奈良を旅してまいりました。
賑わう奈良の街から離れたところにある奥深い山と渓谷に囲まれた室生の地、女人高野・室生寺。かつて土門拳先生が1ヶ月近く、雪舞う室生寺を撮影するために逗留した橋本旅館の前を歩きながら・・・想いました。
「魅かれるものに魅かれるままジーッと眺める。モノを長く眺めれば眺めるほど、それがそのまま胸にジーンとしみて、僕なりの見解が湧く」
(私の美学・あとがきより)
先生はどんな思いでシャッターをおされたのでしょうか・・・。
奈良から桜井、そして近鉄(大阪線)で室生口大野へ。
バスで15分ほどで室生寺へ到着します。
大自然と調和して、いつ訪れても四季おりおり移ろう佇みの美しさ。
楓の紅葉や銀杏の黄葉が深山の緑に錦を織り、夏に訪ねた涼風とはまた違った室生寺。
石段を上ると金堂(平安初期・国宝)へ。一本造りの御本尊、釈迦如来立像(平安初期・国宝)、薬師如来像、そして地蔵菩薩像。檜皮葺きの屋根、朱塗りの柱や白壁の五重塔(平安時代初期・国宝)が私を迎えてくれます。
私のもっとも好きな客仏の釈迦如来坐像が静かに・静かに佇まれており、じっくり対話ができました。
幸せな67歳の誕生日。
限りある命であることを正面から受け止めなくてはならない辛さもあるでしょう。でも、そうした孤独もつきつめていくと、その奥には、生きていることに感謝する気持ちが隠れているのですね。私は奈良の旅でそれに気づいたとき、それまでよりもいっそう、人が恋しくなったような気がします。
なにごとも、いいことだけではなく、悪いことだけでもないということなのでしょう。自分の生命を丸ごと慈しみ、おもしろがり、楽しんでいきたいと思っております。