とても小さな”文化大国”から、伝説的な女性映画監督の作品が届きました。
岩波ホールで上映すると聞き、すぐに飛んでいきました。
「金の糸」
心優しく、そして心美しくなるような映画でした。
舞台はアジアとヨーロッパが交わる ジョージアの首都・トビリシ。主人公の女性は小説家です。彼女が迎えた79才の誕生日を、同居する家族は誰も気づきません。娘は、アルツハイマーになった姑、つまり夫の母親を引き取ると宣言します。
そんな時、誕生祝いの連絡をくれたのは昔の恋人でした。スマホで電話をかけてきたのです。改めて、思い出の糸をほぐし始める二人。
トビリシの旧市街で若い二人が踊る回想シーンは、あまりに詩的で、美しすぎるほどでした。
結局、姑は同居することになります。彼女はかつて、旧ソ連の支配体制側に身を置いた政府の高官でした。昔のカップルと旧体制の実力者。三人のそれぞれの思いが、夢も現(うつつ)も重ね合わせて紡がれます。
物語の展開は、ラナ・ゴゴベリゼ監督の体験が色濃く反映しています。今年94歳になる彼女は、政治家だった父親をスターリンの粛清で亡くし、映画監督だった母親も10年間の獄中生活を送ったのです。
そうした子供時代の悲惨な体験を踏まえて、ゴゴベリゼ監督は60年以上も前に映画監督の道を歩み始めました。
人生の途上で傷つき、ひびが入っても、きっと再生できる!そんな思いを作品に投影させたのでしょう。
タイトルの「金の糸」は日本の伝統的な工芸技術 ”金継ぎ” から着想を得たということです。陶磁器の欠損を漆で修復し、金などの粉で完成させる技法です。傷やほころびをただ嘆くのではなく、いかに再生させ、継承していくのか。監督は日本の精神的な価値観に惚れ込んだようですね。
歴史や文化を伝承しよう、そんな力強いメッセージでいっぱいのこの作品を見て、心が少し強くなったように感じました。
監督は次回作で、自分の母親について描くそうです。
日本の北海道より狭い国土に溢れ出る歴史と文化とプライド。ジョージアはやはり”文化大国”でした。
私が初めてジョージア映画に接したのは今から半世紀ほど前、もちろん岩波ホールでした。「ピロスマニ」。
一人の画家を描いた驚くほど魅力的な映像に、驚愕したのを覚えています。今回もまた、記憶に残る素晴らしい作品を見せてくださったジョージアと岩波ホールに、心から感謝いたします。
あと4ヶ月、映画の殿堂の空気を胸いっぱい吸い込むために、またお邪魔させてください。
映画公式サイト
http://moviola.jp/kinnoito/