箱根便り~路線バス

私は新幹線よりは特急列車、特急列車よりは普通列車が好き。
なぜなら、そこに、それぞれの土地に暮らす人々の匂いがより濃く感じられるからです。
我が家は小田原からタクシーで箱根新道を通ると約30分なのですが、同じ理由で、ときには行き帰りに路線バスを使うこともあります。小田原―箱根は路線バスでは約1時間。時間はかかりますが、乗降する乗客の様子や国道1号線道の四季の変化ある風景が楽しめます。
路線バスに魅かれる理由は、もうひとつあります。私は女優になる前の1年間、バスの車掌として働いていました。早朝に出社し、隅から隅までバスを掃除し、お釣り用のお札と小銭を揃え、運転手さんと挨拶を交わし、糊のかかった白い襟をピッとたて、「発車、オーライ!」 そのせいなのか運転席の左側一番前の席に座るとわくわくしてしまうのです。
路線バスの利用者の多くはマイカーを運転しない年配の方や子どもさんです。「あら、久しぶり」「元気だったかね」 顔見知りの人を見つけると、たちまちバスの中でおしゃべりがはじまります。また近年、路線バスを利用する観光客も増えてきました。子育てを終えた女性グループ、リタイアしたばかりかと思わせる熟年のご夫婦、学生さんたち、外国人……。
箱根という土地柄、車内には、観光客をもてなそうという雰囲気も漂っています。バスが満員になることもありますが、そんなときにはバス会社の人が「お仲間ですから、もう少し詰めていただけませんか」と声をかけてくれます。お仲間という言葉に心がほぐされ、混んでいても車内に穏やかな空気が漂うのも嬉しいところです。
特に、ここ数年は外国人の姿が目立って多くなったような気がします。富士山、芦の湖、箱根神社、温泉。「箱根には、日本の美しいものが凝縮している」と教えてくれたのは、私の韓国の友人のお嬢さんでした。彼女は箱根の我が家に何度も遊びにきていたのですが、数年前、ついに一家で箱根に居を構えました。「遊びにくるのではなく、箱根に住みたい」と。
そして今、宮ノ下で「マダム・スン」(0460-82-2122)という韓国家庭料理のお店を営んでいます。
日本の美しいものが凝縮している箱根……これから散策やハイキングに最適な季節が続きます。路線バスを利用するときには、乗り降り自由の1日乗車券(大人1,700円、小人850円 有効期間:1日間)が便利です。

(豊かな無駄時間を楽しむ大人のコミニュティ・マガジン「コモ・レ・バ?」より)

箱根便り~箱根の山は天下の険

「箱根の山は天下の険~~」という歌があるように、箱根はいつの時代も、
東国と西国とを結ぶ要所であり、難所でありました。平安・奈良時代には、
明神が岳を通る碓氷道や足柄峠をこえる足柄道が使われていたそうです。
そのためか、万葉集にも「箱根」や「足柄」が出てくる歌がいくつかあります。
中で私がとても心惹かれるものが
「足柄の、箱根飛び越え、行く鶴の、羨)しき見れば、大和し思ほゆ」
という歌。
直訳すると、「足柄の箱根を飛び越えてゆく鶴の、羨ましい姿を見ると、大和のことが思われます」となります。
作者は不明なのですが、おそらく都から坂東に派遣された人についてきた従者なのでしょう。当時の旅は文字通り命をかけざるをえない大変な行程だったはずです。無事に東国についたものの、帰路には病気になるかもしれないし、けがをするかもしれず、あるいは東国にいる間に健康を害することだってあり、元気な姿で再び大和の地を踏める保証はどこにもありません。
作者は愛おしい人を大和に残してきたのではないでしょうか。その人を思い、家族を思い、大和での平安な暮らしを懐かしみ、箱根の空を悠然と飛ぶ鶴の美しい姿に、ああ、鶴が羨ましいと、胸にあふれる切なさを歌にしたと思われます。
今朝、春の訪れを感じさせる青く澄んだ空の中に、真っ白に雪で染まった富士山がそれはそれは美しく輝いて見えました。ふと、この歌を思い出したのは、富士山の雪と鶴の白い姿が重なって思えたからでしょうか。万葉集のこの歌を思い出し、小さく口ずさんでみたら、風景がさらに鮮やかさを増したような気がしました。
ところで箱根だけでなく、足柄峠も富士山を東側から見晴らす絶景ポイントとして知られています。特に足柄城址から見る富士山は壮大で、南は箱根、東は足柄平野や遠くに相模湾が見渡せます。また、奈良時代の「足柄古道」として、足柄の峠道を見ることもできます。
足柄城址からすぐ近くにある足柄万葉公園では、ハギやナデシコなど万葉集に登場する草花を植樹し、万葉集のゆかりの歌碑も立てられています。
空気の冷たさが緩んだら、万葉集を携えて、春の箱根、春の足柄にぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょう。

(豊かな無駄時間を楽しむ大人のコミニュティ・マガジン「コモ・レ・バ?」より)

箱根便り~箱根とアート

自然の美しさと東京へのアクセスのよさに惹かれて箱根に居を構えたのですが、実際に暮らしてみて、箱根のもうひとつの魅力に気がつきました。
それは素敵な美術館に囲まれていること。
以来、箱根の美術館巡りが私の日常の1ページとして加わりました。
子どもたちが小さいときにしょっちゅうお訪ねしたのは、箱根の山々が望める彫刻の森美術館でした。こちらは国内ではじめての野外美術館であり、
近・現代を代表する彫刻家の名作が広大な敷地に常設展示されています。
ロダン、ブールデル、ミロ、そしてヘンリー・ムーア。またピカソの陶芸作品を中心に、絵画や版画、彫刻などが展示されたピカソ館も見逃せません。
ムーアは「彫刻の置かれる背景として空以上にふさわしいものはない」と語ったそうですが、その意味するところが、この美術館に身をおくとわかるような気がします。子供連れでも気後れすることなく、親子ともども楽しめるというのも嬉しいところです。
焼き物に興味があるのなら、箱根美術館がお勧めです。
日本の古陶磁、常滑焼・瀬戸焼・越前焼・信楽焼・丹波焼・備前焼などの
「六古窯」を中心に、素晴らしい作品が常設展示されています。
モネ、ゴッホ、ルノワール、セザンヌ、シャガール、ピカソなど、日本屈指の
西洋絵画のコレクションが揃っているのはポーラ美術館。
先日、企画展「ボナールの庭、マティスの室内 日常という魅惑」(3月7日まで)を見に行き、日常の空間が画家に着想を与え、突き動かす力動を感じてきました。
そして私がもっとも身近に感じているのが、我が家から車ですぐの場所にある箱根ラリック美術館です。
ラリックはアール・ヌーヴォーからアール・デコへと変わる時代、ガラス工芸を芸術まで高めた芸術家。もともと私はラリックの作品が大好きということもあり、2005年のオープン以来、頻繁に通っています。
そこにはまさしく芸術家のイマジネーションから紡ぎだされた光溢れるガラスの美の世界が広がっています。すぐに帰るのが惜しいようなときには、施設内のレストラン「LYS(リス)」でランチをいただくことも。3面がガラス張りのこのレストランで、ラリックの余韻を味わいながら1杯のシャンパンをいただくのも至福の時間です。
この時期、ラリックが室内装飾に関わったオリエント急行の車窓から、ライトアップされたラリックの作品を堪能できる「ラリック ウインターライト レビュー」(3月31日まで)も開催されています。
心の重力を解き放ち、憂いを押し流し、生きる喜びを倍加させ、静かに確実に精神をリフレッシュさせてくれる力のあるアートを訪ねに、箱根にいらっしゃいませんか。

(豊かな無駄時間を楽しむ大人のコミニュティ・マガジン「コモ・レ・バ?」より)

ワークショップ

箱根の我が家でワークショップを始めました。
「好奇心を満たす集いの空間」
 箱根で触れる大人の遊び
7月10日(土)は「和の香り体験講座」の時間。
私は香の世界はまったくの素人。でも憧れていました。
箱根の静けさの中で香木が放つ洗練された香りを楽しみたい・・・
そんな個人的な興味からの発想でした。
前回は12名でゆったりとした空間の中でのレッスン。
ランチボックスも好評でした。

そして7月24日(土)は「水彩色鉛筆で旅先スケッチ」です。
私は絵が苦手。でもこれだけ旅の日々、スケッチができたらいいな・・・
といつも思っておりました。
箱根で暮らしはじめて、34年になりました。子供たちも成人し巣立っていった今、日常に彩りもたらすような企画を催しながら、我が家に皆さまをご案内させていただき、私自身が楽しみたいのです。
詳しくはホームページをご覧ください。
http://www.mies-living.jp/workshop/index.html