宮沢賢治の真実:修羅を生きた詩人

皆さまは「宮沢賢治」ってどんなイメージをお持ちでしょうか?
清らかな心、詩人、教師、あるいは星をイメージする方もいらっしゃるでしょうね。テレビデレクターの今野勉さんが今回お書きになった本「宮沢賢治の真実」は、従来のイメージを一変させ、私たちに真実の賢治を教えてくれるノンフィクションです。
私自身、何冊か賢治の本を読んではおりますが、まったく理解していなかったことに衝撃をうけます。「農業を愛した人・賢治」この部分だけでも私は深く影響を受けたと思っておりましたが・・・本を読みますます”真実”が知りたくてラジオのゲストにお招きしお話を伺いました。
今野さんは1936年、秋田県生まれ。
東北大学文学部卒業後、ラジオ東京(現在のTBS)に入社。1970年に退社後、日本初の独立系テレビ番組制作会社「テレビマンユニオン」の創設に参加しました。テレビ草創期から数多くのドラマやドキュメンタリーの制作に携わっています。著書には「テレビで嘘を見破る」「金子みすゞふたたび」などがあります。
本を書くきっかけはある新聞社からのコラム執筆いらいが最初とのこと。宮沢賢治の全集を一から読み直し「文語詩」の巻を読み進めると、とある詩に出会います。
『猥れて嘲笑(あざ)めるはた寒き』で始まる四連の詩には猥褻の「猥」で始まるほか、「潮笑」、「凶」、「秘呪」といった字がでてくるのです。そこに使われている字句を眺めていると、嫌悪や憎悪や怒りなどが入り混じった気配が感じられた・・・と書かれております。これまでとは別人の賢治。何を訴えたかったのか・・・そこから今野さんの真実へのアプローチが始まります。
今野さんはこれまで四人の宮沢賢治に出会ってきたとおっしゃいます。
「生命の伝道者」
「農業を信じ、農業を愛し、農業に希望を託した人」
「野宿の人」
「子どものお絵かきのような詩を作る人」
そうここまではイメージが浮かんできます。そこからです、今野さんの五人目の賢治の謎解きがはじまるわけです。私などまったく知らない分からない賢治像。異様な詩の背景には、賢治の最愛の妹「とし子」の恋があったという、また賢治自身も同性との恋がありそんな複雑な気持ちの表れなのでしょうか。この辺のことはラジオで今野さんの言葉で直接お聴きください。
今野さんは、賢治関連の蔵書百数十冊を読み込み、地道な取材が根底にあり、謎に迫ります。実際に賢治が歩いた道を歩き、旅は続きますし同時にすごいなと思ったのが、謎に迫るときのアプローチの仕方です。例えば、賢治が目にした光景を確かめるために、盛岡地方気象台に大正11年(1922年)の初雪の日を問い合わせているのです。
さらに、今野さんはあのタイタニック号の事件を賢治はいつ知ったのかについても当時の雑誌・新聞を手に入れて謎を解明していきます。「銀河鉄道の夜」と「タイタニック号事件」が結びついている・・・なんて私は全く知りませんでした。
賢治の心象スケッチ「春の修羅」の中で妹のとし子が亡くなる時の場面「永訣の朝」の現場についても今野さんは真実を突き止め、私たちをまるでその場にいるような映像を文章で再現してくれます。『凄腕のドキュメンタリスト』の6年にもわたる”真実”を追う姿から印象に残った言葉は「宮沢賢治が抱いた悩み、苦しみ、孤独などは今を生きる人にも通じるものがある」ということでした。好きな人にも真っ直ぐで、妹を思いやる気持ちも痛いほど伝わってきます。
本を読み、お話を伺い賢治という人は、私たちの身近にいるような存在だったとも感じました。
今回の本は新しい宮沢賢治に会える、まるで推理小説を読むような面白さがあります。
ぜひラジオをお聴きください。
そして本をお読みください。
文化放送「浜美枝のいつかあなたと」
日曜10時半から11時まで。
4月23日 30日と2回です。


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