映画『歩いて見た世界~ブルース・チャトウィンの足跡』

ノマド(放浪の民)という言葉に、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。人類の長い歴史と未知の世界、そして、知らないことへの好奇心。

先日、心温まる映画を見ました。

アフリカ大陸の東側と言われる人類発祥の地。そこからアジアやアラスカなどを経て、南米のパタゴニアに辿り着いた古代人。また、オーストラリアで独自の文化を築いた先住民のアボリジニ。そんな移動の歴史や文化の形成に強い関心を持ち続けたイギリスの作家がいました。

そして、彼の行動に深く共鳴したドイツの映画監督がいたのです。2人の”共同作品”に出会いました。

英語の原題には、「Nomad」というタイトルが付いていました。 
『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』

作家のチャトウィンは30年ほど前に病気で亡くなりました。この映画はチャトウィンという人物をじっくり掘り下げたドキュメンタリー映画で、関係者への膨大なインタビューを軸に構成されています。

この作品の最大の特徴は、チャトウィンが歩いた行程をヴェルナー・ヘルツォーク監督が自分の足で体験したことです。2人は40年近く前にオーストラリアで知り合いました。そして、ヘルツォーク監督の「世界は徒歩で旅する者にその姿を見せる」という言葉に感銘を受けたチャトウィンは、共に歩み続けることにしたのです。

この映画には2人の思想が色濃く投影されています。自分の足で歩き、旅を続け、人との触れ合いの中で温もりを感じる。スクリーンからは心地よいパワーが溢れでてくる、素晴らしいドキュメンタリー映画でした。

この作品は3年前、チャトウィンの没後30年を機に作られました。ヘルツォーク監督はチャトウィンに向けて、友情に満ちた送別の辞を、改めて捧げたのでしょう。この映画のエンディングにはチャトウィンが自らの作品を朗読する音声が流れます。

映像は緑溢れる木々の出迎えでした。チャトウィンはユーカリの木陰で命を終えたということです。この最後のシーンには、遥か先に木漏れ日が見えていました。決して終わりではない、新たなスタート。

これからもエンドレスのバトンタッチを繰り返していくのだという、凛としたメッセージを感じることができました。  

この映画は岩波ホールで拝見しました。今月29日に最終日を迎える岩波ホールでの最後の上映作品でした。そして、それにふさわしい映画でした。

人生の旅の光を見つめることのできる、とてもいい映画に出会えました。   コアラが食べることで知られるユーカリ、花言葉は「再生」とのことです。

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