ラジオ深夜便-「美瑛町」

今夜ご紹介するのは 北海道 美瑛町(びえいちょう)です。
”丘のまち・・びえい”と言われる一面麦畑の広がる美しい町で旭川と富良野の中間に位置します。
わたくしはJR富良野線でまいりました。
このJR美瑛駅は全国駅100選にも選ばれている美瑛町の石山の美瑛石で建築した名駅舎です。わたくしが以前訪ねましたのは真冬でございました。
旭川から美瑛、そして、あの富良野まで片道100キロの旅を致しました。
旅の目的のひとつは、私の大好きな風景写真家・前田真三さんの写真美術館を見たかったことと、南富良野にある映画「鉄道員」の舞台になった駅も見たかったからです。
その時は、降り積もる雪の真っ白い世界が永遠に続きそうな道を行きました。
行けども行けども雪。白銀の世界は、自分がどこにいるかを見失いそうになる様でした。
前田真三さんのフォトギャラリーは「拓真館」といいます。
この写真ギャラリーは廃校になった小学校の跡地で、地元・美瑛町の協力を得て開館。
上富良野町付近に広がる丘陵地帯に位置し、周囲は見渡すかぎりの丘です。
1万坪に及ぶ敷地には白樺の並木道やラベンダー園などがあり、今回は早咲きのラベンダーが風に揺れいい香りが漂っていました。これから8月上旬まで咲いているそうです。
「二人の丘・前田真三・前田昇作品集」にはポピー、ひまわり、カラシ菜、そして一面のラベンダーなど初夏の丘を彩る様々な花があり、目と心を楽しませてくれます。
今では、観賞用に、アロマテラピーにと日本にも定着した
ラベンダーは、地中海沿岸地方原産のハーブだそうですね。
上富良野では、1950年頃から栽培がはじまったそうです。
 
前田真三さんの作品の中で、私はやはり冬の世界が好きです。
雪の原が永遠に続きそうな風景の中に、整然と林立する落葉樹。
自然の見事さに感動しました。
なかでも私が好きな作品は「落日の詩」という、淡い夕日が地平線に落ちていく風景。雪ぐもりの中に太陽が煙った光であたりを包み込む、なんともいえない詩情あふれる作品す。
今は2階に展示されています。
写真集の年譜に今は亡き前田真三さんの生涯が綴られていました。前田さんは大正11年生まれ。14歳のときに初めて、当時人気のカメラ、ベビーパールを手にして夢中で野鳥を撮っていました。
戦争の時代を経て戦後、サラリーマンに。
やがて結婚し、お子さんが生まれてから写真を撮り始め、どんどんのめり込んで・・・。
42歳でプロの道を選択します。
「二人の丘」のあとがきに、ご子息である前田昇さんは、こう仰っておられます。「風景写真は技術ではない」というのが父の心情であったから、私自身写真について教わった記憶は、一度もない。
ただ長年撮影現場に立ち会った中で、父から学んだことが、ひとつある。
それは「ものの見方」である・・・と。
「風景の見方」「写真の見方」さまざまな「事物の見方」を学んだと思っている。
前田先生のご本を見ていましたら、こうありました。
ずいぶん時間をかけて撮るんでしょうね。と、言われることがある。が、私の写真は基本的に待つことはしない。出会った瞬間に撮っていくのが身上だ。しかしながら、 「長い時間をかけるかどうか」について聞かれれば、長い時間がかかっていますよ。私の人生と同じだけのと答えることにしている。・・・そして、こうもありました。
 「風景はただ眺めていても見えてこない。」
積極的に風景に働きかけて、やがて風景を見出すことができ、出会いの瞬間がある。
ステキな言葉だと思いませんか。
風景を見る目、それは私たちひとりひとりの人生そのものが関わっているのですね。人生を重ねることは、ものの見方を学ぶことでもありますね。
風景がそこにあるのでなく、自分なりに風景を見出すのだと前田先生は写真を通して教えてくださいます。
写真美術館で、ラベンダー園で、五感を刺激される旅でした。
「拓真館」は入場無料・年中無休   
開館時間・5~10月まで、午前9時~午後5時
11~4月  午前10時~午後4時
車の場合は国道237号線から入ります。
美瑛駅からタクシーで10分ほど。
スポットは四季の塔から地上32、4mの十勝岳連峰に広がる丘の町美瑛が楽しめます。
郷土資料館では、開拓時の農業器具や石器、昭和初期の生活と風俗や商店開拓画なども見られます。
お時間のある方は美瑛から42キロで富良野へ。
さらに30キロ走って、やっと南富良野です。
高倉健さん主演の「鉄道員」はご覧になりました?
浅田二郎原作、降幡康男監督。
あの最後のシーンが忘れられません。そうなんです。映画のクライマックスはなんといっても最後のシーン。そのシーンは根室本線の幾寅駅
この駅が「幌舞駅」となって、ラストシーンが撮影されたそうです。幾寅駅には今も幌舞駅の看板がかかげられているそうです。
私は雪の舞う中で、健さんのようにホームにジッと立ち尽くしましたが、20秒くらいで駅の中に逃げ込みました。
もう凍ると思ったのです。
健さんは零下30度の外のシーンで30分、立ちすくんで、完璧にそのシーンを撮り終えたそうです。
想像を絶します。
高倉健さんの役者魂を見た思いでした。
待合室はあのまんま。そんな寒さの中で町の人たちは、男爵芋をゆでてつぶして、少し澱粉をはたいてこねて、芋饅頭にして油で焼いて、健さんに差し入れしたそうです。健さんは大層喜んでくださったそうです。
駅は、思い出を紡ぐ場所です。
私にも忘れられない駅があります。
それは、初めてひとりで行ったローマの駅、テルミニ。
私は17歳。憧れと好奇心とをバッグに入れて、自分探しの旅に出たものです。
その駅を舞台にした映画、「終着駅」は1953年、アメリカとイタリアの共同制作でした。
監督=ビットリオ・デシーカー、主演=ジェニファー・ジョーンズ、モンゴメリー・クリフト。
テルミニ駅でアメリカ女性とイタリア青年の叶わぬ恋が描かれます。
情感あふるるその映画に、私は夢中になりました。
17歳の自分にどうしてそんな感情があふれ出たのかわかりませんが・・・。
そこが「駅」だったからかしら。
私が大人になっていく途上の駅。まだ恋愛も知らない17歳の頃の駅の思い出です。
こうして、深夜皆さまとお話していると美瑛駅から、テルミニ駅までが繋がってまいります。
故郷、出逢い、別れ・・・。そんな大切な思い出のつまった「駅」が皆さまそれぞれの心の中に一つはあることと思います。
旅っていいですね。
おやすみなさい。