ラジオに魅せられて

16歳で女優としてこの世界に入ってから今まで、ワイドショーや美術番組のキャスター、農漁村の女性たちとの活動など、様々なジャンルの仕事にも挑戦してまいりました。

そのすべてがチャンスであり、かけがえのない時間を過ごすことができたと、感謝の気持ちでいっぱいです。もちろん楽しいことばかりではありませんでしたが、ひとつひとつの仕事を通して自分を磨き、一歩一歩、成長を重ねてきたと感じています。

何より嬉しいのは、年齢を重ねた今も、ラジオのパーソナリティを続けさせていただいていることです。テレビでも映画でもなく、ラジオだということに、運命のようなものを感じずにはいられません。

といいますのも、ラジオは私にとって、もっとも自分らしくいられるメディアであると同時に、常に豊かな可能性を感じさせてくれるメディアでもあるからです。

そんなラジオの魅力に気づかせてくださったのは、女性プロデューサー・金森千栄子さんでした。

金森さんは当時、北陸放送(金沢市)の『日本列島ここが真ん中』(1974年7月~1998年10月)という番組を作られていました。新幹線が通るはるか前の時代、永六輔さんや黒柳徹子さん、宮城まり子さん、中村メイコさん、大山のぶ代さん、淡谷のり子さん、荒井由実さん時代のユーミンなどそうそうたる人たちが、東京から金沢まで手弁当で駆け付けたという伝説の番組でした。

「浜さん、よろしくおねがいします。自由に話してくださいね」と、金森さんからマイクを持たされ、ラジオカーに乗って出かけたときの、ちょっと不安な気持ちを忘れることができません。約3時間の生放送、台本もなく、どこに行くかさえ知らされませんでした。

田んぼが一面に広がるただ中で、車は止まりました。パーン、パーン。乾いた気持ちのいい音が大きく広がる空に響いていました。田んぼの向こうで干した畳を叩いていたんです。

「金沢の皆さん、この音、なんだかわかりますか?」

これが私の初ラジオ生放送の第一声でした。

そして出会ったのが田んぼのあぜに立っていたおじいさん。私がそばに行くと、おじいさんは「あ、来た来た。じゃが、わしゃ、何も話さんぞ」とにやりと笑い、近くに植えてあったネギ坊主を二つむしって耳に詰めてしまいました。

こちらが何を質問してもおじいさんは黙って、顔をふるだけ。この番組のことをよくご存じだからこそ、こんな風に私をからかって、私の出方を見ていらしたのだろうと思います。

万策つきた私は、ついにおじいさんの様子を実況することにしました。必死でした。私のレポートにおじいさんの頬がほころび、最後は私の目を見てうなずいてくれました。

ラジオでは、言葉と、言葉にこめた気持ちで、みずみずしい生のコミュニケーションを生み出すことができる。自由度が高いので自分らしさも表現することができる。けれど声だけだからこそ、自身の人間性や人間としての厚みも問われる。そう教えていただいた気がしました。

以来、お誘いがあれば時間を作り、番組にゲスト出演させていただきました。

金沢市郊外にある大乗寺に連れて行っていただいたこともありました。たどり着いた時には日が暮れはじめていて、寺の中も真っ暗。けれど、その中にちらちらと光るものが見え、私の心が躍り始めました。蛍だったのです。蛍の光に誘われ、寺を抜けると……そこには、ほの明るい庭が広がっていました。宵の透明な空の色、草の匂い、群れ飛ぶ蛍。まるで小さな旅をしたような、そんな心に残る体験でした。

ある番組で、淡谷のり子さんとご一緒したときに、たまたま『日本列島ここが真ん中』の話になったこともありました。

「あんた。聞いてよ。わたし、姥捨て山に捨てられたんだから。草ぼうぼうなの。な~んにもない海辺に、金森さん、本当にわたしを捨てて行っちゃった」

春風が吹く海辺でマイクを渡され、30分ほどひとりぼっちにされたのだとか。でもそれを話す淡谷さんの表情は笑みを含み、とても柔らかでした。そして淡谷さんはこういいました。

「わたし、あれで、息をふきかえしたわよ」

淡谷さんの独り言のようなリポートを私も聞いてみたかったと切に思いました。ライブで聞いていたリスナーは、どんな思いでラジオに耳を傾けていたのでしょう。

マイクを握り、自分と対峙することで、心を整理し、新鮮な気持ちを思い出す。リスナーはそれを追体験して、やはり新たな自分に出会う……ラジオにはこうした可能性もあるのかもしれません。

私がパーソナリティをつとめている文化放送『浜美枝のいつかあなたと』は2001年4月から始まりました。以来、「相棒」の寺島尚正アナウンサーとともに、リビングルームにお迎えするような気持ちでゲストのお話を伺っています。

これまでに本当に大勢の皆さんにご出演いただきました。有名無名を問わずその道に精通した方ばかりですので、収録前には資料や本を読みこみ、本番ではゲストの本音を引き出すように心がけ、その話の面白さと深さに驚いたり、ときには共に笑ったりしながら、たくさんのことを学ばせていただいています。

「浜美枝の良い食とともに」コーナーでは、日本の農業、日本の食を支えている方々の強い意欲と志を、一人でも多くの方に知っていただきたいと願いつつ、全国各地の農業従事者に、農業や食育の取り組みなどお話を伺っています。

そして私の楽しみといえば、みなさまの感想が綴られたお葉書やメールに目を通すこと。お会いできなくても、リスナーと、心の大切なところでつながっていると、力をいただいています。

この番組は26年目を迎えました。

人の思いやその人生までもすくいあげ、丁寧に伝えていくことができる、私の原点ともいえるラジオに今も携われていることが、本当にありがたく、ちょっぴり誇りに思っています。

『浜美枝のいつかあなたと』の放送は日曜日の朝9時半から30分間。
聞き逃したときにはRadikoでもお楽しみいただけます。

http://www.joqr.co.jp/hama/

寺島尚正アナウンサーと文化放送スタジオにて

寺島尚正アナウンサーと文化放送スタジオにて

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です