映画『グリーンブック』

2月末に発表された米アカデミー賞で作品賞など3部門を獲得した「グリーンブック」を観てまいりました。

「グリーンブック」とは、黒人が利用できる施設を記した旅行案内本。人種差別が色濃い1960年代の米国を舞台に、白人と黒人の交流をユーモラスに描いています。

人種差別が公然とされていた時代の実話を基に描かれた映画です。主人公は、がさつなイタリア系白人で、過去にニューヨークで用心棒をしていた運転手。そして黒人の天才ピアニスト、ドクタードナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ)は、カーネギーホールの上に住む裕福で教養もある人物。

自分をちやほやしている進歩的な白人の目にさらされていることに疑問を感じ、あえて差別の最も強い南部へ演奏旅行にでます。招かれたどんな豪邸やホールでも、トイレは別、控え室も別という理不尽な扱いも受け入れます。

偏見をテーマにする作品ですが、ファレリー監督は随所にユーモアをちりばめ、ジョークで観客を魅了させます。内面に深い悩みを抱えるシャーリーが、南部を移動中に過酷な農作業をしている同胞を車窓から眺めるシーンは胸が熱くなります。二人は旅を通じて分かり合い、、友情を深めていきます。

監督は来日した時に新聞のインタビューにこう語っています。

「50年ほど前の話だが、現代を生きる我々の心に響く部分があると感じた。残念ながら、今のアメリカは、そこからほとんど変わっていない。その愚かさを見る人に感じてもらいたかった。」

伝えたかったのは『希望』だ。とも。

複雑な内面を持つピアニストを繊細に演じたマハーシャラ・アリは「ムーンライト」に続いて2度のアカデミー賞助演男優賞に輝きました。

1970年代後半、私は南アフリカを旅しました。ケープタウンのテーブルマウンテンにロープウェーで上がっていた時に、下を見ると黒人家族がピクニックに行くのに歩いて山を登っていました。飛行場のトイレも別。乗るバスも別。非常にショックを覚えたのがよみがえりました。たった半世紀前のことなのですね。

そして、今回の映画で、現在はロサンゼルス映画批評家教会会長、米公共ラジオNPRの映画番組解説者のクラウディア・プイグさんは『この作品は「差別の現実」をみていない。いつから人種差別は愉快な話になったのか。実話に基づいているとしても、深刻なテーマにユーモアを見つけようとするのは、無知で浅はかだ。演技力は強いのに、シナリオが単純すぎるし、しばしば不愉快ですらある。(中略)表面的なユーモアを探すあまり、現実にある人種差別を過小評価している。もし、米国に人種をめぐる一触即発の状況がなければ、もっと好意的に受け止められたかもしれない。人種差別は過去のものだという誤った認識をもつ白人に心地よい内容になっている。』とコメントしています。

私にはこうした人種差別やアメリカ社会の深層は正直よくわかりません。(それではいけないのでしょうが)ただ映画を通して、黒人の勇気 白人の敬意・・・旅を通じてわかりあう友情、偏見の愚かさ、など、アメリカ社会の多様性に挑んだ映画人たちのメッセージはしっかりと受け取れました。

映画公式サイト
https://gaga.ne.jp/greenbook/

春の陽光を浴びながら青山界隈の散策

毎月一度は通う美容院の入り口のミモザが満開でした。そしてここは一軒家なのでガラスの窓からは陽光が射し、天井が高いのでのんびり過ごせる私の大切なひとときなのです。

先日、美容院の帰りに辺りを散策し、目的の根津美術館へと向かいました。青山通りからちょっと入っているだけで静かな住宅街。ぶらぶら歩いていたら見つけました!「タイ料理」の小さなお店。

遅いランチでいただいたのがパッタイ(890円)。サイドオーダーで大好きなコリアンダー(100円)をたっぷりのせて。美味しかった!また今度ぜひ行きたいです。

そしてまた歩いていたら何だか木材に覆われた建物。中を覗くと台湾のパイナップル菓子(月餅のような…でもちょっと違うの)屋さん。二階を覗くとカフェのよう。「お茶いただけますか?」と伺うとなんとなんと、ブログに載せていいのかしら~。でも教えたくなります!そこはカフェではなく、その日によってですが無料で台湾のお茶とパイナップル菓子を振舞ってくださいます。

何でもオーナーが台湾でパイナップル畑のオーナーでもあり、お菓子作りもしているとの事。”皆さんに知っていただきたいので”と、店員さん。この建物は、あの東京オリンピックスタジアムの設計も手掛けている隈研吾さんの設計だそうです。

帰りに少しだけお土産にお菓子を買いました。パイナップルがしっかり入っていて美味しかったです。不思議な空間でした。

さて、ぶらぶらウィンドウショッピングをしながら目的地の根津美術館へ。この美術館は展覧会を観た後に四季折々の庭の散策が楽しいのです。国宝7点、重要文化財87点など日本と東洋の古美術約7,400点を収蔵していますから、季節ごとの展示が素晴らしいです。

今回の展覧会は『ほとけをめぐる花の美術』です。

仏教美術に描かれる花に着目した展覧会です。泥の中から伸び、水に触れることなく清らかに咲くハスの花は、”蓮華(れんげ)”と呼ばれ、仏教を象徴する花ですが、沙羅も知られていますよね。今回私が見たかったインドに咲く、脇の下から釈迦が誕生したという”無憂樹”(むゆうじゅ)や、釈迦が悟りを開いた時に敷いていたという”吉祥草”(きちじょうそう)など、それらの花が写真でみられますし、解説がついています。

想像上の花”宝相華”(ほうそうげ)や”宝樹”(ほうじゅ)、日本の聖地に咲く桜など、30数点の仏教絵画に描かれたさまざまな花をみることができます。経箱など工芸品も展示されています。仏をより荘厳に、どのような花が描かれるのか・・・興味深い展覧会でした。

ガンダーラの石仏に惹かれインドを10年近く旅してから半世紀がたちます。こうして青山の真ん中で仏さまにめぐり逢えるなんて幸せ。そしてお庭を散策しました。この頃に吹く西風が、西方浄土から現世に吹く『涅槃西風』というのだそうですね。まだ冷たさが残る風ですが、この涅槃西風が吹き静まると寒さも終わり、春を迎えます。

美容院からタイ料理、台湾のお菓子に、ほとけをめぐる花。幸せな一日でした。根津美術館は表参道から歩いて10分ほどです。3月31日まで。

根津美術館公式サイト
http://www.nezu-muse.or.jp/

映画『あなたは まだ 帰ってこない』

フランス文学を代表する女流作家、マルグリット・デュラス原作の自伝的原作「苦悩」(河出書房新社刊)を見事なまでに映画化された作品。

ナチス占領下のパリで、女たちはそれぞれ愛する人の帰りを待つ。第二次世界大戦時のナチス占領下のパリ。1944年、マルグリット・デュラス(1914~96)が30歳の時の話です。

「愛人ラマン」の翌年70歳でこの「苦悩」を発表しています。「愛人ラマン」は、ゴンクール賞を受賞し、ベストセラーになります。

今回は自身の愛と、その苦しみが戦争の記憶ととともに語られます。1985年刊行された「苦悩」は、デュラス自身が「私の生涯でもっとも重要なものの、一つである」と語っています。

監督はゴダールなどの助監督を務め、その才能は高い評価がされているエマニュエル・フインケル。主演は私の大好きな「海の上のピアニスト」に主演したメラニー・ティエリー。

ドイツ占領下のパリで抵抗運動に身を投じるデュラスと夫。ゲシュタボは夫を逮捕し、手先とデュラスが接触し、アジトを探ります。

この映画は”夫を待ちながら”デュラスは愛人マスコロ(バンジャマン・ピオレ)の理解と協力で手先の誘惑・裏切り・・・など彼女は夫の消息を知りたい、と願います。

複雑な国際政治の流れの中で脱出に失敗した夫を愛人と仲間たちが助けだします。8月パリ解放。瀕死の夫を1年の看病後、「愛人の子どもが欲しい」と、妻は離婚を申し出ます。命がけで助けた夫。画面には夫の海辺で療養している横顔しか登場しません。極限状態においての『愛』。彼女を誘惑する手先の男の『愛』。愛人の『愛』。

作家としてのデュラスの生きる姿に正義感や道徳・・・などといった判断は簡単には当てはまりません。作家の冷徹な目、燃え尽きた愛のなかでは生きていけない女。やはりフランスならではの女の生き方です。(と、言っていいのか・・・)

愛とは歓びなのか、苦しみなのか、あるいは待つことなのか?すべての女性に突き付けられる、愛の葛藤とパンフレットには書かれていました。成熟した大人の映画でした。

渋谷Bunkamura Le Cinemaにて。
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/

辞世のうた – 先人たちが残した魂のメッセージ

歴史上の人物が、五・七・五・七・七の三十一文字に思いをこめてこの世に残した「辞世のうた」(ワニブックス「PLUS」新書)をお書きになったのは歌人の田中章義さんです。

涙が出てしまうようなうた、背中を押してくれるようなうた、ユーモアのあるうた、様々です。

田中さんは、1970年、静岡県のお生まれ。慶応義塾大学1年生の時、角川短歌賞を受賞し、その後、短歌にとどまらず、ラジオ、テレビの出演、絵本、紀行文、人物ルポルタージュの執筆など幅広く活躍し、現在、國學院大學で教鞭をとっておられます。

現代社会ではインターネット、SNSなど、ましてや遺言状は書いても”辞世のうた”を詠む・・・などありませんよね。31文字の中に先人たちの生き方や考え方を学びます。

ラジオ「浜美枝のいつかあなたと」にお招きし、そもそも私など”短歌を詠む”なんてことはできませんし、日本人なら誰でもが知る人々が、人生の最後に何を語ろうとしているのかをお聞きしました。

まずは教科書で学ぶもの・・・と思っていた私。旅などしていて”あ~、短歌が詠めたらこの風景・光景、この感動をどのように詠むのかしら・・・”とたびたび思います。

「最初は好きなうたの真似で一文字自分の感じた言葉を当てはめ、それでもいいのですよ!音楽のリズムのように、歌うように詠んでもいいのですよ」と田中さんはおっしゃいます。

が、なかなか簡単ではありません。ご本の中で田中さんはおっしゃいます。

『辞世のうたと向き合うことは、今という時間の尊さと対峙することに他ならない』と。

そうですよね、あの時これをしておけば、と後悔しても始まらないのが人生・・・とも。分かっていてもなかなかできないものです。そこで、今回は田中さんのご本の中から先人の詠んだうたを一部ご紹介いたしますね。

高杉晋作
「おもしろきこともなき世をおもしろくすみなすものは心なりけり」

豊臣秀吉
「露と落ち露と消えにし我が身かな難破の事も夢のまた夢」

源義経
「後の世もまた後の世も廻りあへ染む紫の雲の上まで」

千利休
「提(ひっさぐ)るわが得具足の一つ 太刀今この時ぞ天に抛(なげうつ)」

新島八重
「若松のわが古里に来てみればさきたつものはなみだなりけり」

金田一京助
「道のべに咲くやこの花花にだにえにしなくしてわが逢ふべしや」

牧野富太郎
「朝夕に草木を吾の友とせば心さびしき折ふしもなし」

市川海老蔵(三代目)
「極楽と歌舞の太鼓に明烏 今より西の芝居へぞ行く」

近松門左衛門
「それぞ辞世さるほどにさてもその後に残る桜が花し匂はば」

石川啄木
「今日もまた胸に痛みあり。死ぬならば、ふるさとに行きて死なむと思ふ。」

和泉式部
「生くべくも思ほえぬかな別れにし人の心ぞ命なりける」

紫式部
「誰か世にながらへて見る書きとめし跡は消えせぬ形見なれども」

小林一茶
「ああままよ生きても亀の百分の一」

田中さんの「辞世のうた」はまだまだ興味深く、そして歴史背景、その詠んだ刻の心情などが綴られていて大変興味深いです。スタジオでのお話は、ユーモアをまじえ語ってくださいます。ぜひラジオもお聴きください。

文化放送 「浜 美枝のいつかあなたと」
3月3日
日曜10時半~11時放送