ゴッホ展

先日、上野の東京都美術館で開催されている「ゴッホ展」にお邪魔しました。事前申し込み制で、入館時間も予約するなど、隅々に気配りの感じられる展覧会でした。

”糸杉”を描いた傑作、『夜のプロヴァンスの田舎道』が16年ぶりに見られるなどとても魅力的でしたが、私は展覧会のサブタイトルにも興味をもちました。

「響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」。

フィンセント・ファン・ゴッホの前に書かれているヘレーネとは、ゴッホの絵画に心底惚れ込んだ女性の名前です。

ヘレーネ・クレラー・ミュラー。彼女の夫はオランダの実業家で、輸送や金鉱開発などヨーロッパを越えた事業展開をしていました。若い頃から芸術や文学への関心が強かったヘレーネですが、三男一女の母となった後も絵画、ことにゴッホへの憧れは高まる一方でした。

ヘレーネが最初にゴッホの作品を購入したのは40歳を迎える直前でした。ゴッホの自死から20年近くが経っていました。ゴッホの評価は生前は勿論、没後も決して目立っていたわけではなかったようです。ゴッホに傾倒し絵画を集め続けたヘレーネは、個人としてはついに世界最大のゴッホ収集家となりました。そしてそれに引きずられるように、ゴッホの名声も国際的に確立していったのです。

その背景には夫・アントンの理解と協力があったのは当然ですが、芸術に対するヘレーネの変わらぬ情熱が夫を揺り動かしたのでしょう。素晴らしい”婦唱夫随”だったのですね。

しかし、ヘレーネの”ゴッホ命”の人生は、決して順風満帆ではありませんでした。彼女は40歳を過ぎてから大病を患い、医師から生命の危機を宣告されたり、第一次世界大戦による戦争景気とその反動などで夫の会社が経営危機に陥るなど、幾多の困難にも直面しました。

しかし、ヘレーネのゴッホに対する燃えたぎるような思いは全く萎えを見せませんでした。大病から復帰できたら美術館を作る!価値ある芸術を未来へ伝承するのだ!という病床での決意は、最後まで貫かれました。

こうしたヘレーネのゴッホ作品への向き合い方は、既に出来上がった名声や知名度ではなく、画家の持つ精神性への憧憬から生まれ出たものだろうと推測しました。

会場内を行きつ戻りつしながら、青空と太陽が眩しいアルル地方の作品も素晴らしいけれど、それ以前の「素描」に心を動かされました。農夫など労働者が黙々と働く姿。『ジャガイモを食べる人々』の生活臭。モノクロの絵画には、ゴッホのリアルな感性が溢れ出ていました。

40年に満たない人生を疾走した天才画家。70年の後半生を、ひたすらその画家に随伴した女性。 上野の会場には芸術への限りない崇拝と、それを後世に伝えるのだという強い信念が見事に重なり合っていました。

展覧会公式サイト
https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_vangogh.html

「ゴッホ展」への2件のフィードバック

  1. 九州の福岡市美術館でも12月23日から2022年2月13日まで
    開催の様です。

    年内は無理なので、年明けの新年の楽しみが出来ました。

    天気の良い、平日を選んでゆっくりと観賞したいです。

    日本人の大好きなゴッホ展きっと福岡でも大盛況かも。

    楽しみです❣

    1. 道崎 満寿男様

      そうですね。福岡美術館での巡回展は書かれておりました。
      ぜひいらしてください。
      そして、へレーネのゴッホ愛をぜひご覧いただきたいです。
      お天気の良い日の美術鑑賞は至福の時ですね。

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