沖縄は、民芸の「美の王国」-琉球新報「南風」

先日、東京・駒場にある日本民藝館を訪ねた。民芸運動の創始者である柳宗悦氏がお住まいになっていた家・旧柳宗悦邸復元工事が終わり、一般公開が始まったのだ。民芸と家作りが大好きで、民芸を思いながら、長年かけて箱根の家を作ってきた私は、この家を拝見しながら至福の時間を味わった。
旧柳宗悦邸は、昭和初期の、和洋混在の木造建築である。例えば洋風の食堂に隣接する床の間つきの和室は人が腰掛けられるように高くなっていて、ふすまをはずせば食堂と一体化して、ワンルームのようになる。書斎は、出窓、漆喰の天井、フローリングなど英国風の部分と、和の障子を組み合わせてあった。
柳氏が家にかけた思いの深さを感じ、美意識が凝縮したその形に心打たれ、組み合わせの妙に思わずため息をもらした。
当日、いつもは静かな民芸館にたくさんの人がいらしていた。暮らしの美を求める民芸の世界をひとりでも多くの人に知ってもらいたいと思ってきた私にとって、それは本当に嬉しいことだった。
ところで、民芸館には、壺屋焼や嘉瓶(ゆしびん)、酒器(ちゅうかあ)、仏壇、魚籠、宮古上布、芭蕉布、ティサージ、紅型など、多数の沖縄の民芸も所蔵されている。
柳氏は昭和13年に沖縄をはじめて訪ね、沖縄の手仕事の健全さに心を奪われた。そして、沖縄は自分が思い描いた民芸の理想郷「美の王国」だとし、昭和15年までに集中的に沖縄の美を調査研究・蒐集活動を行ったのである。
また、民芸館には、沖縄の道具や布そのものだけでなく、沖縄のエッセンスが色濃く反映している河井寛次郎の作品や沖縄の紅型に触発された芹沢銈介などの作品も、所蔵されている。
旧柳宗悦邸を訪ねてきた多くの人たちが、そうした沖縄の美を彷彿とさせる作品の数々をも、きっと目にされただろうと思うと、それもまた、私は嬉しくてならない。
琉球新報「南風」2006年9月5日掲載>