若狭 初夏の蛍

夜明けどき、深い穏やかな眠りのなかにいた私は、家の遠く近くでする鳥のさえずりに目を覚まします。あのいそがしげな鳴き声は、ホトトギスかしら?そう、ホトトギスは「時鳥」と書いて夏の到来を告げる鳥。

福井県若狭の地。私が30年ほど前に古い茅葺の農家を移築して、”田んぼを持ちたい、お米を作りたい!”との思いで、自分へのプレゼントとして設けた「故郷の家」です。「農・食」をテーマに学んでいた時代。けっして生易しいことではないと承知で、専業農家の方、村の方々に教えていただき「10年・10回」は経験したかったのです。  

私はパジャマのままで縁側に座って、いつまでも、時を忘れてその美しさに見入ります。  

植田水 なみなみと日の 上りたり   石原舟月
文机に 座れば植田 深く見ゆ     山口青邨

若い日々、農家の人々の暮らしのなかの道具やモノに寄せていた私の関心は、それが深まるごとに、農業そのものへと少しずつひろがっていきました。 スーパーマーケットに行けば、一年中季節にとらわれることなく食べものがあふれかえっているこの時代。でも、どうでしょうか?このような世界事情で食べものが海外から入ってこなくなる!なんて予測したでしょか?

自給率の低い日本。田んぼで言えば休耕田がますます増えてきました。飢餓状況にある国々の人たち。私はずいぶん前から、日本の農政のあり方に疑問を持っていました。フランスもドイツも、他の国々はそれぞれ「農業国」でもあるのです。

その季節にとれたものを、その日の食卓にのせる。その食卓にのった食材によって季節の移ろいを感じ、また、旬の食材を尊いと思う。時を選ばず何でも手に入る環境にいる子どもたちこそハンデが大きい、と思います。  

ある夏の日。午後から降り出した雨のせいもあり、一日じゅうゆっくりと読書三昧の日をすごしました。雨上がりの夜八時過ぎ、「そろそろ蛍が舞うよ」と近所の方が教えてくださいました。

家を出ると水田のあぜ道に行ってみました。その時、私はその水田のなかに、ほんとうにこの世のものとは思えないような光景をみたのでした。月を背負ってそこに立っている私自身のシルエットが、水田の水面にくっきりと映っています。

ノースリーブにギャザースカートの黒い影が、水の中でゆらゆらと揺れていました。そしてしばらくすると、そのスカートの形のなかに何十匹もの蛍が、美しい光を放ちながら舞っているではありませんか。蛍たちがスカートのシルエットなかで踊っているさまをいつまでも眺めていました。

先日の新聞(7月2日、日本経済新聞「くらし探検隊」)に興味深い記事が掲載されていました。「日本固有種であるゲンジボタルの発光の周期は東日本と西日本で違う」そうです。

光って飛び回るのはオスで、葉に止まったメスに求愛しているのですが、この求愛の発光回数が日本列島を東西に分けると東は4秒に1回の「長周期形」、西は2秒に1回の「短周期形」に分かれるそうです。

九州の西端の五島列島は、1秒間に1回光る「超短期型」だそうです。「どうやら西に行くほど求愛はせっかちになるようだ。」と書かれており、わぁ~知らなかった!ということばかりでした。

でも、私は紫式部の「源氏物語」に由来する…お話しのほうが夢があっていいな~と思いました。(これにも諸説あるそうです)   今年は猛暑に雨、生産者の方々は全国でご苦労されております。頑張ってください!

若狭はお陰さまで早生には少しづつ穂が見え始めたそうです。早くコロナが落ち着いてまた縁側から見える山々の稜線を見に行きたいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です