『家めしこそ、最高のごちそうである。』

作家でジャーナリストの佐々木俊尚さんの書かれた本(マガジンハウス)です。
毎日新聞の記者時代はそれこそ寝る時間もなかったそうです。
警視庁捜査一課という殺人を扱う部署担当で激務の毎日。
とうとう病魔に襲われ、大きな脳腫瘍がみつかり手術をし、復帰後は取材部署を移してもらっての生活。最終的には退職しフリージャーナリストとして、IT・メディア分野を中心に執筆し、忙しい日々のかたわらほぼ毎日自宅で料理を作っておられます。
本の”はじめに”に「この本のメッセージはたいへんシンプルです。ひとことで言えば次のようなこと。値段の高いスーツを着て食べに行くフレンチレストランみたいな派手な「美食」ではなく、かといって散らかった家でジャージを着てむさぼり食うコンビニ弁当や「鍋の素」でつくった人工的な味の鍋のごとき「ファスト食」でもない。さらにいえば、やたらと無農薬有機野菜やオーガニックにこだわる「自然食派」でもない。その外側に、もっと別の素晴らしい食文化が可能なのでは、というメッセージです。しっくりなじむ洗いざらいの綿のパンツと清潔なシャツを着て簡素な台所に立ち、素早く手軽に、しかもお金をかけずに健康的で美味しい家めしをつくる。そういう生活が、いま求められているのではないでしょうか。」・・・と書かれています。
奥さまと二人暮らしで、外食の予定がないときは朝と晩、毎日作っておられるとの事。私は1943年生まれ。佐々木さんは1961年生まれ。私70歳、佐々木さん52歳。1970年代の家庭料理ってどんな感じだったのでしょうか。ご本の中にも書かれていますが、作家・向田邦子さんのドラマ『寺内貫太郎一家』や『あ・うん』など向田さんのホームドラマに出てくる食卓風景。今ほど食材も豊かではありませんでしたよね。外食なんてほとんどありません。たいへん興味深いご本でしたのでラジオにゲストとしてお越しいただきました。まず「家めし」という言葉の響きがいいですよね。男性的で力強さを感じつつ、誰かと一緒に食べたいという温かさもあります。
バブル時代の外食ブーム以降、家庭料理がどう変化し、どのような状態になっているのか・・・をお聞きした中で、興味深かったのが冷凍食品やスーパーのお惣菜等の進化に押されているものの伝統的な家庭料理が復活しているそうです。
なんとその狼煙をあげたのは「ヤンママ・ギャルママ」たちなのだそうです。
「え~そうなのですか!」と思わず伺ってしまいました。彼女たちはだいたい二十代前半くらいで、なかには十代で子どもを生んでいる人もいます。子育てで忙しいから仕事は難しく、同じように若い夫の収入に頼って生活をしていて、お金には余裕がありません。その分時間には余裕があり、地方などに住んでいればご主人は、そう遠くには勤めていませんから帰宅も早く、家族で食事をする時間がとれるそうです。お金はないけど時間があって、家族で食事ができる。人気なのが「なんちゃって」レシピ。ちくわに海苔を重ねて照り焼きして「なんちゃってウナギの蒲焼」・・・お金がないから冷凍食品もひかえます。醤油・味噌・酢といった基礎調味料を使うそうなのです。佐々木さんはおっしゃいます。「それがギャルママ料理の特徴です」と。
なるほどね・・・。
洋服は自分で作り、食費は「なんちゃって」で倹約。正直私などは地下鉄に子どもをバギーに乗せ、高いヒールで乗り込む彼女達に「???」と思っていましたが、なるほど、と納得できた部分もありました。
最近の家めしって、「手抜き」と「やり過ぎ」の両極端になっていると思います。ともおっしゃいます。本の中には簡単でセンスのいい料理の数々が載っています。参考にしたい料理が満載。中でも本を読んですぐに実践した料理。これはご一緒している寺島アナウンサーも一緒でした。
『天ぷら、たったひとつの冴えたやり方』
なかなか家ではパリっと揚げられませんよね。それはころもに水のかわりに焼酎を、揚げ油にオリーブ油を使うこと。焼酎はなんでもかまいません。オリーブ油は高級品はもったいないので使ってはダメ。ちょうど我が家に友人から「タラノ芽」をいただいたので揚げてみたらびっくりするほどカラッとあがりました。それから春キャベツのお好み焼き。キャベツはざく切り、ボウルに卵を割りいれ塩はきつめににふる。そこにキャベツをドサッといれ手でしっかりかき混ぜます。卵とキャベツがからむまでしっかり焼きます。どっさりキャベツが食べられとても美味しいです。
何だか長々と書いてしまいましたが、とにかくすぐに作りたくなる料理の数々。
テクノロジーと社会の衝突をテーマにした本をたくさんだされてきた佐々木さん。「これからは会社に安住できる時代は終わり、個人と個人がつながってさまざまな生き方を模索していくようになる」とおっしゃいます。まさに「家めし」のあり方を考える時代ですね。
「文化放送、浜美枝のいつかあなたと」
放送は5月11日(日)日曜10時半~11時
ぜひお聴きください。