世界報道写真展2019

先日、私は1枚の写真を前に立ち竦んでいました。2歳ぐらいでしょうか、1人の女の子が周囲の異様な空気に耐えきれず、母親の前で泣き叫んでいます。

昨年6月、アメリカ・テキサス州でのできごとです。中米・ホンジュラスからメキシコを経て、この母娘はやっとの思いでアメリカにたどり着いたのです。2人を待っていた最初の体験は国境監視員による取調べでした。

この写真の鋭さは、2人の大人の顔がフレームに入っていないことでしょう。人の表情が消えたことで、事務的で無機質な手続きが”淡々と”執行されていることを冷静に伝えています。

多くの理不尽さの集約でもあるこの光景を目の当たりにして、女の子だけが正直に反応しているのです。鮮やかな赤いシャツと靴。そして、ライトに照らし出された彼女の真っ黒できゃしゃな影が、不気味なほどのコントラストを描いています。

        ジョン・ムーア(アメリカ・ゲッティイメージズ)

いま「世界報道写真展2019」が開かれています。今年で62回目となるこのコンテストは、オランダで始まりました。今回は129の国と地域から、4700人を超えるプロのカメラマンが参加し、応募総数は7万8000点に達したそうです。その中から選ばれた45の入賞作品が展示されいます。女の子の泣いている写真は、「スポットニュースの部」で1位を獲得しました。

これ以外にも、迷彩服に身を包み、銃を手にした女性の作品が目を引きます。アフリカ南部のジンバブエ。眼光鋭い彼女は野生動物の密猟防止に向け、女性だけで組織された武装部隊のメンバーです。貧しい女性たちの仕事を確保し、長期的には地元住民の利益にも合致する活動ですが、娯楽目的で猟をする観光客からのお金を部隊の活動資金に充てています。矛盾を抱えた難しい現実が横たわっています。

      ブレント・スタートン(南アフリカ・ゲッティイメージズ)

そんな中、脚にケガをしたフラミンゴの姿が多少なりとも重い心を慰めてくれます。早期の回復を目指し、治療用の特別なソックスを履かされたフラミンゴですが、傷の治癒具合を自ら確かめるかのような姿が、カメラに優しくそして丁寧に捉えられました。カリブ海・キュラソーでの1コマでした。

          ヤスバー・ドゥースト(オランダ)

この写真展は楽しく、うきうきするような内容では決してありません。でも、この瞬間、世界が抱える問題を見事に切り取った象徴的で印象的な作品ばかりが集まっています。たくさんのフアンが、「世界の今」を静かにじっくりとご覧になっていました。展示会場の片隅に、ビデオを上映するコーナーがひっそりと設けられていました。そこには、日本の四季折々の美しい自然が心地よい音楽とともに穏やかに流れていました。世界の現状はあまりに厳しいけれど、僅かな光明だってあるはずだ。みんなの傷ついた心の翼をいたわり合いながら、また飛び出そう!主催者が、そしてカメラマンたちがわれわれに呼びかけた、優しくて力強いメッセージと受け取りました。

この写真展、私がお邪魔するのは5回目となります。やはり、やみつきになりそうです。

恵比寿の「東京都写真美術館」で8月4日まで開催中。
開館時間 10:00~18:00 (木・金は20:00まで)
休館日   毎週月曜日
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3437.html

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