『裏が、幸せ。』

来月14日に北陸新幹線が開通し、注目が集まる日本海側。
金沢~東京間は2時間28分で結ばれます。
素敵な本に出会いました。『裏が、幸せ。』(酒井順子著)
エッセイストとして活躍しておられる酒井さん。常に時代を先取りする鋭い視点で、話題作を刊行してきました。今回の「裏が、幸せ。」なぜ、「裏」なのか・・・。酒井さんはおっしゃいます。「日本の大切なものは日本海側にこそ存在する!」と。
私が旅をはじめたころ、50年ほど前は”裏日本”と言っていましたし、その方が私はしっくりします。だって「裏が表」と思っておりますから。本来言葉としての表と裏に優劣はないのですが、ただ裏日本という表現が不愉快な人もいたため、メディアで自粛したのです。
「深く優しくしっとりとした、日本の中の「裏」が抱く「陰」。それは日本に住む全ての人達にとっての貴重な財産なのであり、私達がこれから必要とするものは、そんな陰の中にこそ、あるような気がするのですから。」(本文より)
文学、工芸、鉄道、原発、観光など日本海側の魅力が伝わるエッセーです。私は随分前ですが、毎日放送「手づくり旅情」という番組に出演し、全国の伝統工芸名人の職人さんを訪ねて旅を続けておりました。お訪ねした家々、何軒になるでしょう。みつめさせていただいた手元、一体幾人になるでしょう。”日本の日本的なるもの”と取材で気づかされ、私達が住むこの小さな島国、日本に限りない愛着を持ち始めました。北海道から沖縄まで、どこも愛おしいのですが、日本海側は特別です。だって若狭に農家を移築してしまったぐらいですから。東京生まれ、太平洋沿岸で育った私。自分の体に合った水、空気、風、土・・・とても合うのです。
酒井さんのご本にも出てきますが、金沢の金箔。能登の漆。浄土真宗の信仰が盛んな北陸。仏壇は大きく金箔が施されています。黄金の輝きを放つ仏壇。それには意味があると酒井さんはおっしゃいます。「仏壇がまるで極楽のような存在感を放っているには理由がある」とのこと。東京だったら浮いてしまいますが、広い部屋、広い家にある黄金の輝きを放つ仏壇の背景には”闇・うす暗さ”というものも必要です。金を生かすためための黒、そして黒を生かすための金。私も何度も経験しました、その闇の暗さを。
能登半島、輪島に行った時、輪島はまさに海の文化の拠点。北前船や遠い大陸から客人がもってくるものが寄って寄って文化を伝えて、そういう歳月が、輪島塗の合鹿椀につながるのですね。日本海・城崎に行った時は小雨が降っていました。山陰の城崎を私は志賀直哉「城の崎にて」の文章でしかしりませんでした。電車にはねられ、その後、養生に出た志賀直哉の生と死に対する清冽な視点が、私の城崎旅情の第一印象になりました。かつてこのひなびた温泉町に、日本でただひとつの麦わら細工が、また気の遠くなるような手仕事で作られていました。
今でも大切に持っている麦わら細工の箱。今の私達の暮らしは明るい光のなかにあります。その明かりが眩しすぎ、人の心を落ち着かなくさせている・・・ということもあると思うのです。
北陸新幹線の開業について一抹の不安もあると、酒井さんはおっしゃいます。日本海「裏が、幸せ。」を残してほしい・・・ともおっしゃいます。
ぜひ、ラジオをお聴きください。そして、ご本をお読みください。
裏が、幸せ。」2月25日発売予定 (小学館)
文化放送「浜美枝のいつかあなたと」
日曜日 2月22日 10時半~11時

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