地域の絆-琉球新報「南風」

2006年がもうすぐ終わる。この時期、いつも暦とは不思議なものだと思わずにはいられない。大みそかが近づくと、過ぎし1年を思い、そして時計の針が0時をさすと同時に、気持ちが新たになるのだから。
長期不況から脱出したといわれて久しいが、地方をまわることの多い私にとっては、今年も、それがどうもピンとこなかった。多くの駅前商店街がシャッター通りになり、高齢化・過疎化の進む村の中には村自体の存続さえ危ぶまれているところが珍しくなくなっている。
先日、”椎野アジサイロード”で知られる九州・高千穂の北郷村を訪ねた。約3万本のアジサイが道路沿いに植えられ、季節には1万人もの観光客が訪れる。「村を通る人がきれいだなぁと思ってくれたら嬉(うれ)しいと思って。こんなに喜ばれるなんて思いませんでした」。アジサイを植え育てている村の人の言葉から、日本に古くからある”もてなしの心”を感じて胸が熱くなった。
近ごろ、日本の美しさが話題になることが増えたが、暮らしの延長線上にある “もてなしの心”のような美意識にもまた、光があたるような社会であってほしいと切に思う。そのためにも、こうした美意識が残る地域の絆(きずな)が失われていない場所、つまり地方を大切にする社会をつくっていかなくてはならないと思う。その意味でも今後、沖縄がはたす役割は大きいと私は思う。若者は年寄りを敬い、老若男女みな地元を愛し、共同体としての絆が今もしっかりと生きている。
日本が美しくあるためには、東京だけではダメで地方が元気でなくてはならない。沖縄の人々にはこれからも誇りを持ってがんばってほしい。07年の沖縄の繁栄を祈りつつ、筆をおきたい。
琉球新報「南風」2006年12月12日掲載

沖縄ベンチャー-琉球新報「南風」

なぜ私がこんなに沖縄に魅力を感じ、第二の故郷に戻ってきたかのような安堵(あんど)感を覚えるのか。その理由は人だと思う。特に沖縄の女性たちの、辛(つら)いことがあっても空を見上げてスクッと立ち続ける明るさとたくましさ。そのすべてに強くひきつけられている。
職業は旅人かと思うほど、私はこれまでに多くの土地を旅してきた。国内だけでもお訪ねした市町村は1200にものぼる。そこで感じるのは、出会った人たちの印象で土地への親しみ度が決まるということだ。
私が親しくさせていただいている仲間に沖縄ベンチャークラブのOGたちがいる。ベンチャークラブはボランティア団体・国際ソロプチミスト沖縄に認証された、働く若い女性たちのボランティアグループだ。「冒険なくしては何物も得られない」をスローガンに、月1回の早朝清掃をはじめ、子どもの入院施設やアメラジアン・スクール・イン・オキナワへの訪問、ラオスやフィリピンに絵本を贈る活動、さらにはチャリティー講演会の収益金で那覇市にリフト付きバスを寄贈したり、ペルーに幼稚園を建設したりと活動は多彩だ。私はベンチャークラブ主催の講師に招かれたのがご縁でおつきあいがはじまり早17年となる。
彼女たちは夢を語り、その実現に向かい真摯(しんし)に努力を続けている。長い年月の間には山も谷もあっただろうに、希望の光が消えることはなかった。その女性たちが今年、沖縄をアピールする事業を始めると聞き、応援したいと切に思った。というわけで、私はこれまで以上に沖縄を訪ねることになりそうなのである。応援といいつつ、こちらも彼女たちから多くの喜びをいただいているわけで、こうして逢瀬(おうせ)を重ねるうちに文字通り、沖縄が第二の故郷になりそうな予感もしている。
琉球新報「南風」2006年12月12日掲載