若狭の家

先日とても懐かしい写真が送られてきました。京都在住の元新聞記者の方からでした。私のコマーシャルを観てくださり、「お元気なんだ」と安心し、福井県大飯町(現おおい町)三森で田植えや稲刈りの時の写真を送ります、とのことで25年前の懐かしい写真をフィルムからプリントしてくださいました。

”農と食”を勉強したい・・・との思いから女優を退き、実際に畑を作り、野菜や果物の育つ様子をこの目で確かめながら暮らしたい。子供たちに、蛍がりや小川のせせらぎ・・・故郷の原点のような田舎を持たせたい。そんな思いが実り、「すずめのお宿」みたいな茅葺の家を持つことになりました。

おおい町は、さば街道の起点として有名な小浜から車で小一時間の山あいにあり、海も近いので、新鮮な魚介も豊富。冬はとても寒いのですが、茅ぶきとともに、さまざまな野菜が育ちます。

「田んぼで米作りにも挑戦したい!」など無謀とも思える行動に。「この目で確かめ、自分で経験したい!」これが私のこれまで生きてきたモットーです。

でも、素人の私が簡単にできることではありません。隣の集落に住む画家の奥さんが「おはよう、浜さんよう寝むれましたか?」と畑のなかから満面の笑顔が早朝から顔をだします。私の野菜作りの師匠です。

私の若狭の家を、畑を陰で守り続けてくださいました。「浜さん、今年は茄子の出来がいいなあ」はちきれそうなインゲンの緑、太った茄子の紫、トゲトゲの痛いきゅうり、泥のついたにんじん・・・それらを籠いっぱいに摘んで、縁側によいしょと座り込みその日の献立を考えます。

わが家の畑でできた野菜は、お世辞にも器量よしとはいえないものばかり。でも、どれを手にとっても、わが子のように可愛くて仕方がないのです。”あばたもエクボ”なんですね~。子供たちも夏休みにはやってきて、山ほどの魚を釣ってきます。

料理教室など通ったことさえない私が『娘たちへ 毎日の幸せおかず』(講談社)を出版したのが1994年。それは子供たちに料理作りが苦手でない女性に育って欲しい・・・との思いから。お芋の煮っころがしやきんぴらが得意な人になって欲しい・・・そして、”土のもつ力”を知って欲しい。そんな思いからです。

コロナ禍の中で”移住”が話題になっています。都会には都会の良さがあります。しかしこれからの時代”本当の豊かさ”が求められてくるのではないでしょうか?

「農」は命に直結しています。他国に頼っていることはどれほど不安になるか・・・を今回実感した私たちです。

「10年は米作りを」を目標にしました。専業農家のご夫妻に手ほどきを受け、水の管理、草取り、手植え、はさかけ、収穫までにどれほどの手間がかかるか。10年といってもたったの10回の経験です。

でも、自慢ではないのですが「浜美枝のひとめぼれ」を収穫しました!現在は10年前に客員教授として迎えられ一緒に学んだ大学生たちが泥んこになって励んでいます。(今年はコロナで参加できません)

天候や気候に気を配りながら、肥沃な土のなかで育っていく野菜や米たちの成長ぶりを自分の目で確かめる暮らし。そんな日々の営みこそが、自然に抱かれ生きる人間の、とてもまともな、そしてほんとうの豊かさのある暮らしなのだと少しでも感じてほしいのです、若者たちへ。ITの時代これからは新たな時代を迎え、きっと新しい農業のあり方も生まれるでしょう。

今年はコロナで若狭の夏を体験できませんが、ある年の夏。午後から降り出した雨のせいもあり、一日じゅうゆっくりと読書三昧の一日を過ごしました。そして、雨あがりの夜八時過ぎ、「そろそろ蛍が舞いそう」と家を出ると水田のあぜ道に行ってみました。その時、私はその水田のなかに、ほんとうにこの世のものとは思えないような光景をみたのです。

月を背負ってそこに立っている私自身のシルエットが、水田の水面にくっきりと映っています。ノースリーブにギャザースカートの黒い影が、水の中でゆらゆらと揺れていました。そしてしばらくすると、そのスカートの形のなかに何十匹もの蛍が、美しい光を放ちながら舞っているではありませんか。私はただうっとりとその場に立ちつくして、蛍たちがスカートのシルエットのなかで踊っているさまをいつまでも眺めていたのでした。

田んぼの早生米もまもなく収穫のときを迎えます。美味しいごはんをしっかり食べて、元気にこの夏を乗り切りましょう!そして、一日も早い収束を心から願います。

「若狭の家」への2件のフィードバック

  1. 残暑お見舞い申し上げます。

     思いも掛けない夏になっていますが。浜さんのブログに元気を又頂きました。おおい町での農業に携わった事、大変でしたでしょうが、とても素晴らしい体験であり、今も続いて居る事は、何よりの財産ですね。幻想的ともいえる蛍たちの舞を見られた事も。沢山の事が今に繋がっているのですね。
      明日は、終戦記念日です。コロナで制限があるとはいえ、食べる事も不自由しないで過ごせる事は本当に有難いです。コロナと暑さに負けないで、何とか乗り切りたいと願っています。
      どうぞ、くれぐれもご自愛下さいますように。

                          郁代

    1. 郁代さん

      ご無沙汰致しております。
      お変わりなくお過ごしでしょうか。
      ほんとうに・・・この夏は思ってもみなかった夏ですね。
      私にとりまして若狭での経験は人生でかけがえのない宝となりました。
      ”土とともにある”ことは本来人間の姿。自然への畏敬の気持がもてます。
      思いもかけない今回の新型コロナ、どうしたら共存していけるのでしょうか、闘うのではなく。私たちも自然の一部ですものね。

      それにしても、蛍の乱舞。今年もわが家の前の田んぼでは見られたそうです。

      早く収束し日常が戻ってきますように・・・と祈ります。
      酷暑のなかご自愛くださいませ。

      浜 美枝

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