書棚に近頃、料理本が増えました。若い人はスマホで検索をして新しい料理をみつけるようですが、私はやはり紙の本。「あ、これ、おいしそう」「今度、作ってみようかしら」「孫が喜んでくれそう」と、ページをめくるひとときも楽しんでいます。万能だれや黒酢の新しい使い方など、おかげさまで食卓も少しずつ進化しています。
週に1度、小田原に下り、近くの市場に上がった新鮮な魚や、朝どれの野菜を求め、時折、家族の晩ご飯も作っています。
小田原の町中からちょっと離れると、山が海にせり出しているような急峻な坂が続き、そこにはミカンや夏ミカンが植えられています。その上にカフェがあり、先日、友人とお茶をしてきました。ちょうど、夏みかんの白い花が満開でした。甘く爽やかな花の香りのする風が吹いていました。



小田原駅隣接のJA直売所「朝ドレファ~ミ♪」で夏ミカンを手に取ったのは、その光景と香りを思い出したからでした。さあ、この夏ミカンをどういただきましょうと考え、マーマレードを作ることにしました。
もともと食べることが好きで、子どもたちにはしっかり食べさせたいと、忙しい中でも料理だけは自分で作りたいとこだわってきました。家に帰るなり、いくつもの鍋を火にかけ、ちゃちゃっとお惣菜を仕上げ……よそ行きから普段着に着替えるのも、メークを落とすのもその後、というような暮らしでした。
でも、正直、お菓子までは手がまわりませんでした。ケーキやクッキーを焼いたり、ジャムやマーマレードを作ってみたかったのに。
そうなんです。はじめてのマーマレード作りでした。
夏ミカンの皮にナイフで筋をいれ、皮をむき、皮と実に分ける。皮の内側の白い部分を取り除き薄切りにしたものを、沸騰したお湯でゆでては冷水に晒すのを繰り返すーー。
マーマレードにこんなに手間がかけられていたと知ったのもはじめて。でも甘酸っぱい夏ミカンの香りがキッチン中にたちこめて、私にとって、とても新鮮な、癒される時間でもありました。
最初に作ったものは煮詰めすぎたのか、冷めたらちょっと固くなってしまったので、二回目はゆるめかなというところで火を止め、満足のいくものに仕上がりました。
煮沸した瓶に詰めてリボンをかけ、遠い町で暮らす娘にもひと瓶、送りました。喜んでくれるかしら、びっくりするかしらと、少しわくわくしながら。
私はといえば、毎朝、ヨーグルトにかけて、いただいています。次はジャムも作ってみたくなりました。
料理は記憶を呼び覚ませてもくれます。
美味しいマーマレードを作ってくれた年上の女友だちのことを思い出しました。日当たりのいい軒先にゴザを広げ、背中を丸めながら丁寧にゼンマイを干していた農家のおばあさんなど家族のために手間をおしまず、食に向き合っていた先人たちの優しい姿も。
調理にかけるゆったりした時間も、味のうちなのかもしれません。
四季があり、旬があることをありがたく思い、私も、作ることも楽しんで、無駄なく食べていきたいと思います。





