15歳でデビューした私にとって、映画は学びの場でした。人生の分かれ道では何を大切に選択するのか、立ちはだかる壁をどう乗り越えるのか、希望の光を灯し続けるためにはどうしたらいいのか、幸せとは何か、今はどういう時代なのか、世界はどんな困難を抱えているのか、生きるとはどういうことなのか……物語として楽しみつつも、数々の映画を通して考えを少しずつ深め、今の自分を形作ってきたように思います。
先日、胸にしみる素敵な映画に出会いました。
今の私が求めていた映画でした。
ペドロ・アルモドバル監督の『THE ROOM NEXT DOOR』。
昨年のベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した作品です。
重い病に侵され、安楽死を望むマーサは、再会したかつての親友イングリッドに、その日が来る時にはドアの隣の部屋にいてほしいと頼みます。悩んだ末にイングリッドはマーサの最期に寄り添うことを決め、ふたりはマーサが借りた森の中の小さな家で暮らし始めます。
その日々の中で、マーサは自分のこれまでのことをイングリッドに少しずつ語り始めます。娘との葛藤、娘の父親との関係、戦場ジャーナリストという職業の実際、彼女がどんな問題を抱え、それでも前を向いて歩き続けてきたか……。生が終わらんとしていても、解決に至らないことも残され、人は完璧には生きられない、終われないということも実感を伴って、ひたひたと胸に迫ってきます。
痛みを抱えつつも毅然と生きるマーサ役のティルダ・スウィントン(「フィクサー」でアカデミー助演女優賞)、誠実に寛容にマーサに寄り添うイングリッド役のジュリアン・ムーア(「アリスのままで」でアカデミー主演女優賞)、ふたりの女優の演技も見事でした。
家、インテリア、洋服、食器の色彩、部屋に飾られた絵画、雪、木々の緑、風、光……映像の美しさにも五感が目覚める気がしました。中で語られる詩、出てくる小説、それらすべてに意味があるとも思わされました。
エンドロールが流れて来たとき、マーサは死期が迫るにつれ、カラフルに美しくなっていたことに気が付き、はっとしました。
有楽町の映画館には女性ひとりでいらした方がほとんど。エンドロールが終わり、会場が明るくなるまで誰一人、席を立たなかったのも、印象的でした。
死と向き合うことは、生と向き合うこと。
人を看取るのは、自分の人生と向き合うこと。
最後まで、人は自分らしく美的に生きていい。
この映画から受け取ったメッセージが、美しい映像とともに、今も私の中に鮮やかに蘇ります。
さまざまな動画配信サービスが充実してきて、家にいながらにして、映画を楽しめる時代になりました。
けれど、私はやはり、大きなスクリーンで映画を見るのが好きで、映画館に出かけて行きたくなります。暗闇の中で1つの光を見上げ、あるのは作品と自分だけ。余韻も含め、他では得られぬ贅沢な時間を味わえるからでしょうか。
たまには、映画館にお出かけになりませんか。座り心地のよい椅子が設置され、空気もきれいな映画館が増えています。60歳以上の方はシルバー料金で、とてもお得です。