ショーンさん、ありがとうございました。

ショーン・コネリさんが亡くなって、間もなく1ヶ月が経とうとしています。

逞しく、颯爽としたスクリーンのショーンさん。でも私が接した彼はとても物静かで、細やかな気遣いを忘れない紳士でした。今から50年以上前、私がまだ20代前半の頃の思い出です。

ショーンさんが主演して大ヒットした”007シリーズ”の5作目、「007は二度死ぬ」への出演オファーがきました。撮影のためイギリスを訪れた私を待っていたのは、右も左もわからない、文字通り”異邦人”としての日々でした。今思えば、不安そうな表情で戸惑っていたのでしょう。その時のショーンさんの言葉と表情は決して忘れられません。

「大丈夫かい?」
「心配事はないかい?」

撮影開始前、繰り返し声を掛けてくださいました。彼にとっては、毎朝のさりげない挨拶のようなものだったのでしょう。でもそこには単なる言葉だけではない、人を抱きしめるような暖かい気配が感じられました。

あれから半世紀、文字通り”光陰矢の如し”ですね。彼は”007”を飛躍台に、深みも渋みも備えた、確固たる俳優の地位を築いていきました。

貧しかった子供時代、ショーンさんは学校生活もそこそこに様々な職業を転々としたそうです。そして英国人ではなく、”スコットランド人”であることに生涯誇りを持ち続け、スコットランドの独立運動を強く支持してきました。虐げられた人々、社会的弱者へのまなざしは、自身の厳しい体験から生み出されたものなのでしょう。

突然の訃報に驚き、一つまたひとつ、記憶を辿っていると、朝日新聞の「天声人語」にショーンさんの追悼記事が載っていました。そこには20年前に公開された彼の主演作、「小説家を見つけたら」が紹介されていました。

隠遁生活を送る老小説家と聡明な黒人高校生との心の交流を描いたものです。人生をそろそろまとめ上げようと考える老人を、ショーンさんは丁寧に演じていました。

自らの思いをいかに次の時代に手渡していくのか。老小説家には人種や年齢など超えた、強い思いがあったのでしょう。「友情という贈り物を受け取った」と表現する場面は、この作品のとても静かなハイライトでした。

おそらく、ショーンさんはその小説家に自身を重ね合わせていたのだと思います。俳優としての幕引き、つまり引退を意識して出演を決意したのでしょうね。

エンディングの高校生との掛け合いが秀逸でした。「旅に出る。生まれたところに!」と呟く老小説家に「アイルランドですか?」と聞く高校生。「スコットランドだよ!」と反論する作家に「冗談ですよ!」と微笑みながら返す高校生。

ショーンさんがどうしても入れたかった”ワンシーン”だったと感じました。

彼が70歳の時のこの作品には、人間味溢れる穏やかな表情のショーンさんが演技の域を超えて、ごく自然に存在していました。「007」のショーンさんとは声も違う、熱量も違う、枯れた魅力いっぱいの人生の達人が、確かにそこにはいました。

人との接し方、気持の表し方などをそれとなく教えていただいた日本の娘もつい先日、喜寿を迎えました。

ショーンさん、本当にありがとうございました。

「ショーンさん、ありがとうございました。」への2件のフィードバック

  1.  浜様
     喜寿を迎えられおめでとうございます。
     今日のお話も心に残ります。沢山の出会いが宝物ように溢 れている事と思います。
      77歳、同年齢ですので、想う事に共通する事が
     有ると思います。  新しいページを加えられて過ごされ
     ますように。  ご健康をお祈り致します。

                        郁代       

    1. 郁代さん

      ブログへの投稿ありがとうございます。
      そして、お互い同い年。喜寿ですね。
      この年齢になったからこそ見えてくること、
      感じることなど多々ございますね。
      何よりも”健康”が第一です。郁代さんも
      ご健康に留意くださり、意義ある人生を
      送りたいですね。
      朝晩は冷え込んでまいりました。
      お風邪など召しませんようご自愛くださいませ。

      浜 美枝

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