未来を照らす光

農業などの第一次産業の現場で働いている女性はもちろん、あらゆる業態で活躍する女性たちがきちんと評価される時代が、ようやく実現しつつあります。女性たちがこの先、どのように羽ばたいていくのかと思うと楽しみでなりません。

今から半世紀ほど前、民芸に興味を持ち、地方の農家を訪ねる中で、私は農業に従事する多くの女性たちと出会い、農業や農家の暮らしの実際を知ることになりました。

農業現場はまったくの男性中心の世界でした。女性も男性と同じように働いていたのに、ましてや兼業農家では主たる農業の担い手が女性であるにもかかわらず、自分名義の貯金通帳すら持たない女性がとても多かったのです。自分の財布がないので、自分や子どものものを自由に買うことができないという女性も少なくありませんでした。

40歳で女優を卒業してから、農業と食が私のテーマとなりました。日本の根幹は農であり、農業が元気でなければ日本人として元気に暮らせない。食は文化であり、食によって人は作られる。そう思ったからです。

農業を考えることは、農村の女性を考えることでもありました。農業、そして農村を持続的に発展させていくためには、女性にとってもっと働きやすく、暮らしやすいものでなくては、と思いました。そのためにも、女性たちが自らの価値と可能性に気づいてほしい。女性自ら学び、考える場が必要だと思いました。

「食アメニティコンテスト:地元の特産物を使い、加工食品の開発等を通して地域づくりに貢献している農山漁村の女性グループを表彰し、それら優良事例の活動を広くPRして普及を図り、農山漁村の振興、そして都市と農山漁村の共生・対流の一層の促進を図ることを目的としたコンテス」(主催:財団法人農村開発企画委員会)が誕生したのは1991年のことです。

農山漁村でがんばっている女性にエールを送るためのこの活動に関わる中で、女性同士のネットワークの必要性を強く感じ、「食アメニティ女性ネットワーク」を立ち上げました。

この指とまれ方式で、全国の農村女性たちが集まり、農業の未来を語り合い、勉強会を開き、ときには悩みを打ちあけあい……10年にわたり、ヨーロッパに研修旅行も行いました。農村の景観を美しく保っている村、都会の人たちと定期的な交流を続けている農家、グリーンツーリズムを行っている地域。イギリス、ドイツ、イタリアなどの農家に実際に宿泊し、現地の人と話し合い、自分たちの農業の可能性を探る、刺激いっぱいの旅でした。

ネットワークの女性たちは、やがて行動しはじめました。ファーマーズマーケットやファーマーズレストランなどを開き、自分名義の貯金通帳を持ち、生活者としての女性ならではの視点を生かし、農業経営や地域農業の方針策定に参画する女性も増えていきました。

食アメニティ女性ネットワークを、私は卒業しましたが、今も全国の女性たちとのおつきあいは続いています。

先日、初秋の美山と飛騨古川を旅してきました。

まずは10年ぶりに岐阜県山県市美山地域にある『ふれあいバザール』に。ふれあいバザールは、地元の生産者が持ち寄った新鮮な野菜や加工品を販売している農産直売所で、隣接する食事処の手打ちそばと山で摘んできた山菜の天ぷら、飛騨・美濃伝統野菜の「桑の木豆」のフライや、おこわセットになった定食が人気で、毎日、遠くからもお客さんが押し寄せます。

昼はその手打ちそばと天ぷらに舌鼓をうち、夜は近くのキャンプ場のロッジに懐かしい顔が集まりました。ネットワークで勉強会を重ねた女性、研修旅行にご一緒した女性、高齢者のために弁当を作り続けている80代の女性や年齢を重ねお嫁さんと一緒に働いている人もいました。今もどっしりと土に足をつけてがんばっている女性たち。昔話に花を咲かせ、日本の農業の未来を語り、あっという間に愛おしい時間が過ぎていきました。秋の夜空に星が美しくまたたいていました。

働き続けて来た女性たちのたくましい手を握り、別れを惜しみ、それから綾錦に染まり始めた道をたどり、円空仏の寺『千光寺』に向かいました。旅に生きた円空。その長旅で彫り続けた仏像・おおらかで慈愛あふれる円空仏、土地の人々が頭をなでて、痛みやつらさを和らげてもらったというおびんずるさん。この土地に来るたびに会いに行かずにいられません。

飛騨古川では、仲間とともに「暮らしが見えて住んでいる人の息づかいが感じられる町に」と発展させてきた村坂有造さん、その思いを引き継ぎ「クールな田舎をプロデュースする」と活躍している山田拓さんご夫妻にお会いしました。この町とも、半世紀近いおつきあいで、私の心の故郷でもあるのです。白壁土蔵、鯉が泳ぐ瀬戸川、郊外に広がるのどかな田園風景を目に焼き付け、少し冷たくなった澄んだ空気を胸いっぱい吸い込んできました。

変わらぬ友情に感謝しての帰路、高山本線からは赤や黄色に色づき始めた木々、滔々と流れる飛騨川が見え、高くなった空が広がっていました。

『発展と再生』『変わるものと変わらぬもの』

そんな言葉がふと浮かびました。

胸にまたひとつ、未来を照らす灯りが灯ったような気がしました。

 自宅に帰った翌日、美山の生産者から葱が届きました。キャンプ場のバーベキューで、「おいしいおいしい」と私が連発しながら葱を食べていた(本当にとろりと美味しいんです)ことに気づいて、わざわざ送ってくださったのです。

SNSなどを通して、家にいながらにして人とつながることができる時代となりましたが、自分の足でその土地を歩き、人に会い、手を握り、語り合い、年月を重ねるということは、やはり本当に素敵です。