熊谷守一 生きるよろこび

寒い日が続くなか、春を感じるような穏やかで暖かい日、先日ラジオ収録後、竹橋の東京国立近代美術館に没後40年を記念して開催されている『熊谷守一 生きるよろこび』展を観に行ってまいりました。


熊谷守一の絵を最初に観たのは、そう・・・かれこれ50年ほど前だったでしょうか。倉敷の大原美術館に行ったときです。

エルグレコの「受胎告知」が目的でしたが、熊谷守一の「陽の死んだ日」(15号の油絵)にまず出会いました。

最初は「何が描かれているのかしら?」と思う絵でした。赤い布を首のまわりに巻いた子どもが目をつぶっている絵。画面右下に「陽ノ死ンダ日」と書かれているのを見て、「子どもの死」であることに気づきます。

”わが子の死を絵にするの?”と驚き『熊谷守一』を知ることになります。それは熊谷の最晩年の時期だと思います。そして、その魅力に引き込まれていってから、半世紀がたつのですね。

今回の展覧会は明治時代後期から亡くなった1977年まで、約70年間も絵を描き続けてきた画家の200点以上が一堂に会します。

97年の長い人生 貧困や家族の死などさまざまなことがありながら、また絵がまったく描けなかった時代、それでも友情に恵まれ、愛され、妻秀子との出会いにより作風も変化し、大パトロンの木村定三氏の出会いも大きな存在でした。

この人ほど人生の節目節目で素晴らしい人に出会えているのもきっと彼の人間性でしょうか。生涯、名利に背を向け、文化勲章も辞退したそうです。

田村祥蔵さんのお書きになった『仙人と呼ばれた男』(中央公論新書)をお読みになるとその生涯がよく分かります。「誰が相手にしてくれなくとも、石ころ一つでも十分暮せます」と帯に書かれていますが、田村さんはご本人にまた奥様からも直接お話を聞かれておられます。

書から水墨画、デッサン、日記、スケッチなど、また個人蔵で普段みることのできない作品もあり、その人生を深く知ることができます。

雨滴、豆に蟻、蝋燭、ヤキバノカエリ、猫、土饅頭、畳、そして私が50年前に衝撃をうけた「陽の死んだ日」も大原美術館からきていました。晩年は自宅の庭でネコ、カエル、蟻や雨の粒・・・小さなものへの愛情があふれます。

最晩年の「朝の日輪」には言葉ではあらわせない”生きるよろこび”を体ごと感じることができました。会場には外国人・中高年・若い方々など幅広い層の人たちでいっぱいでした。

私の住む箱根の山は雪が消えるまであと少し。
春の足音を感じながら帰路につきました。

東京国立近代美術館
3月21日(水)まで
10時~17時
土曜日は20時まで。
休館日(水・祝)
竹橋から徒歩5分
美術館公式ホームページ
http://www.momat.go.jp/am/exhibition/kumagai-morikazu/

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