―箱根の山、そして庭―
すとんと秋がやってきました。日中は温かくても、箱根では朝晩に暖房が必要になりつつあります。
雨上がりの青天の早朝、思い切って仙石原に足を延ばしました。標高約700m、台ケ岳の北西の山裾に広がる仙石原は、ススキの名所です。斜面を覆い尽くす様に広がる一面のススキ。朝日を浴び、きらきらと金色に輝き、風が吹けば大海原の波のように揺れ、うねり……息をのむような風景でした。

その足で、湿性花園に向かいました。こちらは湿原・川・湖沼などの水湿地に生育する植物を中心に、実に多くの草花がそれぞれの植生にあった場所に美しく配された、日本で初めて作られた湿生植物園です。
仙石原と湿性花園には、まだよちよち歩きだった子どもを連れてきたこともあれば、子ども一家と孫の手を引き遊びにきたこともありました。どちらも毎年、春と秋にお訪ねせずにはいられない、私にとって大切な場所です。
平日でもあり、開園時刻を待ち、入場したこともあり、私のほかにいらしたのは一組のカップルだけという贅沢さ。まず、今開催中の秋の山野草展に。可憐でありつつも、園芸種にはない力強さを感じさせる山野草の数々に力をもらい、それからゆっくり花園全体を味わいました。







園路は、低地から高山へ、初期の湿原から発達した湿原へと植物の生態系の流れを感じながら歩ける構造になっているのだそうです。木製の園路を歩きながら、さまざまな植物の生命力、そして大自然の息吹が体いっぱいに流れ込んでくるような気がしました。




途中、ベンチに腰をおろしていると、植物の手入れをなさっているスタッフの方々の姿に気づき、はっとしました。人工的な美しさではなく、自然にある命の姿が見られるということで知られる湿性花園ですが、ありのままの姿を伝えるためには、人の手も必要なのだと改めて気づかされました。



仙石原のススキにも、実は人の手が入っています。毎年、3月、山焼きが行われているのです。そのまま放置してしまうと、樹木が侵入して雑木林になってしまうのだとか。



自然と人との関係は、興味深く、本当におもしろいものですね。
箱根の我が家は山の中にあります。
けれど、40年前、私が手に入れたのは、平らな造成された土地でした。それを元の姿に戻したいと、役所に通い、本来の地形がどうだったかを調べ、盛り土をしたのでした。盛り土が落ち着くまで数年という時間が必要でした。
ですから、この庭に植えるのは、箱根の山に生えている植物だとも決めていました。業者に頼めば簡単なのに、山に車を走らせ、地主さんをみつけて、この木を譲ってほしいと頼みこみ、了解が得られれば「根回し」(移植する前に根を切って木の細根を再生させる作業)をし、根が再生したのを確認して翌年、移植し……そうして集めた何十本もの樹木で庭を造りました。庭木すべてを植え終えるまで5~6年はかかったでしょうか。
ヤマボウシ、ハコネバラ、モミジ、ヤマザクラ、サルスベリ、シャクナゲ、ツバキ、ハナミズキ……。
今では、どの木も気持ちよさそうに大きく育ち、まわりの山と自然になじんで、古民家を再生した我が家をぐるりと取り囲んでいます。
花園とは比べようもありませんが、それぞれの木や草花を生かすために、これまでの季節は雑草とり、これからは落ち葉掃除が欠かせません。それも含めて、木々に囲まれた庭がこのごろ、いっそう、いとおしく思えてきました。
仙石原と湿性花園に行き、もう一度、庭としっかり向き合いたいという気持ちが、湧き上がってきたような気がします。
箱根の紅葉は例年11月中旬頃が見頃です。白い帽子をかぶった富士山と、山々の綾錦をどうぞ楽しみにいらしてください。














































