没後10年 石井桃子展「本を読むよろこび」

翻訳『ピーターラビット』シリーズや『クマのプーさん』、創作『ノンちゃん雲に乗る』など優れた児童文学に生涯をささげた石井桃子さん(1907~2008)に光りをあてた展覧会「没後10年 石井桃子展」が横浜の海の見える丘公園内にある県立神奈川近代文学館で開催されております。(9月24日(月・振休)まで)

ある晴れた日、箱根の山から横浜まで、小さな旅をしてまいりました。

昭和初期から101歳で亡くなるまで、編集者、翻訳家、作家として幅広く活躍され、児童文学の研究や”家庭文庫”の開設など、その幅広い業績は多くの人々に影響を与えました。

今回改めて文学館で、書簡や原稿、また写真をはじめ、約400点の資料を丹念に見ていくと、石井さんは戦争の時代を乗り越え、働く女性の先駆者的な役割を担ってこられたことが良くわかります。

『クマのプーさん』の原稿を売り込む手紙や、児童文学者A・Aミルンが書いたプーさんのお話を親友のために少しずつ翻訳し、1940年に『熊のプーさん』として刊行したことも知りました。

私が生まれる3年前のことになります。あの軍国主義が広まっていく時代背景を思えば、大変なことであり情熱を注いだことがよくわかります。

石井桃子さんは1907年(明治40年)3月10日、埼玉県の浦和で、銀行員の父・福太郎と母・なをの間に生まれ、兄ひとり、姉四人、祖父母、いとこなど大家族の末っ子として愛されて育ちます。

住む家も敷地内に畑があり、自給自足の生活の姿は昔のまま。広々とひろがる田畑を遠く囲んで林が見え、その林の上に富士山が見え、それが、私の世界の果てであったと「幼ものがたり」に記されています。児童文学への素地はこのような環境におおいに関係があるのかも知れませんね。

日本女子大学校に在学中から、近くに住む作家・菊池寛のもとでアルバイトをし、その縁で卒業後、翌年、菊池が組織した「文筆婦人の会」の一員として文藝春秋の仕事に関わるようになります。「婦人サロン」や「モダン日本」の編集にも携わり、親友となった小里文子ともここで出逢います。

今回の資料で嬉しい発見がありました。それは、『なぜ、石井さんはプーさんに惹かれたのか』ということが分かったからです。

私は「クマのプーさん」が大・大・だい~好き・・・だからです。小学生になり、家は貧しかったので本を買うことはできませんでしたが、図書館でよく借りていました。何度も・何度も借りてきて読んだのが「クマのぷーさんプー横丁にたった家」でした。

1929年ころから、石井さんは菊池の紹介により作家で政治家でもあった犬養健の父・犬養毅の書庫の整理を任されます。

健や妻や子どもたちと親しく交流するなかで、『プー横丁にたった家』の原書と運命的な出会いをします。それは1933年(昭8)クリスマスイブの晩、犬養家に招待されそこでA・Aミルン作の原書に出逢い、犬養家の道子、康彦姉弟にせがまれその場で訳して聞かせながら、石井さんは「プーという、挿絵で見ると、クマとブタの合いの子のような一種不思議な世界に入り込んでいった」と「プーと私より」に書かれています。

この出逢いがなければ生まれていなかったかもしれませんよね!「クマのプーさん」は。

私はといえば「いつか働けるようになったら”プーさんの本”を絶対に買おう!」と決めていました。女優になりお給料をいただき1962年11月の第一刷発行を待って手にした『クマのプーさん プー横丁にたった家』。

今でも大切に手元に置いてありますし、それから・・・本を手にしてから4・5年経って東宝映画から「パンナム」の日本~ロスアンゼルス間の就航にご招待いただき、ディズニーランドにも連れていっていただき、そこで出逢った「プーさん」50センチはあるでしょうか。帰りの飛行機で私は膝に抱え大事に一緒に帰国しました。私の4人の子どもたちも一緒になって遊び、鼻が少し、取れかけたり・・・と、思い出がいっぱいです。

プーのあの丸々した、あたたかい背中は、いつもそばにありました。その背中は、私たちが悲しい時、つかれた時、よりかかるには、とてもいいものなのです。とりわけ、私が深くプーに感謝したのは死を前にしたある友だちを、プーが限りなく慰めてくれた時でした。(『熊のプーさん』あとがきより)

そうなのですね・・・石井桃子さんもプーに慰められたのですね。私も一緒。

今回の展覧会では、岩波の子供の本や、奨学金を受けて横浜港からアメリカへ出発し全米各地の公共の図書館見学や、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアなどまわり多くの有能な図書館員との交流は戦後の日本の児童文学の礎になったことでしょう。

こどもたちよ 子ども時代をしっかりとたのしんでください。
おとなになってから
老人になってから
あなたを支えてくれるのは
子ども時代の「あなた」です。

石井桃子
2001年7月18日

心に残る素晴らしい展覧会でした。

★会期中の関連イベントはすべて満席でした。残念!

神奈川近代文学館 公式サイト
https://www.kanabun.or.jp/exhibition/7991/

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