新年を迎えて

生きることは  ひとすじがよし  寒椿
この句は、私たち映画界の大先輩である五所平之助監督が詠まれたものということですが、箱根の山々に木枯しの吹く季節になると、自然とその大好きな句が思い出されます。
朝、冬枯れの庭に出てみると、木々の枝にうっすらと雪が積もっているなかで、ひときわ鮮やかに咲き誇る寒椿の花。強い寒風に吹かれながらも凛と華やかな薄紅色の花弁は、ひとすじに生きることの美しさと尊さを教えてくれているようです。
いま、新しい年を迎え、私たちが生きて暮らしているこの日本という国を、「誇りに思っている」と胸を張っていえる人がどれだけいるでしょうか。
物質的には恵まれた豊かさの中にあり、情報もふんだんに溢れ、平和も、自由も、世界の国々に比して少しも引けをとらない程に手にしているのに、なぜ私たちはいまの暮らしを心から「幸福」と思うことができないのでしょうか。
ずっとそのことを考え続けておりました。
私たちがそれぞれ心に再び取り戻すべきもの、誇りをもって子や孫の世代に受け継ぐべきもの、それはこの日本が戦後のあいだに捨て去ってきたものの中にあったのです。
戦後の日本はまさに「物」と「お金」だけを必死に追い求めた時代でした。そしてそれを得ただけでは人間は心から幸福になれないことに私達は気づきました。
かつては人びとの暮らしの中に当たり前のようにあった文化や、自然の理に適った習慣や、四季の移ろいによって美しく変化する国の景観や・・・そうしたものこそが尊く、人びとの心の拠りどころであったはずなのに、知らぬ間に軽んじてきました。
私たちの世代は「美しい日本の暮らし」の片鱗を、幼いころに経験した最後の世代であるならば、それを次世代に受け継ぐべき大事な使命を担っているように思います。
「此ん頃はてんごりもあまり見られんようになったなぁ」
と聞いたことがあります。「てんごり」という耳慣れない言葉は、「手間がわり」という語源を持ち、
「互いに手伝い合う」という意味を持つ若狭地方独特の方言です。農村社会においては重要なこと。都会でもお互いさま。どんなに近代化が進んでも「てんごり」の精神だけはいつまでも守り続けていきたいものです。
今年も「食・農・美しい暮らし」をテーマに歩んでまいります。
新しい年が皆さまにとって佳き年でありますよう、お祈り申し上げます。
2011年1月1日 浜 美枝