

新島八重
「若松のわが古里に来てみればさきたつものはなみだなりけり」

金田一京助
「道のべに咲くやこの花花にだにえにしなくしてわが逢ふべしや」

牧野富太郎
「朝夕に草木を吾の友とせば心さびしき折ふしもなし」

市川海老蔵(三代目)
「極楽と歌舞の太鼓に明烏 今より西の芝居へぞ行く」

近松門左衛門
「それぞ辞世さるほどにさてもその後に残る桜が花し匂はば」

石川啄木
「今日もまた胸に痛みあり。死ぬならば、ふるさとに行きて死なむと思ふ。」

和泉式部
「生くべくも思ほえぬかな別れにし人の心ぞ命なりける」

紫式部
「誰か世にながらへて見る書きとめし跡は消えせぬ形見なれども」

小林一茶
「ああままよ生きても亀の百分の一」

田中さんの「辞世のうた」はまだまだ興味深く、そして歴史背景、その詠んだ刻の心情などが綴られていて大変興味深いです。スタジオでのお話は、ユーモアをまじえ語ってくださいます。ぜひラジオもお聴きください。

文化放送 「浜 美枝のいつかあなたと」
3月3日
日曜10時半~11時放送

映画『ヴィクトリア女王・最期の秘密』

歴史から消された、女王の感動の物語。

1837年に即位し、63年にわたって大英帝国に君臨したヴィクトリア女王。しかし、夫アルバートの死後、約10年もの間、公の場から姿を消します。

孤独な王室での生活。従僕を寵愛した逸話は「Queen Victoria-至上の恋」(1997年)として映画化されましたが、今回の映画も1934年生まれ、イギリス、ヨーク出身のジュディ・デンチが演じます。

数々の映画でアカデミー賞を受賞し、皆さんは007シリーズの”M”役でもご存知でしょうね。2005年には名誉勲位を授与されていますし、イギリスが誇る女優が見事に”ヴィクトリア女王”を、それも2度目の女王を演じています。

孤独な女王の晩年を輝かせたのは、インド人従者でした。近年になってイスラムの言語ウルドゥー語で書かれた女王の日記が発見され、これをもとに書かれた小説が映画化されたのです。

老いて孤独が深まる女王の前に即位50周年の式典に記念金貨を英領インドから贈呈役としてやってきた青年アブデュル(アリ・ファザル)彼が中々知的で長身の美男子。1986年インド、ラクナウ出身で、優しさに満ちた青年を演じています。私もひと目ぼれ。王室の作法を無視した振る舞いに周囲は反発し、女王の死後、皇太子が2人の関係を示す全てを破棄してしまったので、日記が見つかるまでこの事実は世の中には知られていませんでした。

「私は愚かな年寄り。生きている意味がある?」
「己のためでなく大儀のために生きるのです」
イスラム教徒のアブドゥルは、父を心の師「ムンシ」として慕ってきたという。
「ならば、あなたは私の先生”ムンシ”よ。」

こうして二人の絆が結ばれていくのですが、68歳の女王がまるで少女のように蘇り輝きを放つのです。笑って、泣けて、ときには茶目っ気たっぷりの女王の個性を監督が素敵に引きだします。「クイーン」を手がけたスティーブン・フリアーズ監督、さすがです。心を許し、階級、人種、宗教の違いを超え、身分を越えた絆の深さに胸が熱くなります。

この映画の見所の一つは繊細なファッション。刺繍・レース、それは見事です。そして、ロケーションが行われたところは女王の最愛の夫アルバートが設計した離宮「オズボーン・ハウス」で映画として初めて撮影が許可されたそうです。本物のもつ重量感はいっそう観る者を引き込んでいきます。実話にもとづいた作品。

女王のときめきや、人として素直に愛することの感情。人は孤独です。女王も同じ。

心をひらくこと、人生を愛おしく想うこと、信じること、いろいろ学んだ映画でもありました。2019年はヴィクトリア生誕200年にあたるそうです。

クマのプーさん展

待ちに待った”クマのプーさん”に逢いに9日の初日、雪情報が出ている中、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムに行ってまいりました。10時開場でしたがすでに長い列ができておりました。

今回は英国ヴィクトリア・アンドアルバート博物館から、クマのプーさん原画や資料も届き、物語が生まれた背景などがしっかり分かる素晴らしい展覧会です。

以前にもブログで映画のプーさんや、児童文学者の石井桃子展について書きましたが、私は大の”プーさんファン”です。

プーさんは年齢を問わず世界中の人々に90年以上も愛されてきました。私が始めてプーさんに出会ったのは「クマのプーさん・プー横丁にたった家」を図書館で見つけたのが、10代の半ば。

プーさんと仲間のピグレット、ティガー、イーヨ、ラビットにオウル、カンガとルー親子、そしてクリストファー・ロビン。A・Aミルン作、挿絵はJ・Hダウド。石井桃子訳。

ヴィクトリア&アルバート博物館は、シェパードが描いた鉛筆画や270点以上の原画や作品に関する手紙、校正刷りや写真などが寄贈され今回の展覧会となったわけです。

原画寄贈から40年以上を経て初となる企画展。ケンブリッジ大学の図書館からはA・Aミルンの手書き原稿もふくめ、”プーさんファン”にはたまらなく魅力的な展覧会なのです。開場では原画はもちろんそうした資料を間近でじっくり鑑賞している青年や女学生たち・・・私と同世代の方々。

そうなのです。私は石井桃子さんの訳に魅せられ、10代終わりの頃(以前にもブログに載せましたが)ロサンゼルスのディズニーランドで、原画に近い大きな”プーさん”の人形に出逢い、抱えて飛行機で一緒に帰国しました。半世紀以上が経ち、現在は孫の仲間になっています。

なぜ、これほどまでに愛されるのか・・・そこには友情と、他者を受け入れることの大切さを学ぶことができるのです。そして、挿絵の中の森や橋など実存する自然がより身近に感じられるし、ユーモアもあり挿絵と文字が一体となって心をポッと温かにしてくれます。

普通の暮らしから親子の在り方、空想や子供が大切に思っていること、自然が与えてくれる豊かさ・・・全てがこの物語にはあるように思います。だから世界中の人々がこれほど魅了されるのですね。

開場は一部撮影可です。スマホで撮る若者、私はいつも持参しているコンパクトカメラで撮りました。原画の可愛いクマのプーさんを見てください。

シェパードはインクで書く前に鉛筆で登場人物の輪郭をラフスケッチしています。登場人物の動きなど試行錯誤を重ねていることなどが分かります。

4月14日まで開催されていますから、時間があったら覗いてみてください。お薦めです。

なんだか・・・心がじーんときて幸せな気分になりました。

クマのプーさん展 公式サイト
https://wp2019.jp/

映画 『天才作家の妻-40年目の真実ー』

人生の晩年を迎える夫婦の危機を見つめる心理サスペンス。
完璧な”妻”が最後に下した決断とは!?
と新聞に載っていました。

1950年代のニューヨーク、60年代と90年代のコネチカット、さらに90年代のストックホルム。

現代文学の巨匠として名高いジョセフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)と妻ジョーン(グレン・クローズ)のもとにスエーデンから早朝に電話がはいります。

「今年のノーベル賞はあなたに決りました」と。そして受賞式に出席するため夫婦は息子と一緒にスエーデンのストックホルムへと向かいます。

それまでは完璧な”妻”だった妻ジョーンは・・・この映画は心理サスペンスです。

詳しいストーリーは今回ブログには載せませんが、グレーン・クローズの表情で、目で語る静かではあるが、恐ろしいほどのリアルさでの演技には圧倒されました。

そして夫役のジョナサン・プライスの演技は舞台で培われた経験豊富な実力者らしい演技。40年連れ添った夫婦。60年代のアメリカという時代背景から、この映画を観ていかなければなりません。

妻のジョーンは才能溢れる作家志望の女性でした。しかし、日本同様に男女の社会格差があのアメリカでも現実にはけっして平等ではなかったことに驚きを覚えました。

「よき妻を演じる」「秘密を抱えた夫婦に・・・」さ~どのようなドラマが待ち受けているのでしょうか。どこにでもいる夫婦。誰でもが積み重ねていく日常。それらのヒダを演じる役者の巧みな演技。

監督、シナリオ、共に見事です。そして、この映画の素晴らしいところは「理屈では語れない”愛”が存在していること」「自立とは・・・」と我がこととして考えることができ、観終わった後に深く人生を考えられること、それもポジティブに。

女優・グレン・クローズさんの素晴らしい演技に乾杯!アカデミー賞を受賞してほしい、と思いました。観終わったあとの開放感はまた特別でした。