NHKラジオ深夜便「大人の旅ガイド~岡山県・勝山」

今回ご紹介するところは、岡山県北部に位置する真庭市勝山です。
勝山は、瀬戸内と山陰を結ぶ交通のかなめにある美しい町です。
町を囲む蒜山(ひるぜん)三山をはじめ、山々が檜や杉など森が深く、日本の滝百選に選ばれた、神庭(かんば)の滝は、湯原奥津県立自然公園の一角にあり、落差110m、幅20mの勇壮な滝です。

てっぺんから流れ落ちる滝の姿はなんと美しいことか。滝の水しぶき、樹木の匂い、辺りに漂う樹齢の空気に清清しさを感じ、思わず深呼吸をたっぷりしました。きっとマイナスイオンが身体中にいきわたったでしょう。一帯には約180匹の野生の猿が生息し、訪れる人に愛嬌をふりまいています。私が訪ねたのは10月でしたので、今頃は紅葉が一段と美しいことでしょう。
勝山はかつて出雲街道の宿場町として栄えた町で明治までは木材で賑わっていたそうです。けれども時代が経るにつれ、その賑わいは失われていきました。それが今、再び、近くの湯原温泉のお客さんをはじめ、大勢の人が集う町になりつつあります。勝山の何が人々を惹きつけているのでしょう。
3月の「勝山のひな祭り」の頃は3万人ほどの人が集まるとか・・・。どこの家々もお雛さまを飾って観光客を楽しませてくれるとのこと。そんな暖かい気持ちが伝わっているのですね。
さらには、白壁の土蔵や連子格子の家々が連なる城下町の風情でしょうか。そして、町並み保存地区の通りに面した軒先にかかる草木染めの暖簾。商店はもとより個人の住宅にも暖簾が揺れています。一軒ごとに違う大きさや柄、たとえば自動車修理工場の軒先にはモダンな自動車の絵柄、幾何学的な自転車柄、タイヤのわだち、野菜、野の花、櫛模様・・・まあ、にぎやかな事。でも全体がシックにまとまっています。今では110軒中92軒が暖簾を揚げています。

約13年前、東京・女子美術大学でテキスタイルを学び教えていた草木染め作家・加納容子さんが、家業の酒屋を継ぐためにUターン。店に自作の暖簾をかけたのがきっかけで、その美しさにひかれ「うちにも」「うちにも」と暖簾をかける家が増え、今の姿になったといいます。
私が訪ねた時には、どの暖簾の下にも野の花が飾られ、訪れる旅人を出迎えてくれます。その見事な組み合わせに思わず足を止めると、「お茶でも召し上がりませんか」と何人もの方に声をかけられました。それがまた、気負いを感じさせない、自然な雰囲気なのがとても嬉しかったのです。

そして、私にとっての旅の魅力のひとつに地酒があります。
ここ勝山には創業二百年余年の、この町にただ一軒残る酒屋があります。
辻本店の酒です。
旭川の伏流水がまろやかさを醸し出します。仕込みの陣頭にたつのは辻家のご長女。酒蔵は女人禁制の世界でしたが、現在では見事に長女の麻衣子さんにより酒造りが行なわれているといいます。歴代の杜氏が惜しみなく技を伝えてきたのでしょう。
この勝山には水のよさから、美味しい蕎麦屋もあります。当日私は残念ながら休日にあたり食べられなかったのですが、この蕎麦やは何でも倉敷から、この水のよい勝山に食道楽の人たちの求めに応じてやって来たとのことです。
酒蔵・蕎麦や・そうそう・・・美味しい饅頭屋さんもあります。
もう、これだけあれば、すっかり旅気分。
ところで、この町並み保存地区には一切、ゴミ箱がないのです。そのかわりに旅人がゴミを手にしていると、町の人が「お捨てしましょうか」とすっと手を差し出す。それぞれ数万人もが訪れるひな祭りや喧嘩だんじりこと勝山まつりでも、それで、まちは少しも汚れないといいます。
勝山は旅人と町の人がお互いを慮り、理想な形で交流ができているのではないでしょうか。相手のことを慮り、誠意を尽くして行動する勝山の人々。そして、訪ねる観光客もけっして土足で入らない・・・理想の町をみました。
勝山の見所はいろいろあります。神庭の滝 町並み保存地区では暖簾や土蔵や格子、旭川沿いには往時を偲ばせる高瀬舟発着場後が残っています。郷土資料館には、縄文時代からの民族資料、旧藩主・三浦藩に関するもの、戦時中に勝山へ疎開していた谷崎潤一郎の資料も展示しています。入り口を入ると、休憩所があり暖かいお茶で迎えてくれます。武家屋敷は往時の姿で現存しています。
のんびり、ゆったり・・・勝山の町を散策してください。
岡山駅前から直通のバスが出ていて便利です。勝山まで約2時間の旅です。
JR岡山駅から伯備線で新見駅へ。姫新線に乗り換えて中国勝山駅下車。
岡山駅から津山線で津山へ向かい、姫新線に乗り換え勝山駅で降りる方法もあります。
どちらも所要時間は約3時間。
駅を出て左方向に「檜舞台」と書かれた門をくぐると暖簾の町並み保存地区。
小さな町なので歩いて充分愉しめます。
【お問い合わせ】
真庭市役所勝山支局総務振興課まで。
TEL 0867-44-2607
今夜は暖簾が風にゆれ、暖かなおもてなしで迎えてくれる勝山をご紹介いたしました。