ロニ・ホーン展

水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?

ロニ・ホーン現代美術家…名前は聞いてはおりましたが、作品を観るのははじめてです。

1980年代から40年。初期から「自然」をモチーフにしてきたロニ・ホーン。今回は「水」がテーマです。私の住む自宅からはバスを乗り継ぎ50分ほどで美術館に着きます。

強羅のバス停には週末ということもあり、アートが好きそうな若者が並んでバスを待っていました。国内の美術館では初の個展です。

彫刻や写真、ドローイングなど、その世界は多彩です。テームズ河 アイスランドなど、彼女が魅入られたアイスランドは静寂のなかに身をゆだねその雄大な空間に異次元の世界を感じます。

現代アートは多くを語ってはいけない…と私は思っております。”観た人が感じる”ことが大切だからです。

会場に足を踏み入れると森を望む大窓に面した空間に、8個の円形の立体と外の自然とが重なり美しい風景です。そして、歩を進めていくとロニ・ホーンの世界が広がります。その無数のバリエーション。そしてビデオで語る彼女のパフォーマンス。

都市やテクノロジーから少し距離をおき 自然の中に身を置くことで見えてくる世界があるのかも知れません。

「孤独と静かに向き合う時間」とも書かれていました。   会場を後にして美術館屋外の森の遊歩道に展示されているガラスの彫刻作品。

皆さまは何を感じますか。
今回の会場は全て撮影が可でしたので、写真でお楽しみください。

https://www.polamuseum.or.jp/

正直なつくり手の味~甘糀みそ

もうずい分前のことですが、長男が結婚して間もなくの頃、お嫁さんからこんな電話をもらいました。

「お母さま、彼が、どうもお味噌汁の味が違うんだなぁって。お母さまがお使いになっている、何か特別なお味噌があるんでしょうか。教えていただけますか」という問い合わせでした。

小さい時から、どこのどういう味噌といって食べさせていたわけではないのですが、思い起こせば、4人の子供たちはずっとひとつの味噌を食していたわけです。

長男は結婚し、ハタと気づいたのでしょう。新婚家庭には、その家の味が自然に創られていけばいいと思い、私は一切、押しつけずにおりました。若いふたりが育て創る味が、ふたりの家庭の味文化になるはずですから。

でも、息子が味噌汁の味に違和感があるなら、お嫁さんに、まず、我が家で使っているお味噌を試してもらおう。気に入ったら取り寄せればいいし……。 美味しいお味噌を探している人は案外多く、私愛用のこのお味噌、これはもう何十人にご紹介したことでしょう。

旅先で出合った福島県会津若松の「満田(みつた)屋」という味噌と手作り食品の老舗のもので、私はもう数十年も取り寄せている、まろやかな味噌です。

味噌はその昔、家の数だけさまざま味があったそうです。それぞれの家で作っていたのですね。今でも全国各地に”おふくろの味”というような美味しい味噌が、道の駅などにもたくさんありますね。

さて、私が取り寄せている満田屋の米味噌は、米を多めに配合した白味噌です。色合い淡く甘味があり、上品な風味が特徴です。底塩分のまろやかな味です。

私の好みは「甘糀」。

お味噌汁はもちろん、ぬたや和え物など、上品な味わいが広がります。毎日いただく味噌汁ですから、やはり造りの確かなものを安心していただきたいですね。  

お味噌について、その成り立ちや栄養価を調べてみました。まず味噌は消化しやすいタンパク源で、調味料としての役割と栄養源としての大切な役割を担っています。また、味噌には抗がん物質のリノレン酸エチルエステルや、血中のコレステロールを下げるリノール酸などが含まれ、ガンの抑制と高血圧の予防にも役立っているそうです。

私が満田屋さんを訪れたのは、もうずいぶん前ですが、その店構えが素敵で、中に入ると商品が並べられ、横で座って”田楽”がいただけるのです。(これがとても美味しいのです!)

こうして、旅先で美味しいものに出合ったときの幸福感は特別です。そして、そのもの作りの姿勢に感動するのです。その時も店のご夫妻にお話しを伺いました。

国産菜種や大豆を用い、誠実なもの作りに徹しています。菜種油、胡麻油、甘糀味噌(甘口)の他、特選白虎(甘口)、金選田舎みそ(中辛)など、日本人というより、会津の魂宿る、味の原点。

当時新婚生活をはじめた長男夫婦が、この味噌に気づき、さっそく取りいれてくれたことがとても嬉しかったのです。  

会津若松 満田屋の甘糀みそ
https://www.mitsutaya.jp/
連絡先 満田屋(みつたや) 福島県会津若松市大町1-1-25
TEL 0242-(27)1345
FAX 0242-(28)5899  
甘糀(塩分9%)、500g430円、1kg800円  
営業時間 10時~17時 

旅ごころを語る陶板

もし、「旅人」という職業があるならば、私はその「旅」を仕事に、生涯を費やできたら、と何度思ったことでしょう。

余暇にする旅よりも何故仕事の旅がいいのかというと、私にとっての旅はいつも、自分の全身全霊を打ち込んでするものであったからです。

それは、まだ若い頃のことですが‥‥民芸運動家の柳宗悦先生、木工芸の黒田辰秋さん、写真家の土門拳さん‥‥私が十代の頃から深く尊敬し、憧れた人びとは、いずれもすぐれた旅人であったのです。

少女の頃、私の眼に映った「旅ごころを持つ大人たち」は、皆一様に、旅に打ち込む人に見え、彼らのように「旅を生きる」という感じに旅する人が、かっこよかったのです。彼らの足跡をたどり、彼らの後ろ姿を追いかけているうちに、私もいつの間にか、”旅する女”になっていたのです。

30数年前に長野県飯田市美術博物館で開催されていた『知られざる須田剋太の世界・抽象画と書・陶』展を観たときは衝撃的でした。 週間朝日の連載・司馬遼太郎の「街道をゆく」の挿絵画家としての須田剋太さんはもちろん素晴らしかったのですが、その”書・陶”に魅せられました。

独学で洋画を学び、独自の世界を広げました。あれはたしか、大阪で須田剋太さんが個展を開かれた時だったと思います。

いつもながら素晴らしい沢山の油絵の中に、一点だけ「旅」と描かれた陶板が展示されていて、私はそれを見た瞬間に、どうしても欲しくなってしまいました。日頃旅に打ち込んでいる私を励ましてくれているような、ねぎらってくれているような「旅」の一文字。

それはまた、須田先生ご自身の旅への思いが凝縮してこめられているようでもあり、私はまさに同士に出会ったような喜びを覚えたのです。

でもすでに別のお客さまが予約済みだったのです。「どうしてもこの陶板が欲しいです」との思いを告げ、引き下がらない私に須田先生もお客さまもあきれられ、結局私に譲ってくださったのです。心より御礼申し上げます。

その展覧会からわずか一年後、大好きだった須田先生は他界されてしまったのですが、あれからずっと、私の宝物の陶板は箱根の我が家の玄関先で、いつも私の旅の出入りを見守ってくれています。

ひとつの旅を終えて家に戻ると「いい旅をしてきたかい?」と、ねぎらいの言葉で迎えてくれ、また次ぎの旅に出る時は、「いってらっしゃい、いい旅を」と励まし送り出してくれる須田剋太先生の陶板。

それは、たった一文字ながら「こんな気持で旅しなさい」と、旅ごころの原点と指針とを同時に示してくれているようで、この陶板を見るたびに、芸術の力というものの凄さを、改めて感じずにはいられません。  

でも、私の旅のありかたも60代になった頃から変わりました。作家の高田宏さんの著書「ゆっくりと、旅」(岩波書店)ではないのですが、日本列島は広いです。これからは、仕事ではなく、土地言葉を訊きながら普通列車に乗り”のんびりと、旅”をもう少しつづけたいのです。

行く先々での出逢いを大切に。それが自分自身への”ごほうび”だと思っております。  

早く旅ができますように。

岩波ホール

先日、新聞の読者投稿を見て感激いたしました。
(1月22日付、朝日新聞)

岩波ホールが今年7月に閉館することへの嘆きの声です。本当に映画好きの方なのですね。「行けば必ず心に残る映画に出会うことができた。思い出をありがとう」という、感謝に満ちた惜別の辞でした。

私も思わず、同感です!と声に出してしまいました。

およそ半世紀の歴史を誇る岩波ホールは、しばしば”ミニシアターの草分け”と称されますが、岩波ホールは岩波ホール、やはり特別なのです。

私が俳優の卵で、少し背伸びをしながら歩くような生意気盛りの女の子だった頃、”映画文化”を教えてくださったのが岩波ホールでした。正直に言いますと、「神保町へ行く!」というのはちょっとカッコ良かったのです。

撮影所のあった成城からバスと地下鉄を乗り継いで、本好きの人たちが集まる街へ出かけるのです。駅のビルからエレベーターに乗り、10階の岩波ホールへ向かいます。そこには、まさに夢のような別世界が広がっていました。  

フランスのヌーベル・バーグが大好きだった私が、欧米に限らず、アフリカ・中央アジア・中南米などの映画に引きつけられたのも岩波ホールのお陰でした。50年近く、どれだけの映画をここで見続けたことでしょう。

昨年だけに限っても、「ブータン山の学校」、「大地と白い雲」、「夢のアンデス」を食い入るように見つめました。撮影の舞台はブータンや内モンゴル、そして、チリに広がります。

岩波ホールの魅力が作品の選択にあるのは当然ですが、それと同時に支配人・岩波律子さんのキメ細かい心配りが光っています。先ほどの新聞の投稿者は、こう書いています。

「上映が終わると、支配人は出口で、”ありがとうございました。いかがでしたか”と声をかける。こんな映画館は他にはない」と。

私も同じような経験をしたことがあります。出口で、「頑張ってください!」と激励すると、ニッコリ笑って、ガッツポーズが返ってきました。  

4年ほど前、私が担当する文化放送の番組にゲストでおいでいただいたこともありました。 「予告編を入れないのは、これから見る作品に集中してほしいから。初日ご挨拶を欠かさないのは、皆さんの感想を直接お聞きしたいから」。

映画を軸にした交流の場が、岩波ホールだったのですね。そこには、映画ファンが浮き浮きするような時間と空間が広がっていたのです。

7月末の閉館日まで、これからも何度も通うつもりです。そこで投稿者の方と同じように、「思い出をありがとう。そしていつの日にか、また」と、心からの御礼を申し上げるつもりです。

岩波ホール公式サイト
https://www.iwanami-hall.com/