田植えとなんじゃもんじゃの花

先日久しぶりに若狭の我が家へ帰ってきました。
福井県大飯町三森に私の家があります。この家も箱根の家同様、壊される寸前に出くわし譲っていただいたものです。背後に竹林、前に田んぼと佐分利川が広がります。

この20年余り、都会に生きる消費者の一人として日本の農業というテーマに深い関心を抱き、あちこちの農村を訪ね歩くうち、私の中で少しずつ、生産に対する限りない憧れが募っていったのです。
私自身は生産者と呼ばれる者にはなれなくても、自分のこの手で無農薬米を作るという行為に挑戦してみたら、実際の米作りの苦労や喜びがもっと理解できるのではないか、農民の方々のお心に、もう少し近づけるのではないか・・・そんな思いが膨らんで、若狭の私のお米の先生・松井栄治さんの手ほどきで素人の私も田植えから収穫までの経験をさせていただきました。
10年間・10回の経験でした。
日本のふるさとの原風景そのものの若狭三森。松井さんの田んぼの田植えもほぼ終わりました。そして、まもなく、この田んぼや木々に蛍が見事な乱舞を披露してくれます。
帰り道、近くの集落で生まれた作家・水上勉さんの”若州一滴文庫”に寄ってまいりました。
「家には電灯もなかったので、本も読めなかった。ところが諸所を転々として、好きな文学の道に入って、本をよむことが出来、人生や夢を拾った。どうやら作家になれたのも、本のおかげだった。」と水上先生語っておられます。
この文庫には所蔵本・水上文学にゆかりの深い作家の絵画作品、水上作品に登場する人物の竹人形などが展示されています。
何度も通った場所です。今回は、新緑に映える「ヒトツバタゴ」別名「なんじゃもんじゃ」が満開です。まるで雪化粧のような美しい花。20年ほど前に植樹したそうです。「ヒトツバタゴ」はモクセイ科の落葉樹。中部地方や対馬地方に自生し、4つの花びらをつけます。
なぜ「なんじゃもんじゃ」なんて名前がついているのでしょうか。岐阜県瑞浪在住の方がわざわざ自動車に積んで、この花の苗木5本を一滴文庫に運んでくださったそうです。水上さんのエッセイにこのように書かれています。
「天然記念物の学名は、『ひとつ葉』となっているようですが、瑞浪市はみななんじゃもんじゃといっています。ある学者の説によりますと、冬が去って、春が逝き、ようやく青葉の頃がきたというのに、急にこの木にだけ雪がつもるようなので、これはなんじゃもんじゃ、と岐阜なまりでたまげることから生まれた名だときいています」と。
美濃の国では、おっ魂消(たまげ)た時に”なんじゃもんじゃ”というとか。