『日本の工芸 その伝統と未来』展

美しい紅葉で彩られた箱根の山、これから本格的な紅葉がはじまります。
「秋山明浄にして装うが如く」と申しますが、四季折々の自然に抱かれた暮らしは、現在の私の人生を”実りの秋・収穫の秋”と実感させられます。
そんな晩秋にふさわしい展覧会を『箱根やまぼうし』で開催いたします。露木清高さんと伊東建一さんのお二方による「日本の工芸その伝統と未来」と名うっての素晴らしいコラボレーションです。
地元・箱根の寄木細工の清高さんと京都・御所人形の建一さんのお二人。寄木細工は江戸の末期、箱根で生まれた伝統工芸です。清高さんは4代目。伝統を踏まえつつも現代の暮らしにもスムーズに使えるモダンさを兼ね備えた作品は海外でも高く評価されています。使えば使うほどにその良さが心を豊かにしてくれます。
建一さんは300年続く「有職御所人形司 伊東久重家」のご長男。京都に生まれ、父・久重氏のもとで本格的に御所人形師の道に入られました。こうして若い工芸作家の世界お迎えし、我が家の木々は喜んでいます。
「今という時代」にふさわしい作品の数々をぜひ紅葉の美しい箱根でご覧ください。初日はお二人と私のギャラリートークも開催いたします。
詳しくは箱根やまぼうしのHPをご覧ください。
お越しをお待ち申し上げております。
箱根やまぼうし 公式ホームページ
http://www.mies-living.jp/events/2016/exhibit201611.html

映画「男と女」


皆さま~・・・あの”ダバダバダ~”のメロディーで知られるクロード・ルルーシュ監督の『男と女』が、50年ぶりに鮮やかな映像と音でよみがえりましたよ!
日本初公開は50年前の10月15日だったそうです。その記念すべき10月15日、恵比寿ガーデンプレイス内「YEBISU GARDENN CINEMA」で初日を迎えました。50年前公開の時、私は22歳。主役のアヌーク・エーメのシックな衣装に魅せられ、メロディーに酔い、俳優達の演技やスピーディなレース展開に強烈な印象を受けました。公開時29歳だった若き監督、クロード・ルルーシュ。
早朝一番のバスで芦ノ湖の向こうに美しく見える赤富士を眺めながら下山し、恵比寿の劇場に向かいました。10月15日・1回目の上映です。早朝の秋晴れの美しい都会は清々しく、まさに映画日和でした。上映までの1時間は周辺を散策し、お茶を飲み、50年前の自分自身を振り返りました。「007は2度死ぬ」への出演が決り私の人生が大きく舵を切り、新たな道へと進みはじめた時期だったと思います。
10時10分、映画が始まると「男と女」ではなく、いきなり1台の車(フェラーリ275GTB)が夜明けのパリをアクセル前開で走りぬける8分28秒のルルーシュ監督の幻の短編・ドキュメンタリー『ランデヴー』が始まります。「男と女」から10年後、ルルーシュ自らがハンドルを握り、豪快なエンジン音、ハンドルの振動が観る側に伝わり、凱旋門、コンコルド広場、オペラ座、ピガール広場と駆け抜けていくのです。助手席にいるような錯覚になり、すでにここから『男と女』は始まっています。
1966年フランスから生まれた名作。初デジタル・リマスター版。1967年アカデミー賞外国語映画賞&オリジナル脚本賞、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞&主演女優賞など、賞を総なめにしたラブストリーは強烈な印象を与えました。
ただ・・・今回私は50年ぶりににこの映画を観て思ったのは「私ってなんと子どもだったのかしら」ということでした。『男と女』の心のひだ・・・うつろう想い、愛、まったく理解できていなかったことに気づかされました。そして、フランス映画のもつ奥の深さや、大人の機微。素敵です。
今、この年齢になりもう一度観ることができた幸せ。
(シニア料金で観るのが申し訳ないです(笑)
最高の”自分へのご褒美”の日でした。
当時の監督は、破産寸前で映画を撮るお金もまったくなく低予算で作られたことなどが、初日のサプライズで明かされました。そう・・・主役のアヌーク・エーメの夫役ピエール・バルーが来日され壇上で語ってくださいました。エピソードや音楽も手がける彼は歌まで口ずさんでくれました。キャストも含めわずか13、4人のスタッフでの撮影、主役の二人は車の中のシーンなどではライトを手に持ち照明もつとめたこと、ロケはわずか3週間ほどだったこと、などなど、今年83歳のピエールは「今でも当時の仲間とは仲良く交流がありますよ」と語ってくれました。飛行機の都合で当日の朝、成田に着きそのまま映画館に駆けつけてくださいました。
人生ってコツコツと積み重ねてくると、神さまがご褒美をくださいますね。
そんなラブリーな一日、日暮れ前にまた芦ノ湖の向こうの富士山を眺めながら家路へとつきました。
映画の公式サイト
http://otokotoonna2016.com/

直木賞作家・荻原浩さん

今年7月「海の見える理髪店」で第155回直木賞を受賞された作家の荻原浩さんとラジオの収録と毎日新聞での対談で一日ご一緒させていただきました。
発売と同時に拝読した本。そして受賞なさったときの記者会見での雰囲気・・・自然体で作品そのままのお人柄に魅せられていました。とても緊張していたのですが、穏やかで優しいお人柄にさらにファンになってしまいました。
荻原さんは1956年、埼玉県生まれ。成城大学卒業後、コピーライターを経て、1997年「オロロ畑でつかまえて」で第10回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
2005年「明日の記憶」で山本周五郎賞、山田風太郎賞受賞など、著書も数多くこの度の直木賞は初めてノミネートされたのが11年前で、今回、5度目のノミネートで受賞されました。
どんなお気持ちで、どこでその受賞を待たれていたのかをまず伺うと「編集者の方々と飲みながら待ちましたが、何度も受賞を逃しているので、落ちるのには慣れていて、その時には何と話そうか・・・と考えていました」と。その時にご自身の携帯電話に受賞の知らせがあったそうです。
「海の見える理髪店」は6つの短編小説からなり、どれも家族のことが描かれています。その中の表題作「海の見える理髪店」は、理髪店の店主ともう一人の主人公『僕』のものがたりです。
よく喋る店主からは昭和の庶民の歴史も垣間見え、店主から見る『僕』と、『僕』から見る店主の描写、海の見える風景をお客さんに見せるための心使いや二人の距離感が絶妙です。
この小説で描かれているのは世の中には、人に言えない何かや、様々な事情を抱えて生きている人がたくさんいると思います。
短編の中の『いつか来た道』では画家の母親に反発した娘が16年ぶりに実家に戻ってくるという物語です。世の中には、仲のいい親子もいれば確執のある親子もいます。様々なパターンがありますが、時間が解決してくれたり、和解に導いてくれることもあります。
ラジオでは「年月の流れ、歳月の持つ重み」などを伺いました。『遠くから来た手紙』では、すれ違いの夫から逃れるように実家でメールや古い手紙を読んで夫との関係を見直す・・・帯にはこのように書かれています。『誰の人生にも必ず訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に沁みる家族小説集』と。
読み終えて、「もっときちんと言葉で伝えておけばよかった」「後悔」「ささやかな幸せ」「家族であっても寂しさがある」「人って愛おしい」・・・「家族と暮した豊かな時間」などなど・・・心の深いところに、ともし火を感じました。
今回の収録は荻原さんで2本でした。
待望の「直木賞受賞第一作」『ストロベリーライフ』が話題になっています。「ストロベリーライフ」は毎日新聞の日曜版「日曜くらぶ」に連載されていました。
イチゴ農家を舞台にした長編小説で、家族、農業、そして人生の岐路などいろいろなことを考えさせられました。岐路に立った時、人はどんな決断をし、そして決断した人を周りがどうサポートするのか、これがテーマの一つになっています。
行動すること、動き出すことの大切さも感じました。迷っている人の背中を押す・・・それらが「ストロベリーライフ」に描かれています。
私たちは「農・食」のことをもっともっと知ることが大切です。
じっくり荻原さんのお話をラジオでお聴きください。
そして、毎日新聞での対談をお読みください。
毎日新聞10月29日(土)朝刊(予定)
文化放送 11月27日と12月4日 日曜10時半~11時

世界報道写真展2016 沈黙が語る瞬間

恵比寿にある東京都写真美術館に行ってまいりました。
JR恵比寿駅東口から動く通路を歩き、恵比寿ガーデンプレイスの中に東京都写真美術館(TOKYO PHOTOGRAPHIC ART MUSEUM)はあります。
そこには静かに”沈黙が語る瞬間”がモノクローム・カラーで展示されています。
「日常生活」「一般ニュース」「自然」「人々」「スポーツ」「長期取材」「現代社会の問題」「スポットニュース」それぞれの部門での出展です。
会場に一歩足を踏み入れると、直視できないほどの衝撃を受けたり、自然の部では伐採行為や農地への転用、山火事により森林が奪われ、オランウータンの生息環境は危機に瀕している写真には胸がしめつけられます。
そして、世界報道写真大賞「スポットニュースの部1位」は、オーストラリア人の一枚のモノクロ写真でした。
2015年8月28日、レスケ(ハンガリー南部)で撮影された写真の前では言葉を失います。ウオーレン・リチャードソンはセルビアとハンガリーの国境を越えようとするシリア難民の男性と幼い子どもを撮影しています。
有刺鉄線付きのフェンスが出来上がる前に、ハンガリー側へと渡ろうとするのですが、その赤ちゃんを手渡そうとする瞬間を捉えています。警備員に見つからないよう、フラッシュはたけません。月明かりをたよりに捉えた瞬間。男性が子どもを手渡す瞬間。見事な報道写真ですが、これが現実なのですね。涙が溢れてきました。
「長期取材」の部1位は写真家メアリー・F・カルバードの作品です。写真の横にはこのようなコメントが書かれていました。
「内なる戦い。米軍内では女性に対する性的暴行事件が頻発している。性的暴行について指揮官に訴えることは困難。もしくは無駄だと考える女性が多く、報告があった場合でも法廷にまで持ち込まれることはほとんどない。軍隊での性的トラウマ(MST)は、長期にわたり精神的な問題を引き起こす可能性がある。」
このように書かれています。
自殺を図った娘の写真をベッドに置き呆然と立ち尽くす父親の姿。
世界で今、何がおきているのか、真実はなんなのか・・・
会場には若い人たちが真剣に写真に見入っていました。
10月23日(日)まで
東京都写真美術館