映画『ベル・エポックで もう一度』

「ベル・エポック」、華やかで、何となく心ときめくような雰囲気です。

19世紀末から20世紀初めにかけて、パリが繁栄し輝いていた頃、その時代や文化を懐かしみ、今でも耳にする言葉です。”良き時代”、つまり、”古き良き時代”というイメージがそこにはあります。でも、映画『ベル・エポックで もう一度』は、単なる懐古趣味の”昔は良かった!”という物語ではありません。

かつて、主人公は売れっ子のイラストレーターでした。しかし、今は時代の流れに取り残され、ネットやスマホを決して受け入れようとしない老人になってしまいました。そんな彼に妻は愛想をつかし、三下り半を突きつけます。

追い詰められた主人公ですが、そこに救いの手が差伸べられました。息子からの素敵なプレゼント、「タイムトラベルサービス」。自分が望む、過去の”ある時期”に連れて行ってくれるというものです。しかし、これはSF的な話しではなく、デジタル技術満載の夢物語でもありません。”手作り”そのものの、”アナログ”企画なのですね。

主人公が希望したのは1974年5月16日、フランス・リヨンの「ベル・エポック」というカフェでした。その場を映画の大掛かりなセットのように精密に再現し、そこに主人公が舞い戻るのです。本人が覚えている会話や光景がそのまま忠実に再現されます。主人公を除けば、登場人物は全て役者が演じてくれるのです。

なぜ、元イラストレーターはこのカフェに戻りたかったのか?それは主人公が素晴らしい女性と出会った、まさにその時、その場所だったからです。そして、ストーリーは除々に思いもよらぬ展開を見せ始めます。

”古き良き時代”を単に懐かしむ映画ではありませんでした。男女の触れ合いや心模様が繊細に描かれ、大人向けのエスプリもふんだんに盛り込まれたお洒落な時間と空間が広がっていました。

この作品は、ニコラ・ブドス監督が脚本や音楽も担当しました。40代の彼は4年前に監督デビューするまで、俳優として活躍していました。とても多才で早熟?な方ですね。

そして、元イラストレーターを演じたのは、ダニエル・オートゥイユ。フランス映画界を代表する名優です。重厚で細やかな男性の振る舞いを、じっくりと見せてくれました。

彼の妻で、精神分析医の役は、ファニー・アルダン。ジャンヌモロー亡き後、成熟した大人の女性を演じられる、文字通りの”女優”さんです。なぜなら、70代になってもあれだけ”女”を演じられるのですから。魅力的で意思的な姿に、奥深さを感じました。

こうした若手やベテランたちが力を合わせて、とても勇気付けられる映画ができたのです。”新しい良き時代”を目指そうよ!年齢は関係ないですよ!!前を向いた、そんな元気宣言と受け止めました。

そしてそこには、高度化されすぎた情報化社会への、痛烈な皮肉も含まれているのでしょう。

さすがフランス映画でした!

映画公式サイト
https://www.lbe-movie.jp/

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