岩波ホール

先日、新聞の読者投稿を見て感激いたしました。
(1月22日付、朝日新聞)

岩波ホールが今年7月に閉館することへの嘆きの声です。本当に映画好きの方なのですね。「行けば必ず心に残る映画に出会うことができた。思い出をありがとう」という、感謝に満ちた惜別の辞でした。

私も思わず、同感です!と声に出してしまいました。

およそ半世紀の歴史を誇る岩波ホールは、しばしば”ミニシアターの草分け”と称されますが、岩波ホールは岩波ホール、やはり特別なのです。

私が俳優の卵で、少し背伸びをしながら歩くような生意気盛りの女の子だった頃、”映画文化”を教えてくださったのが岩波ホールでした。正直に言いますと、「神保町へ行く!」というのはちょっとカッコ良かったのです。

撮影所のあった成城からバスと地下鉄を乗り継いで、本好きの人たちが集まる街へ出かけるのです。駅のビルからエレベーターに乗り、10階の岩波ホールへ向かいます。そこには、まさに夢のような別世界が広がっていました。  

フランスのヌーベル・バーグが大好きだった私が、欧米に限らず、アフリカ・中央アジア・中南米などの映画に引きつけられたのも岩波ホールのお陰でした。50年近く、どれだけの映画をここで見続けたことでしょう。

昨年だけに限っても、「ブータン山の学校」、「大地と白い雲」、「夢のアンデス」を食い入るように見つめました。撮影の舞台はブータンや内モンゴル、そして、チリに広がります。

岩波ホールの魅力が作品の選択にあるのは当然ですが、それと同時に支配人・岩波律子さんのキメ細かい心配りが光っています。先ほどの新聞の投稿者は、こう書いています。

「上映が終わると、支配人は出口で、”ありがとうございました。いかがでしたか”と声をかける。こんな映画館は他にはない」と。

私も同じような経験をしたことがあります。出口で、「頑張ってください!」と激励すると、ニッコリ笑って、ガッツポーズが返ってきました。  

4年ほど前、私が担当する文化放送の番組にゲストでおいでいただいたこともありました。 「予告編を入れないのは、これから見る作品に集中してほしいから。初日ご挨拶を欠かさないのは、皆さんの感想を直接お聞きしたいから」。

映画を軸にした交流の場が、岩波ホールだったのですね。そこには、映画ファンが浮き浮きするような時間と空間が広がっていたのです。

7月末の閉館日まで、これからも何度も通うつもりです。そこで投稿者の方と同じように、「思い出をありがとう。そしていつの日にか、また」と、心からの御礼を申し上げるつもりです。

岩波ホール公式サイト
https://www.iwanami-hall.com/

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