これからの私を支えてくれるもの

仕事机のパソコンの横に、1枚の絵を飾っています。高校生だった長女が描いた絵です。真っ赤なチューリップが添えられ、バッグを持ち、ハイヒールをはき、闊歩している私が切り絵のように描かれています。

仕事と4人の子育てを両立させるために、いつも駆けるように暮らしていた時代。その絵を見ると、当時の私は子どもたちの目にこのように映っていたのだなあと感じるのと同時に、そのころの子どもたちの姿を思い出さずにはいられません。

限られた時間の中であれもこれもやろうとしていた私を助け、上の子は下の子たちの面倒をよくみてくれました。

おかげさまで、子どもたちはそれぞれの生き方を探し、独立してくれました。普段はつかず離れずであってもさりげなく私を気遣ってくれ、ありがたいことに、きょうだいも仲良く思いあってくれています。

私を親にと育ててくれた子どもたち。

この絵を見るたびに、過ぎし日への感謝と、幸せな気持ちが胸にあふれます。

絵にあったように、おしゃれをして出かけるときはハイヒール派だった私ですが、70歳になるちょっと前から、その出番が徐々に減っていきました。雨の日に足を滑らせて怖い思いをしたこともあり、これからは歩きやすい靴がいいと思い始めたのです。

そして『アルカ』の靴と出会いました。良いお店があると聞いて訪ねてみると、足と靴の知識を持ったカウンセラーが靴を選び、さらに私の足に合わせて細やかな調整を重ねてくれました。

はいていることを忘れるほどの心地よさでした。

以来、私の靴との付き合い方が変わりました。

振り返ると、若い時は、私にとって靴はおしゃれのひとつのアイテムでした。旅に出るようになり、とにかく歩きやすい靴を探すようになりました。

そして今、私の足元を守っているのは『アルカ』の靴です。この時期に愛用しているブーツ、山歩きになくてはならないウォーキングシューズ、ドレッシーなファッションをひきたててくれるフラットシューズ……。

ダメージが生じれば修理を頼むことができます。長くはいて型崩れしたものや古くなって薄くなったインソールは、職人さんが丁寧な手仕事で、よりはきやすく美しい状態に甦らせてくれます。はきつぶして終わりではなく、一足一足が生涯、私に寄り添い続けてくれるものとなりました。

いくつになっても自分の足で歩きたいと思います。箱根の山を歩き、山と空に抱かれながら、緑の空気を呼吸し、風や小鳥のさえずりに耳を傾ける……そんな日常を、あの店に行けば私の足を守ってくれる人がいるという安心感が支えてくれています。

私らしく暮らすために欠かせないもの――外に向かう私に必要なものが靴だとしたら、家の中では一人用の椅子でしょうか。

ゆっくり寛げる椅子、ひとりの時間を心地よく過ごせる椅子をずっと探していました。

 そうなると、各地の工房を訪ね歩き、職人さんと話をし、座り心地、佇まい、デザインなどを見て回らずにはいられなくなる私ですが、これだというものに巡り合えずにいました。

そしてあるとき、はっとしました。十数年前に我が家に迎えたお客様用の椅子、黒革の一人用の椅子を、とても気に入っていることに、改めて気づいたのです。

スケジュールをやりくりし、その工房とショールームを再び訪ねました。飛騨高山の駅から車で15分ほど走ったところ、澄んだ空気と深い緑に囲まれ、アルプスを望む大自然の中に、『キタニ』の工房とショールームはありました。

デンマークのデザイナーのデザインした家具を飛騨の職人さんの手で作っている『キタニ』。ショールームには、キタニの家具をはじめ、リペアしたヴィンテージ家具がゆったりと展示されていました。素敵なショールームで寛ぎ、工房では職人さんの話をお聞きし、作成する姿をじっくり見せていただきました。

デパートにも都会のショールームにもたくさんの家具が並んでいます。デザインや質感の良しあしはそこでわかりますが、私にとってはそれらの道具がどんな人がどんな思いで作っているのかということも、とても大切なこと。できる限り、工房をお訪ねし、作り手と会うようにしているのです。会えば、手仕事の豊かさをよりしっかりと感じることができます。作り手の思いを知れば、作り手への敬愛とともにその道具を愛することができます。これもまた、民芸の教えかもしれません。

『キタニ』の工房で感じた職人さんの誇り、愛情を持ち真摯にものづくりに向かう姿に心打たれました。この人たちが作った椅子がほしいと切に思いました。

それから一か月。 
真っ赤な一人掛け用の椅子が私の部屋に届きました。

大好きな赤。包み込まれるような座り心地。何より作り手のぬくもりが感じられる椅子です。

この椅子のおかげで、ひとりの時間がより豊かになった気がします。

椅子に座り、映画や旅の番組を見るようにもなりました。かつて見た映画を見直して、当時は気づかなかった視点を見出したり、いながらにして旅をしている気持ちを味わったり。ただ瞑想しているときも、とても新鮮です。

これからの私と共に時を重ねていく椅子。その椅子に座り、過ごす家の時間も、大事にしていきたいと思います。

椅子を探すのは、私にとって、まるで宝物を探しているようなわくわくする時間でした。なかなか見つからない、その道程さえも楽しいのです。今回も各地で素晴らしい職人さんたちに出会うことができました。かつて『八木治郎ショー』の『手づくり旅情』というコーナーで、職人さんのものを作る手元を映像で残したいと、スタッフと共に全国の職人さんを訪ね歩いたことを、その道中にふと思い出しました。末の子を産み、復帰初の仕事でした。テレビの全盛期、良き時代にスタッフに恵まれ、心に残る仕事ができたことをありがたく思います。

㈱アルカ 〒170-0013東京都豊島区東池袋2-15-5

*㈱キタニ 〒506-0034岐阜県高山市松倉町2115番地