NHKラジオ深夜便「大人の旅ガイド~富山県・五箇山」

今回ご紹介するところは世界遺産に登録されている合掌の里「五箇山」です。
越中五箇山とは、富山県の南西端にある南砺市(なんとし)の旧平村、旧上平村、旧利賀村を合わせた地域を指します。ここは、まさに「日本のふるさと」です。遥か縄文の時代から人々の営みがあったところ。平家の落人が住み着いたと伝えられています。
初夏の緑豊な中を旅すると身も心も緑に染まりそうです。今回私は、利賀村の民宿・笠原さんのお宅に泊めていただき、菅沼合掌造り集落へと足を延ばしました。

世界遺産は世界中に五百十数ヶ所あるそうです。日本には最古の木造建築・法隆寺をはじめとして、屋久島など文化遺産や自然遺産が登録されています。これらの遺産は、私たちが暮らす日本という国を通して、身近な自然や文化財をグローバルな視点から見直し、人類が次世代にどう継承していくべきかを、改めて私たちに問いかけます。
私と合掌造りの家とは、切っても切れない関係にあります。合掌のカタチにひかれて、生活のスタートラインに立った、といっても過言ではありません。家の骨格ともいうべき柱と梁は、何か私の心の中の骨組みでもあるのです。自然と共存して生きることの、とてもシンボリックなカタチ。
もう何十年にもなるでしょうか。この集落に通い、さらに日本中を旅し、自分が求める暮らしのあり方や、心の置き場所を探す旅を続けてきました。白川郷や五箇山は冬なら二、三メートルの豪雪に埋もれる雪の里です。雪を深々とかぶった集落は神々しく、よそ者は雪の上に足跡を残すのさえ、ためらわれたものでした。
厳しい豪雪の中に建つ合掌造りの家は静謐な祈りのカタチです。
そして、今回、初夏に訪ねた合掌造りの家は穏やか瞑想のカタチです。
ここに来ると、私はいつも自分の原点に帰ってくるような気がします。日本の歴史の嵐に翻弄されることなく、ずっと身を隠しながら、何世紀も生きてきたものだけが持つ神々しいまでの家々です。集落の中に江戸時代から変わらない道があり、屋敷の間を村道が縫い、昔の姿をとどめていますが、そこには現代の人々が暮らしているのです。
バイパスが通り便利になり、訪れる人も多くなりました。
「おじゃまします・・・」とつぶやいて一歩一歩集落へと踏み出すのです。
見下ろすと、茅葺き屋根が青々とした田園の中に佇んでいます。戸数8戸の小さな世界遺産・菅沼合掌造り集落。集落の中を、庄川が蛇行しながら流れ、背後には急峻な山地が迫り、緑豊な懐に抱かれています。
かつて五箇山では農作物以外の換金産物が必要でした。塩硝づくりと養蚕、紙すきは合掌造りと深いつながりをもっています。耕作地の狭い土地柄、火薬の原料となる塩硝が、加賀藩の奨励と援助を受けて、五箇山の中心産業となったといいます。平野部の農村の米作りに匹敵するほど重要だったのです。
合掌造り家屋は、屋根裏部分を2層3層に区切り、天井に隙間を空け囲炉裏の熱が届くようにして養蚕が行われていました。囲炉裏から上がったスス(煤)が柱や綱に染込んで強度を増す効果もありました。私は合掌造りの家にはいるとこの匂いが何とも好きで、つい囲炉裏の端に座ってしまいます。
今回泊めていただいた利賀村の民宿、笠原さつ子さん手づくりの料理の美味しかったこと。「イワナの骨酒」を飲み、イワナの塩焼き、五箇山豆腐と山菜の煮しめ、うどと身欠にしん、こごみのピーナッツ和え、かっちりいも、山菜ごはんには、すす竹・舞たけ・人参・よしな・椎茸などが入っていました。最後は手打ちそば。美味しかった!!さつ子さんは77歳。お顔はつやつや。笑顔の美しい方です。
「ごちそうさまでした」

五箇山でこんなに美味しい料理が食べられるのは、かつて村人が報恩講や祭り、正月、そば会などで持ち寄った自慢の味や、郷土料理の数々が伝承されているからなのです。「報恩講」とは門徒が僧侶の講話を聞く法会。その後に必ずみんなで飲み食いするのが楽しみとか。
我が家の囲炉裏も昔々のものです。灰をかき、炭を真っ赤に熾して、家族や友人とそれを囲むひとときは、他のどんな空間にもない時間が流れます。囲炉裏はタイムマシーンのようです。時間を忘れさせる装置であり、時を飛ばすマジシャンでもあります。太い梁や囲炉裏でワインやシャンパンを飲むのも新鮮です。
古くから伝わる郷土の知恵と工夫がぎっしり詰った「五箇山・合掌の里」をご紹介しました。
【旅の足】
~電車~
東京駅(上越新幹線1時間15分)→ 越後湯沢駅(北陸本線2時間20分)→ 高岡駅(JR城端線50分)→ 城端駅(加越能バス40分)→ 五箇山
大阪駅(北陸本線3時間)→ 高岡駅 → 城端駅 → 五箇山
~車~
練馬IC(関越自動車道3時間)→ 長岡JCT(北陸自動車道2時間)→ 小矢部・砺波JCT(東海北陸自動車道25分)→ 五箇山IC
吹田IC(名神高速道路1時間30分)→ 米原JCT(北陸自動車道2時間30分)→ 小矢部・砺波JCT → 五箇山IC