花図鑑-薄(すすき)


薄は私にとって、子ども時代のある風景と結びついた特別な植物です。戦後間もないころ、日本全国、どこでもそうだったのですが、我が家も貧しくて花を買う経済的余裕などありませんでした。けれど、母は野原や道端で積んできた野の花を一輪か二輪と活けて、暮らしに彩をそえてくれました。
ある年の秋、「今日はお花見だから」と母と私とで丸い小さな団子をいくつも作り、父の徳利にさした薄と並べました。そして満月が空に昇り、爽やかな風が部屋を吹きぬけ……なんでもない父の白い徳利が月の光に照らしだされ、薄がそよとそよぎ、私は幼心にモノトーンの美しい絵を見ているような気がしました。薄をみるたびに、私は、美しい暮らしに目覚めたその日のことを思い出すのです。
箱根にある仙石原湿原植物群落は国の天然記念物に指定されています。その近くには「箱根湿性花園」があり、シーズンごとに多くの人で賑わうのですが、特に秋は見ごたえがあります。まるで薄の海ではないかと思うほど、一面の薄が穂をゆらすのです。その光景は自然の美しさだけでなく、力強さをも感じさせてくれるほどです。
薄はまた、秋の七草のひとつです。別名として尾花という名前も持っています。穂が尾の形に似ているからでしょう。
秋の七草は、萩 尾花、葛、なでしこ、女郎花、藤袴、桔梗の7つ。
「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七草の花。萩の花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花また藤袴、朝顔の花」 (山上憶良) 

という歌があります。「朝顔」はヒルガオ科のアサガオ(平安時代に渡来)ではなく、キキョウであろうとされています。

イネ科 Poaceae  ススキ属
花言葉は「勢力・活力」

花図鑑-ダリア

photo provided by 季節の花300
夏の花というと、まっさきに思い出すのが、ダリアとカンナとひまわりです。
今から20年以上も前のことですが、奥三面という集落に3年間の間、通ったことがありました。新潟の村上市からバスで約50分、それから山道を行き、さらに村営の船で三面川を約30分、のぼり、船を下りて、さらにバスで約1時間行った先にある42戸ばかりの集落。この奥三面がダム建設のために水没することを知り、水没する前にその村のことを知りたいと、何度も何度も通いました。夏休みにはまた小さかった4人の子どもを連れて、約2週間、民泊もしました。山に流れる清らかな川で、子どもたちは毎日遊び、どちらが前か後ろかわからないほど、真っ黒に日焼けしたものです。その夏、村のいたるところに咲き乱れていたのが、ダリアとカンナとひまわりでした。
その花の風景といったら……ことばを失うほど、胸にしみる鮮やかさでした。私にはそれらの花が、水没する前の最後の短い夏を惜しむかのようにして暮らす集落の人々の姿と重なってみえました。ダリアもカンナもひまわりも、大らかで、伸びやかな花なのに、夏に出会うたびに、胸がキュンと切なくなってしまうのはそのためでしょうか。
今はこぶりなダリアが多く売られていますが、私は、大きく育つダリアに、やはりひかれます。ちなみにダリアはメキシコ原産で、メキシコの国花でもあります。
菊科。
花言葉は「エレガント、華麗」

花図鑑-朝顔


『朝顔』
先日、若狭の家にいったら、その軒先に、朝顔が花をいくつもつけていました。こぼれダネから芽をだしたのでしょうか。気がつかず、支柱もたててあげなかったので、地面をはうようにツルを伸ばしていました。でも、それだからこそなおのこと、野のたくましさと、花の可憐さが際立って、感じられました。
朝顔は奈良時代の末期に中国からもたらされたとか、朝鮮の百済から持ち込まれたとかいわれています。最初は薬用として栽培されていたのですが、江戸時代の文化・文政年間(1804~30)には品種改良に人々は熱狂しました。朝に開いて、昼にはしぼんでしまう朝顔に、町民から武士、僧侶にいたるまで、夢中になって、争うように朝顔を求めたといわれます。日本人の心をつかむ何かを、この花はもっているのかもしれません。
「朝顔に つるべとられて もらひ水」 加賀千代女
ヒルガオ科
昼顔(ひるがお)科。
花言葉は「愛情・平静」

『農業改革と国際農業交渉 タウンミーティング』

私はこれまで40年以上、日本の農村を歩いてまいりました。お訪ねした市町村は1200にものぼります。また、農山漁村の伝統食などの”食”によって経済的自立をはかろうとする女性グループをバックアップする、食アメニティ・ネットワークを主催して、今年で16年目になります。
そんなご縁で、農業ジャーナリストとしての仕事も続けてきました。農業ジャーナリストとして、私に他の方々と違うところがあるとしたら、ひたすら現場を歩き、多くの農業従事者、そうした方々の生の声を常に耳にしていることではないかと思います。
5月14日、品川インターシティホールにて開かれた「農業改革と国際農業交渉 タウンミーティング イン東京」に、中川昭一農林水産大臣、農業法人「清水農場」経営清水紀雄さんと共に、農業ジャーナリストとして出席しました。
農業者の高齢化と減少が進む一方、国外に目を向けるとWTOやEPAなどの国際交渉によるグローバル化が進展しており、国際化の流れにも対応しうる農業と、その中で豊かで健全な食生活を実現することが、今、求められています。このために、いかに私たちは取り組んでいくべきだろうということについて、熱い論議がかわされました。
私も、次のようなことを述べさせていただきました。
『農は食であり、食の先には人々の暮らしがあります。どこで、どんな風に育てられたどんな食材を、どう調理して、誰といつ食べているのかといった食文化は、すなわち日本という国のあり方を物語るものなんですね。さらに土・水・生物によって支えられる農業は、自然の循環機能を基礎とするものであり、環境の動脈といっていいほど、非常に重要なものでもあります。
しかし20世紀、日本の農業は勢いを失ってしまいましたが、21世紀は農業の時代にしていかなくてはなりません。最近になって、多くの農村の女性たちがファーマーズ・マーケットやグリーンツーリズムなど、新たな農業のあり方に果敢に取り組みはじめるなど、新しい波が少しずつ起きています。今こそ、生産者・消費者それぞれがひとりの人間として市民として、自分たちの食を考え、日本をもう一度、農の国にするために、行動していかなくてはと思います。
農は命。「食育」も必要です。女性の力にも期待しています。
そして、いつか、生産者・消費者という枠を越えて、「農は命である」或いは「食は命を育む」という思いを共有していく社会にしていきたい。そのためにも、農業が今、どういう状況なのか。情報をオープンにして、交流の場を作っていくことが必要です。微力ながら、私も行動していければと思っています』
この詳細、あるいは「食育」「外食産業」「家で調理をするために」「有機野菜」「BSE、鳥インフルエンザ問題」「スローフード」「グリーンツーリズム」「地産池消」「遺伝子組み換え食品」などの各論については、こちらをクリックしてください。

花図鑑-やまぼうし

毎朝、私は箱根の山を1時間ほど歩きます。山の緑の空気を胸いっぱいにすって、土の感触を確かめるながら1歩1歩、足を踏み出していくうちに、自分が自然にリセットされるような気がします。散歩の時間が、今ではかけがえのない自分との対話の時間となりました。
その道々、私の心を明るくしてくれるのが、植物の姿です。山にはいろいろな木や草がしげっており、四季おりおり、さまざまな表情を見せてくれます。
また、我が家の庭にも、それぞれの季節を感じさせてくれる植物がたくさん。そんな庭で過ごす時間もまた、心を休める大切なひとときでもあります。それから、旅に出たときにも、小さな野の花を見つめている自分に気がつき、はっとすることもあります。
植物には、人の心に優しく作用する不思議な力があるのではないでしょうか。私はその力に、特に強く感応してしまう性質(たち)なのかもしれません。
私の心を温かく照らしてくれる草花や木をご紹介します。


『ヤマボウシ』
私がいちばん好きな花、それがこのヤマボウシの白い花です。
5月の中旬から 6月の中旬頃が花の季節といわれますが、箱根では6月の半ばに例年咲いてくれます。
中央の丸い花穂が坊主頭、4枚の白い花びらを白い頭巾に見立て、
比叡山延暦寺の「山法師」になぞらえられ、この名前となったのだとか。
でも、下から見上げたのでは、この花の形まではわからないのですが、横、
あるいは上から見ると、本当にきれいな形をしていることに驚きます。
10年に1度くらいの割合で、箱根の山が真っ白になるほど、よく咲いてくれる年が訪れます。それはそれは心に染み入るような美しい風景です。中国名は「四照花」。満開のとき、四方を白く照らす様子を表現している名前だと聞きました。なるほど、と深く納得させられるネーミングだと思いませんか。
秋には赤い実がなります。
水木(みずき)科
学名:Cornus kousa
(Cornus:ミズキ属、 kousa:昔の箱根の方言で、ヤマボウシを「クサ」と呼んだことからついた学名だそうです。
箱根住民としてちょっと嬉しい学名です)
・6月15日の誕生花
・花言葉は「友情」