詩とオードリー・ヘプバーン

友人から一冊の詩の本をお借りしました。

倚りかからず』(ちくま文庫) 茨城のり子著

よりかからず

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはやいかなる権威にも倚りかかりたくない
ながく生きて心底学んだのはそれぐらい
自分の耳目
自分の二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある

倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

そうですね・・・そうそう。
椅子の背もたれだけで充分ですね。
他に倚りかかって生きていくのは美しくないですね。

この年齢になって、この詩の偽りのない、美しい日本語が理解できるようになりました。他にも素敵な詩が収められています。

先日、日本橋三越本店 新館で開催されている『写真展オードリー・ヘプバーン』に行ってまいりました。22日(月)まで。

オードリー・ヘプバーン(1929~1993)は「ローマの休日」、「麗しのサブリナ」、「ティファニーで朝食を」、「マイフェア・レディー」など数々の名作品に出演し、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞など受賞しているのは皆さんもご存知ですよね。

痩身、大きな瞳と長い脚。ファッションセンスも抜群。世界中の人たちに愛されたオードリー。亡くなってからすでに25年が経とうとしているのに、会場は中高年と若い人も多少・・・いっぱいでした。

おちゃめな姿。妖精のようなしぐさ。会場の男性も女性もご自分の青春時代を重ねるように「あの映画・・・素敵だったわね~」などとお話ししながら一枚一枚を眺めていました。

スイスでの家族とのプライベート写真、ご主人のメル・ファーラと息子ショーンとの姿。そして、撮影の合間の写真など素顔のオードリーに出会えました。

私はシャンプーをしている姿や、セットの片隅で出を待つ姿。また自室で台本を手にしている姿など、今までに見たことのないプライベート写真など素敵な写真に出会いました。

会場には映画音楽が流れ私自身も青春時代に戻っていました。

私は幸せなことに、偶然二度彼女をお見かけしました。

一度は私が007の映画出演のため、ロンドンの格式高いドーチェスターホテルにかんずめにされ(笑)英語のレッスンに明け暮れていた毎日。

夕方終わり、クタクタになり格式あるホテルですのでジーンズというわけにはいかず、着替えてロビーに降りてゆきソファーに腰掛けひと息入れていたとき、回転ドア(現在はオーナーも変わり当時の面影はありません)が開きドアマンがレディーを迎えいれていました。

その周りには”オーラ”が輝き・・・そうなのです”オードリー・ヘプバーンさん”が入っていらしたのです。ジパンシーのベージュのコートをエレガントに着こなし、妖精のような大人の女性の気品があり、周りの人たちも静かに彼女を迎えていらっしゃいました。私はただ見とれているだけ。ため息がでそうな美しさでした。

もう一度は、彼女が女優を引退されユニセフの活動を熱心にされていらした時代。東京駅で偶然お見かけしました。

新幹線のエスカレータを上がると何か雰囲気が違い、どなたかいらっしゃるのかしら・・・と思いました。ちょうどオードリー・ヘプバーンさんが新幹線に乗る時でした。

スーツケースを関係者の人が持とうとしたら「ありがとう、これは私の荷物、自分で持ちます」と仰り新幹線の入り口に入れておられました。

私は感動しました。年を重ね、もう若くはなく、でも顔のシワすら美しく、背筋を伸ばして乗り込んだ彼女を”本当の大人の女性”だと思いました。

写真展を見ながら彼女の人生も順風満帆というだけではなかったはず。

しかし、”倚りかかるとすれば それは 椅子の背もたれだけ”の詩が脳裏に浮かびました。

詩、写真。

豊かな一日でした。

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