これから80代の旅がはじまります

我が家から白い雪を抱いた富士山が見える頃となりました。

長い夏がようやく終わり、木々が色づいたかと思うや、すとんと冬がやってきました。

きーんと冷えた朝の空気を肌に肺に感じつつ、箱根の山を歩いていると、毎日、お日様があがること、季節が確実にめぐっていることに感謝の気持ちがわいてきます。

そして夜、冬空を見上げると、輝く星の光のひとつひとつが、気が遠くなるほどの時間をかけて、今ここに届いていると感じ、自分が膨大な時の流れの中に生きる、地球という小さな星の住人であると思わされます。

先日、家族とともに旅した鹿児島で、80歳の誕生日を迎えました。

鹿児島は私にとって大切な思い出の地。映画「007シリーズ」の「007は二度死ぬ」(1967年公開)に参加した時の、日本における撮影地のひとつが鹿児島でした。私が22歳のときのことです。

邦画の撮影と何もかも異なり、移動はヘリコプター、食事はシェフ付きのキッチンカー、まわりに飛び交うのは英語だけと、戸惑うことも少なくありませんでしたが、その中で得難い経験もたくさんさせていただきました。

どんなに撮影が押していても、朝10時と午後3時のティータイムを楽しむというのもそのひとつでした。時間になると、すべての作業を中断して、キャストとスタッフが入り混じり、ビスケットなど甘いものと紅茶をいただき、ひと息いれるのです。邦画育ちの私でしたから、あと1カットを撮ればこのシーンは終わるというときには、なぜ撮影を優先しないのかともどかしく思ったこともありました。

けれど、ティータイムになじんでいくにつれ、それがもたらすものが少しずつわかってきました。心の潤いといった精神的な効用にとどまらず、人々と交流する時間でもあり、内省するひとときでもあり、新たなエネルギーを育むひとつのリズムともなりうる、いわば句読点のようなものだ、と。

それにしても、あのころの私は、自分が年を重ねて80歳になるなんて、想像もしていませんでした。目の前のことに必死で、考えられるのは今日、明日、せいぜい来年のこと。50年、60年という時間など、永遠と等しいものでした。

鹿児島の地を訪ね、そんな若いころの自分も思い出し、多くの人に出会い、学び、今があると改めて感じました。

大きな病気も怪我もせず、この日を迎えられたことをありがたく思います。

不安がないわけではありませんが、これからは80代の日々を旅する気持ちで、暮らしていこうと思います。

揃って誕生日を祝ってくれた家族を大切に、ラジオの仕事を継続し、会っておきたい人をお訪ねし、映画を楽しみ、美術館を歩き、ときにはきままに旅に出て、10時と3時にはミルクと蜂蜜をたっぷりいれた紅茶の時間を味わいつつ。

80歳になったのを機に、このブログもティータイムをいただくことにいたしました。

20年間、ブログをお読みいただきまして、本当にありがとうございました。

ここまで続けることができたのは、「読んでいますよ。次回も楽しみにしています」と多くの方に声掛けをいただき、励ましていただいたおかげです。

お声は聞こえなくても、ブログに心を寄せていただいていたみなさまにも、感謝の気持ちでいっぱいです。

人は誰もが旅人です。

今日という新しい日をおもしろがり、心に刻んで歩いてまいります。

ありがとうございました。

日に日に寒さが厳しさを増し、2021年も終わろうとしています。

この2年間、多くの方々が大変な思いをし、様々な形で傷つき、穏やかならざる日々が続きました。秋には感染者が減少に向かい、やっとひと息つけるとほっとしたのも束の間、新しい株が出現し、再び見通しは不透明になっています。

大晦日、お正月という「節目」のありがたさを、今年はこれまでにないほど強く感じたような気がします。家を清らかに整え、お正月のごちそうを準備し、自分に課したちょっとした儀式や習慣を行なう…節目は、明日に向う大きな手助けなのですね。

来年はどんな日々が待っているのでしょう。私にはひとつ心に期していることがあります。それは「出会い」をより一層、大事にすること。人、本、映画、絵画、旅、そして新たな一日との出会いも。いくつになっても出会いは刺激と力を私に与えてくれます。これまで持ち物の整理を続けてきましたが、これからは捨てない暮らしにギアチェンジしようとも考えています。人、思い出、仕事、道具、暮らし…自分に備わったものを抱きしめ、あたたかな気持で過ごしていきたいと思います。

1月3日から朝日新聞に私のインタビュー記事20回「語る 人生の贈りもの」が掲載されます。このインタビューは、自分の生きてきた道を振り返ると同時に、これから進む方向を考えるとても良い機会になりました。どうぞご覧くださいませ。

文化放送『浜美枝のいつかあなたと』(日曜9時30分~10時)も続きます。来年も、常にアンテナをはり巡らせ、多彩な分野で活躍する素敵な人々や農産物生産者とみなさまを、しっかり結んでまいります。

今年も私の拙いブログにおつきあいいただき、ありがとうございました。この時代に生まれ、みなさまとともに生き、新しい年を迎えられることに、心から感謝しています。
2022年がみなさまにとって輝きに満ちた佳い年になりますように。

新年のご挨拶


新春のお慶びを申し上げます。
穏やかな光に包まれた一年でありますように。
メインパーソナリティをつとめる文化放送『浜美枝のいつかあなたと』(日曜・十時半)が今年で十九年を迎えます。この番組で、多くのゲスト、そして農に携わる人々と出会い、いつもたくさんのことを学ばせていただいています。
また朝日新聞の連載『もつれた糸をほぐして』には、嬉しい反響をいただき、その声に励まされるように書き進めております。
人に恵まれ支えられ、こうした貴重な機会に巡り合ったことに感謝し、今年も前を見て、一歩一歩丁寧に進んでいきたいと思っています。
2018年 元旦 浜美枝

新年のご挨拶

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新年おめでとうございます。
皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。
今年は、私の干支・未年です。
また新たなスタートラインに戻ったという気持ちで、
好奇心に胸をはずませ、美しく年齢を重ねることもテーマとして、
今という時期を大切に一歩一歩進んでまいります。
「やまぼうし」では、暮らしを彩る展覧会やワークショップなど
数多く企画しています。ぜひお出かけくださいませ。
お待ちしております。
平成二七年 一月一日
浜 美枝

新年のご挨拶

謹んで新年のお慶びを申し上げます。
旧年中はひとかたならぬご厚情を賜り、
誠にありがとうございました。
新しい年が皆様にとって佳き年でありますよう、
お祈り申し上げます。
今年は私にとって60代最後の年。
自分らしく生きるために日々の暮らしを
さらに真摯に見つめてまいります。
「食・農・美しい暮らし」というテーマをより深め、
近畿大学での若い世代との時間も大切に。
小さな幸せをひとつひとつ積み重ね、
丁寧に歩んでいきたいと思います。
浜美枝

謹んで新春のご挨拶を申し上げます

今年も私は「農・食・美しい暮らし」をテーマに活動いたします。
農は命。
未来を拓く農家の人々と共に歩んでいこうと決意を新たにしています。
また、近畿大学の客員教授として3年目を迎えました。
若い力を信じ、フィールドワークの大切さをさらに伝えていきます。
皆さまのおかげでカルチャーの発信地として根づき始めた箱根の
「やまぼうし」も新たな企画をたくさん用意しています。
どうぞお楽しみに。
そして何より、多くの人に笑顔が戻る、希望にあふれた佳き年で
ありますようにと、祈り続けてまいりたいと思います。
2012年1月1日 浜 美枝

新年を迎えて

生きることは  ひとすじがよし  寒椿
この句は、私たち映画界の大先輩である五所平之助監督が詠まれたものということですが、箱根の山々に木枯しの吹く季節になると、自然とその大好きな句が思い出されます。
朝、冬枯れの庭に出てみると、木々の枝にうっすらと雪が積もっているなかで、ひときわ鮮やかに咲き誇る寒椿の花。強い寒風に吹かれながらも凛と華やかな薄紅色の花弁は、ひとすじに生きることの美しさと尊さを教えてくれているようです。
いま、新しい年を迎え、私たちが生きて暮らしているこの日本という国を、「誇りに思っている」と胸を張っていえる人がどれだけいるでしょうか。
物質的には恵まれた豊かさの中にあり、情報もふんだんに溢れ、平和も、自由も、世界の国々に比して少しも引けをとらない程に手にしているのに、なぜ私たちはいまの暮らしを心から「幸福」と思うことができないのでしょうか。
ずっとそのことを考え続けておりました。
私たちがそれぞれ心に再び取り戻すべきもの、誇りをもって子や孫の世代に受け継ぐべきもの、それはこの日本が戦後のあいだに捨て去ってきたものの中にあったのです。
戦後の日本はまさに「物」と「お金」だけを必死に追い求めた時代でした。そしてそれを得ただけでは人間は心から幸福になれないことに私達は気づきました。
かつては人びとの暮らしの中に当たり前のようにあった文化や、自然の理に適った習慣や、四季の移ろいによって美しく変化する国の景観や・・・そうしたものこそが尊く、人びとの心の拠りどころであったはずなのに、知らぬ間に軽んじてきました。
私たちの世代は「美しい日本の暮らし」の片鱗を、幼いころに経験した最後の世代であるならば、それを次世代に受け継ぐべき大事な使命を担っているように思います。
「此ん頃はてんごりもあまり見られんようになったなぁ」
と聞いたことがあります。「てんごり」という耳慣れない言葉は、「手間がわり」という語源を持ち、
「互いに手伝い合う」という意味を持つ若狭地方独特の方言です。農村社会においては重要なこと。都会でもお互いさま。どんなに近代化が進んでも「てんごり」の精神だけはいつまでも守り続けていきたいものです。
今年も「食・農・美しい暮らし」をテーマに歩んでまいります。
新しい年が皆さまにとって佳き年でありますよう、お祈り申し上げます。
2011年1月1日 浜 美枝

寒中お見舞い申しあげます

皆様には佳き年をお迎えになられたことと存じます。
昨年二月に義母が旅立ちました。一世代下の私を常に温かいまなざしで応援し続けてくれました。そんな義母に背中をおされるように、私もこれから若者を応援したいと思うようになりました。
「食と農、美しい暮らし」というテーマでの活動、そして昨年スタートした「Mie’s Living」に加え、この4月から近畿大学の客員教授という未知の世界にチャレンジいたします。
もちろん全国の農山漁村の女性たちとのネットワークの輪をさらに広げていきたい考えております。目をつぶると、全国を歩く中で出会った大勢の女性たちの顔が浮かびます。昨年もたくさんの人との出会いがありました。優しく、たくましく、しなやかな女性たち。厳しい現実にも負けずに、将来の夢を語る彼女たちの表情の、なんとまぶしかったことか。今年はさらに生活者の方々との交流もできたら・・・と願っております。
部屋には山形県の”みちのく初桜(啓翁桜)が満開に咲いております。
春まであと一歩。
皆様のご健康とご多幸をお祈りしております。