愛されすぎたぬいぐるみたち

2017年もあと3日。
皆さまは今年はどのような年でしたでしょうか。
来年は優しさに満ちた素敵な世の中になることを祈らざるをえません。
今年最後のブログはたまらなく愛おしい”ぬいぐるみ”のお話です。


愛されすぎたぬいぐるみたち』[写真・文マーク・ニクソン(訳・金井真弓)]を手にした時の幸福感は言葉では表せないほどのものでした。
1ケ月ほど前のことです。表紙カバーは色褪せたクマのぬいぐるみ。ページをめくると変色したり、腕が剥がれ鼻がぺっちゃんこになっていたり、持主と一緒にお嫁入りしたり「愛されすぎた」ぬいぐるみたちは”くたびれ”すぎています。
ある日、きっかけはマーク・ニクソンが「大のお気に入りのぬいぐるみを連れてきてほしい」と人々に呼びかけました。洗っていなければいないほど、そしてボロボロであればあるほど望ましい。と。
いろいろな物語や思い出が、写真に収められ本が出来上がりました。持主の涙やよだれを吸い込み、きっと抱きしめられすぎてヨレヨレになったぬいぐるみたち。でも、どのぬいぐるみも胸をはって誇らしげです。笑いや涙の思い出がつまった文章も素敵です。今年最後の素敵な贈り物。
愛されすぎたぬいぐるみたち
何もわからなかったとき、そばにいてくれた
何があろうととも、そばにいてくれた
さんざん抱きしめられ、恐怖や希望を聞かされ、
涙や鼻水を吸ってよごれた子たち
ひとりぼっちの夜は慰めてくれた
部屋の暗い隅に怪物がひそんでいたときも
だまって見守り、いつも一緒で、かばってくれるこの子たち
手ざわりはもちろん、たちまち落ち着くなつかしいにおいもすてき
この子だけの香りをかぐと、心は安らぎ、夢の国へと運ばれる
純真な心を失ったときも、子どもの世界から大人の世界へ入ったときも
秘密は絶対に守ってくれ、見返りも求めずそばにいる
広い心の持主は、やっぱりいつもぼくのクマ
M・N


私が『クマのプーさん プー横丁にたった家』[A・Aミルン作/石井桃子訳(岩波書店)]を手にしたのは1962年の年末でした。最初は昭和15年に出版されたそうです。20歳少し前のことです。



その前に出会ったのが写真の”クマのプーさん”です。アメリカ旅行の途中に出会い、飛行機で一緒に帰ってきました。大きくて抱えきれないほどでしたが、シートベルトの上にちょこんとすわり・・・。それ以来引越しのたびについてきてくれ、4人の子ども達は鼻をひっぱったり、マクラにしたり、相撲ごっこをしたり、もうクタクタでした。久しぶりに子ども達の本棚からこの本を引っ張り出し、掃除もせずに階段で読みふけり、「プーさんと本」で今年も終わろうとしています。
プーさん!私74歳になりました。あなたと出逢ってから55年がたちました。今度は孫の相手をしてくれています。仲間のクマたちも全部アンティーク。このクマさんたちと孫と遊ぶときが一番幸せです。おままごとや追いかけっこも一緒にしてくれます。私の「愛されすぎたぬいぐるみ」です。
皆さま佳き新年をお迎えくださいませ。
今年もブログをお読みいただきありがとうございました。

又吉直樹さん

先週に続き又吉直樹さんについてです。
今週ラジオ収録に又吉さんをお迎えいたしました。
放送はお正月7日なのですが、今年最後の収録でした。スタジオにお越しになられてまず、”お洒落!”と思いました。カーキ色のセーターにオレンジがかったシャツ、そしてお馴染みのヘアースタイル。やはりシャイな方ですね。かなりプライベートなことも伺いましたが、誠実に丁寧にお答えくださいました。
又吉さんは1980年、大阪府寝屋川市生まれ。
高校卒業後、芸人を目指してNSC(吉本総合芸能学院)東京校に入学。2003年、綾部祐二さんとともにお笑いコンビ「ピース」を結成し、2010年、キングオブコントで準優勝。芸人としての活動と並行し、エッセイや俳句などの文筆活動も行い、2015年、『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞なさったことは皆様よくご存知のことと思います。
これまでの著書に、『第2図書係補佐』、『東京百景』などがあり、最新作が小説第2段の『劇場』です。
まず最初に映画「火花」を観ての私の感想。そして原作者として、観た映画の感想などを伺い、私は『火花』も『劇場』も芸人に対する愛はもちろん、一人の人間を大切にする温かさ、優しいまなざしはどこからくるのか・・・ぜひ伺ってみたかったのです。
『劇場』は演劇の世界の物語ですが、主人公の僕(永田)と女優を目指して上京してきた沙希の物語です。
切なくなるほどの、ある意味純愛(なんて言葉ではいいつくせませんが)小説。しかし、この永田が複雑な男。言葉を選びながらお話くださる又吉さんの世界はぜひ実際に読んでみて、また彼の言葉でお聴きください。
もう一つぜひお話を伺いたかったことは、以前、テレビで又吉さんの仕事部屋を拝見したのですが、机やスタンド、壁に立てかけてあった一枚の絵。
大変美的感覚のある方だと思い、その辺もお話を伺いました。日々暮らしの中で、意識していることなど・・・お笑いの仕事を終えるとまず仕事部屋に向かうそうです。
「美しいと感じることが好きです」とおっしゃいます。中学の頃から太宰治や芥川龍之介などを読みふけっていたとのこと。美意識はそうしたところからも生まれたのでしょうか。
芸人としての活動と小説家としての活動を両立させていることなども伺いました。
スタジオを後にされる時、しっかり相手の目を見てご挨拶くださる又吉直樹さんはとてもチャーミングですし、セクシー(大人の男の)と感じました。
『劇場』は新潮社から発売。
放送は文化放送「浜 美枝のいつかあなたと」
来年1月7日
日曜10時半~11時


映画『火花』

又吉直樹さんの芥川賞受賞作を映画化した「火花」を観てまいりました。
2人のお笑い芸人の10年の物語です。
私は普段あまりお笑いの世界に接する機会が少ないのですが、もちろん又吉さんの原作は読んでおりますし、この原作をどのように映画化するのか・・・とても興味がありました。
挫折した2人のお笑い芸人を見事に演じている20歳の漫才師、徳永(菅田将暉さん)と4歳上の神谷(桐谷健太さん)、そして、監督は又吉さんの先輩のお笑い芸人であり、俳優であり、映画監督の板尾創路さん。
笑いを追及する二人は吉祥寺のハモニカ横丁で飲んだり、井の頭公園を歩きながら、漫才のネタを研究したり・・・その真剣さとくだらなさを言い合いながらの笑いの追及を、映像で表現するとこのようになるのだと深く感心しました。そして俳優さんたちのリアルさにはなにか・・・涙腺を刺激されドキュメンタリー映画を観ているような錯覚になりました。カメラワークが素晴らしい!演ずる舞台の上の彼らだけではなく、ソデで出を待つ姿、表情を監督はしっかりおさえています。
コンビの解散を決めた徳永が、相方のために考えたネタは、内容を知っていても泣けますし、エンディングで流れる「浅草キッド」(作詞・作曲ビートたけし)も素晴らしいです。青春を真剣に駆け抜けた映画です。
冒頭の打ち上げ花火。
ラストの花火。
切なくなりながら清々しい気持ちにさせてくれる2時間の映画でした。原作の持つ力が遺憾なく発揮されています。
実は今、又吉直樹さんの「劇場」を読んでおります。来週の私がパーソナリティーをつとめる文化放送「浜美枝のいつかあなたと」に又吉さんをゲストにお迎えするのです。お会いするのがとても楽しみです。
どんなお話を伺おうか・・・芸人と作家との狭間をどのように生きていらっしゃるのか、お聞きしたいことはいっぱいあります。
お会いしたら、来週のブログでご報告いたしますね。
とてもシャイな方とお見受けいたします。


映画公式サイト
http://hibana-movie.com

フランスの絵本の世界

師走に入り、なんとなく気ぜわしい日々。
落葉し尽くした冬の山は静かで私のもっとも好きな季節・・・。
こういう季節には”小さな旅”がしたくなるのです。
素敵な絵本の世界に誘われ、館林までの旅です。
ゾウのババールやペネロペなど子どものころの憧れだったフランスの絵本。でも私の子供時代にはとうてい無理な世界でした。大人になってから少しづつ読み始めた絵本。
そんなフランス絵本の歴史をたどることのできる展覧会が12月24日まで群馬県立館林美術館で開催されています。
鹿島茂コレクション・フランス絵本の世界』展です。


展示は、フランス文学者の鹿島さんが30年近くかけて集めてきた貴重なコレクションです。
厳選された約300点が初公開されているのです。
フランスにおいて子どものための本が発達するのは19世紀半ばだそうです。それまでの子ども達は労働力でもあったのですね。
編集・出版社のエッツェルは、作家や画家達の才能を発掘し児童書の傑作を世に送り出したことなど、よく理解できる展示になっていて、フランス絵本の黄金時代を辿るとともに「絵本」はいくつになっても憧れです。
展示では、絵本誕生の先駆的な役割を果たしたといわれるアルノー・ベルカンの「ラミ・デ・ザンファン(子どもの友)」1822年に刊行された復刊版など貴重な本などが観られます。
かわいらしく愛らしい絵本・・・
お掃除や、お片付けに忙しい師走。
ちょっと手を休め”子ども心”に戻るのも素敵なことですね。
浅草から1時間で行けるのですもの。
芝生にかこまれた美しい広場も、建築も素晴らしいです。
帰りには”冬茜”がお見送りしてくれました。
「ババールのこどもたち」の絵本を小脇に抱え帰路に着きました。


群馬県立館林美術館の公式サイト
http://www.gmat.pref.gunma.jp/ex/exnow.html

「高倉健 七つの顔を隠し続けた男」

大変興味深い本に出会い、いっきに読みました。
作者はノンフィクション作家・森功さんです。
私自身は高倉健さんとは生前一本だけ共演させていただきました。それも40年ほど前のこと。ただ鮮明に覚えております。映画の内容というより「高倉健」という方の人間性を垣間見たときです。
それは、映画のクランクイン初日のことでした。
(東映映画『捨て身ののならず者』)
そう・・・初日はロケから始まりました。東京駅の近くの旅館で仕度をし、6畳ほどの部屋で出番を待っておりました。すると『失礼します。高倉健です』と廊下で声が致しました。慌てて障子をあけると廊下に正座をなさり、あの大スターの健さんがいらっしゃるではありませんか!私も廊下に頭をつけ「こちらこそ宜しくお願いいたします」と申し上げました。もう胸はドキドキ・・・共演させていただけるだけで光栄なのに大先輩のご挨拶に恐縮し、仕事はスタートいたしました。
もちろん撮影はスムーズに進行し無事に終了いたしました。仕事の間、健さんはスタッフへの気配り、共演者への気配り・・・私は当時東宝に所属しており、東宝の空気は東映とはまた違い、でも、戸惑うことなく仕事ができたのも、そうした健さんの周囲への細やかな気配りがあったからなのだと思います。
今回の森さんのご本”七つの顔を隠し続けた男“とありますが、森さんはさすがノンフィクション作家です。日本人に最も愛された俳優の”光りと影”を見事に描かれています。
影の部分・暴力団「住吉会」の幹部たちとの交流も健さんらしい「人の道・仁義のありかた」などよく取材なさっておられます。
森さんは、健さんの母校の後輩です。(北九州市の福岡県立東築(とうちく)高校。健さんは1949年、貿易商を目指して明治大学商学部に入学しましたが、あまり真面目な大学生ではなかったようです。むしろ”やんちゃな学生”だったようです)
社会人になっても時には度を超えるほど酒と喧嘩の日々。あるきっかけで俳優となり、後に結婚する江利チエミさんのファンになり”追っかけ”をして結婚します。
このご本を読んでいるとお二人が相思相愛であったことが窺われますが、幸せと不幸が交互に訪れるような日々。チエミさんと離婚後、亡くなってからも月命日には周りに気づかれないように墓参を続けていらしたようです。
謎が多く、きっと報道などで皆さんもご記憶があると思いますが、亡くなる前に養女となった女性の存在。彼女は健さんの最期を看取ります。親族も知らなかった彼女の存在。そして遺産。謎が残ります。
やはり、直接お話を伺いたく、ラジオのゲストにお迎えいたしました。
最後に森さんは「高倉健は本名の小田剛一(たけいち)としてではなくやはり”高倉健”を演じ切り亡くなったのでしょう、それが彼の美学です」とおっしゃられました。
私は本を通して”役者の孤独・業”を感じました。
そして森さんがおっしゃる”男の美学”を感じました。
ぜひ、森さんのお話をお聴きください。
そして本をお読みください。
文化放送「浜 美枝のいつかあなたと」
放送は12月24日
日曜10時半~11時