NHKラジオ深夜便「大人の旅ガイド~神奈川県南足柄市・千津島地区」

今夜ご紹介するところは神奈川県南足柄市・千津島地区です。
千津島地区は南足柄市の北東部に位置し、酒匂川の開口部に位置した美しい農村地域です。
南足柄は私の住む箱根町のお隣の市です。南足柄は「古事記」などによると、官道であった足柄道を通じて、都の文化が東国に伝えられたと記録され、「万葉集」には足柄道をいく旅人の歌がいくつも収められています。
箱根・仙石原から「金時登山口」を経て金時山を抜け、静岡県の県境に、足柄峠・金時山ハイキングコース、足柄峠から万葉ハイキングコースもあり一度は歩いてみたいコースです。
以前、NHK・BSで「日めくり万葉集」に出演したことがあり、箱根にちなんだ歌を選んでほしいとのご依頼があり、
「足柄の 箱根の山に 粟蒔きて 実とはなれるを あはなくも怪し」
を選んだことがございます。「農の歌編」です。私は詠み人知らずの歌がとても好きです。その土地を旅している気分になれるからです。南足柄の地は、古来より歴史とロマンに彩られてきました。
この歌を詠んだ女性は、山を切り開いたような畑で粟を育てていたのでしょう。険しい山間で粟を育てるのはさぞかし大変だっただろうと思いますが、おおらかで、素朴な言葉遊びの歌に読み込まれた女性の心を想像するのは楽しいです。「粟は実ったのに、あはない」の素朴な掛け言葉に、ふられた女性の何か突き抜けた感じ、ちょっとした心のゆとりを感じました。
粟は今だと5月頃に種を蒔き、10月から11月にかけて収穫します。ですからこの女性は、もう半年も、男性との逢瀬が途絶えているのかもしれません。そして、当時の人々は、絶えず神や自然に対する信仰心や恐れを持っていたのでしょう。とりわけ、足柄峠には、荒ぶる神が御座す、と考えられていたと思います。
私は古代料理研究家の方に教えていただいて、当時の農民の方々の主食を再現してみました。粟8、玄米2の割合で釜で炊いてみましたが、美味しかったです。「南足柄市観光マップ」を見ながらそんなことを思い出しました。
さて、千津島地区には小田原から大雄山線に乗って”まさかり・かついだ金太郎”を目指してガタゴトと地味ですが、とても貴重な名物車両に乗り、終点の大雄山駅で下車します。
箱根外輪山や丹沢山系の稜線を遠くに眺め千津島地区まではのんびり歩いて30分ほどです。農道では、夏にはピンクの「ハナアオイ」と黄色の「キンケイギク」が、9月中下旬には「酔芙蓉(すいふよう)」や「彼岸花」が季節の移り変わりを告げてくれます。
ふくざわ公園を中心に四季折々の花々が地域の人により大切に育てられています。この地域は住民による手づくりの地域づくりを行政がサポートして作り上げられてきました。「地域づくりは人づくり」をモットーとし、作業に参加した人々の和が固い絆で結ばれています。
公園とその周辺で「菜の花・春めきまつり」が3月14日~22日まで開催されています。会期中、メイン会場では昔懐かしい童謡が流れ、のどかな農村景観は、まさに美しい農村の原風景があります。家族でゆっくり春の風を感じてください。
そして、大雄山駅に戻り、隣の駅「富士フイルム前駅」から徒歩5分のところに、中沼地区があります。南足柄市を流れる狩川沿いの小道「春木径(はるきみち・右岸)」、「幸せ道(左岸)」に菜の花が河原を埋める黄色いジュータン。そしてピンク色に染まり始めた早咲き桜「春めき(足柄桜)」が満開を迎えています。私は先週行ったので5分咲きでしたが、今週末が一番美しいようです。幅約2m、長さ約200mにわたって続く花ロードは地元のボランチィアグループの人たちが、植栽したそうです。
「あしがら花紀行」は花による地域おこしです。派手な観光資源はありません。
「だからこそ、花というきっかけでこの地に足を運んでもらって、平凡だけど心地よい風景や感動に出会ってほしいのです。」、「歴史に根ざした未来志向の地域づくりを目指しています。」と住民の方は仰います。
都心から80キロ圏の首都近郊都市。
「南足柄」はその利便性でさまざまな旅が楽しめます。
春木道・幸せ道の桜並木でも、「桜まつり」が行われています。
20日(金)、21日(土)、22日(日)には、地場野菜や加工品、足柄人形などの販売の他、名物の焼きそば、こんにゃく味噌おでんなども楽しめるようです。
ちょっと足を延ばすと、さまざまなハイキングコースがありますし、市内散策では
○古え物語コース
○伝承の旅人コース
○故事伝来コース
○天狗伝説コース
○金太郎伝説コース
など、市が発行している「南足柄市観光マップ」に詳しい説明とわかりやすい地図が載っています。JR小田原駅の観光案内所もしくは、大雄山駅で手に入れることが出来ますので、それをお持ちになって歩くことをお勧めいたします。
見所は、あじさい・藤棚・紅葉の美しい「大雄山最乗寺」、万葉集に詠われた足柄道に関連する7つの歌碑がたち、万葉の花木が植えられている「足柄万葉公園」、酒匂川の上流内川にかかる落差23mの滝で金太郎が産湯をつかった滝と伝えられている「夕日の滝」は新緑・紅葉ともに美しく、夏はキャンプ場が開かれ水遊びで賑わいます。

【旅の足】
~電車~
小田原駅から伊豆箱根鉄道大雄山線で終点大雄山駅下車。
全長9、6km―単線のローカル私鉄。ほぼ終日12分の運転間隔なのでとても便利です。無人駅が多いが、ICカード乗車券Pasmo・Suicaは使用可能です。
~車~
東名大井松田ICから県道78号線で約15分。金太郎歓迎塔手前の交差点を右折してしばらく行くと千津島地域になります。
詳しくは、南足柄観光マップをご覧になるか、南足柄市役所商工観光課にお問い合わせを。
電話0465-74-2111(代表)

浜美枝のいつかあなたと ~ 鷲田清一さん

文化放送 ”浜美枝のいつかあなたと” 京都編
放送3月22日 10時半~11時
今週も、先週に引き続いて、スタジオを飛び出しての外禄で京都に行ってまいりました。先週は、滋賀県・高島市・針江地区をお訪ねし「伝統的な生活に学ぶ、私達の暮らし」の旅。
今週は、京都です。
ここ京都も、伝統的な暮らしが息づいている街です。
寺島アナウンサーと風情ある祇園の石堀小路を歩き、高台寺・圓徳院に向かいました。高台寺、塔頭の圓徳院は豊臣秀吉の妻、寧々が生涯を終えたお寺です。その一室で、生まれも育ちも京都という、哲学者の鷲田清一さんにお話を伺いました。
鷲田さんはご専門の哲学書のほかに、京都の日常の魅力について書かれた「京都の平熱」というご本もあり、生活者から見た素顔の「京都」をお話頂きました。
私自身「大の京都好き」ですが、知らないことばかり。
鷲田さんは「京都市バス206系統」に乗ると京都の素顔がよく分かるとおっしやいます。バスで市街の外側をぐるっと一周すると、周囲に「聖・俗・学」が揃っていると。ぜひ、「京都の平熱」を手にとってみてください。
さて、番組では大変興味深いお話を伺いました。
いまの日本社会からは、「待つこと」「聴くこと」が失われた・・・と。
あまりにも社会が効率優先化、短絡化している。戦後、文明社会が大きく飛躍したが、それと同時に人間の欲望も大きくなり、ここらで「欲望のリセット」が必要なのではないかと提言なさいます。そして、現代の日本人に関して「命の世話さえ自分でせず、サービスを買う消費者になった」・・と。「文明の発達によって、人間一人ひとりはかえって弱くなったのではないか」と述べられております。
詳しくは番組をお聴きください。
鷲田さんはここ10年ほど「哲学カフェ」という場を設けてこられたそうです。10~80代の各世代から男女一人ずつ、15人くらいのまったく見知らぬ人同士で、年齢も職業も名前も出身地も言わず4~5時間議論をするのだそうです。
「他人がわかるということはどういうことか」、「私はだれか」、結論はあえて出さず、世代を超え議論が楽しいそうです。「異質な価値観を知る体験をなさってください」と。私も一度ぜひ参加させて頂きたいです。
帰り際、「僕、007よく観ましたよ!」とかつて映画青年の素顔も見せてくださった、哲学者、大阪大学総長の鷲田清一さんは1949年のお生まれ。
この番組は私にとって”宝もの”です。
今回も素敵な出逢いをいただきました。

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浜美枝のいつかあなたと ~ 滋賀での外録

文化放送”浜美枝のいつかあなたと”の外録で 滋賀・京都・大阪の旅をしてきました。いつものスタジオを飛び出しての収録です。
1週目は3月15日(日)10時30分~11時放送。
旅のテーマは「伝統的な生活に学ぶ、私たちの暮らし」。
古き良き伝統的な生活風景から、私たちの現代の暮らしぶりを改めて見直してみよう・・・というものです。
伺った先は滋賀県・新旭町・針江という地区。琵琶湖の西側になります。
街の中を縦横に水路が走る「水の街」。いたるところから湧き水が溢れ、それをためて生活に生かしています。これを「川端・かばた」と呼ぶのだそうです。
水の流れと人々の暮らしが密着しています。
水場では飲み水はもちろんのこと、炊事や洗濯にも利用します。
各家庭の元池(もといけ)から湧き出した生水(しょうず)は一番綺麗な水が溜まる壷池(つぼいけ)に入り、お料理・野菜洗い・洗顔などに使われ、そこから水は端池(はたいけ)へと流れこみます。
端池には鯉が飼われ料理の野菜くず、鍋釜の米粒などを食べ浄化してくれます。水は家の前の小川に入り、そして隣の端池に入りまた川に戻りやがて琵琶湖に流れて行くのです。
江戸時代から、この地域は大切に大切に水を守り、暮らしに生かしてきました。比良山系に降った雪、雨水が何年もかかり伏流水となりこの地域に潤いを与えています。
「水の神様に感謝ですね」・・・と語ってくれた、おばちゃん。
地域の子ども達はこの川で遊びます。
水が清らかなので、米・大豆なども美味しく、熱々の揚げたての油揚げの美味しかったこと!あとはラジオで、水のせせらぎの音を楽しみながらお聴きください。
現代社会は水道水になれ、水はペットボトルで・・・というのが日常ですが、「伝統的な生活」から学ぶことは多いのですね。
この地域の家庭へ無断で入ることはできません。
必ずボランティアガイドさんの案内のもとで見学してください。

Mie’s Living 開設のお知らせ

この度、Mie’s Living~浜美枝があなたに贈る素敵な暮らし方~を開設いたします。
箱根の森の中に家を建て、もう30年になろうとしています。ここでは、日時計がなく年時計があり、春がくるたびにひとまわりするような時計に支配されているような感覚があります。淡い春の訪れが、樹々の色みの変化で知らされます。若葉がチラッと目に付く前に、全山ぼおっと薄赤くなるんです。
箱根の山がふんわりと山法師(やまぼうし)の花でおおわれる初夏、見事な開花は十年に一度とか・・・。この山から子ども達は巣立っていきました。今は小鳥たちのさえずりが、”おはよう、朝ですよ”と起こしてくれます。
思い出がたくさん つまったこの箱根の家。
60代半ばを過ぎると、10年サイクルで物事を考えることは難しいかもしれませんが、箱根で静かに暮らすのが、私の今の幸せの形。それは確かなのですが、ただ静かにしているのを私はまだまだ望んではいないのでしょう。箱根には素晴らしい美術館やアートの世界が広がっておりますし、山の植物も素敵です。そんな私が大好きな箱根を一人でも多くの皆様に満喫していただこうと、4月より新しいプロジェクトを始動したいと思います。
日々の暮らしのなかで、ほんのちょっとの時間”自分へのごほうび”のためのステージを計画しております。まず最初は、箱根を訪れる旅から開始いたしますが、今後は30年前に建てたこの箱根の家を拠点に皆様の暮らしをほんのちょっぴり上質なものへの変化させるお手伝いができる企画をたてていきたいと思います。
年代を問わず私、浜美枝とご一緒いたしませんか。
“やまぼうし”は私の大好きな花です。
たちまち流れた30年の歳月。
私も”やまぼうし”のように、咲きたいものです、みなさまとご一緒に・・・。
アクセスお待ち致しております。
Mie’s Living ~浜美枝があなたに贈る素敵な暮らし方

NHKラジオ深夜便「大人の旅ガイド~岡山県美咲町」

今夜ご紹介するところは、岡山県美咲町です。
美咲町は岡山県のほぼ中央に位置する中山間地域です。さらにその中央にある集落が境地区。境地域は、岡山県三大河川の「旭川」、「吉井川」に流れ込む分水界に位置しています。地域の中心部は峠となっています。
この峠から見る集落の美しさは、まさに日本の故郷そのものです。その多くが棚田地域です。住民の手できれいに保存された棚田は全国棚田百選にも認定されていて、「日本のふるさとの原風景」が育まれています。
私はこの40年、日本の農山漁村を歩いてまいりましたが、伺った農村で、おばあちゃんやおじいちゃんと話したり、お茶を飲ませていただいたりするうちに、「日本の美しさは農村景観にある」と、しばしば思うことがあります。
民俗学者の宮本常一は著書「旅と観光」の中でこのように書いています。ご存じだと思いますが、宮本常一は、戦前から高度成長期まで日本各地をフィールドワークし続け、膨大な記録を残した人物です。 ときには、辺境と呼ばれる土地で生きる古老を訪ね、その一生を語ってもらい、黙々と生きる多くの人々を記録にとどめました。
「私は地方の村々をあるくとき、できるだけ高い、見はらしのよい丘や山に上がるようにしている。近頃はそういうところにも車のやっと通れる程度の林道はできている。そして、そういうところで、村人たちのひらいた田や畑、植林の様子などを見ていると、時の経つのを忘れる。そういう村で、村人たちに、春でも秋でもいい、晴れたよい日に村中の者が山の上に弁当を持って上がって、そこから村を眺めつつ、一日中団らんしてみてはどうかとすすめる。これを『国見』とよんだらどうか。」
そして
「その土地の名物や料理は食べておくがよい。その土地の暮らしの高さがわかる」
とも。傾斜地に広がる棚田を見ていて、ふっとそんな言葉を思い出しました。
この集落は「みんなで仲良く」が活動の合言葉になっています。素晴らしいですよね。農家戸数52戸・人口185人。
ここで平成15年に赤そば(高嶺ルビー)の栽培を機に、境地区農業生産者組合が組織され棚田のそば屋「紅そば亭」がつくられました。紅そば亭には年間約1万人が訪れ、棚田の見学やそば畑の景観を楽しみ、毎年新そばが出来る頃、「そばまつり」を地元民が開催しています。紅そば畑の花が咲くころは、県内外から特に県内では倉敷からのお客さまが多く、また写真家や多くの見学者が訪れるそうです。

そして、「紅そば亭」の お母さん達はいいます。
「この5年間で生活はガラッと変わりました。一人でこつこつ農業やっていたのが、接客業になったのですから。今では、このそばが生きがいになっています。活動のキャッチフレーズは何かと問われれば、『伝統文化とこだわりの味を伝えたい』となりますが、ひらたく言えば、『みんなで仲良く』で頑張っています。」・・・と。素敵ですよね。
何もない・・・といえば何もありません。しかし、そこには確かな”日本人の暮らし”があります。伝統文化がしっかり伝承されています。
岡山県無形民俗文化財「境神社の獅子舞」。
舞は男子と限られていたのが、最近は女の子も笛で参加するようになりより華麗な雰囲気で奉納されるようになったそうです。
岡山県三大河川の一つ「旭川」水系でおこなわれていた古武道の棒術、境神社宮棒も伝承されています。地元では棒使いといわれて親しまれ、代々引き継がれています。宮稽古に参加することは、地区民の仲間入りの第一歩でその意味はとても大きいのです。やはり少子化の問題はありますが、伝承され続けることを祈ります。
周辺にもみどころいっぱいです。
境神社の大杉は樹齢300年といわれ、境地区のシンボルであり、神木として崇められ大切にされています。
集落から、運がよければ「雲海」見られます。
二上山両山寺。
岡山県の中ほどに二つの峰をもってそびえる二上山の頂上にある両山寺は、開祖西暦714年といわれる古刹です。境内にそびえる千年の大杉は信仰の対象として崇められています。寺の「五智如来像」は、知恵を授かるご加護で子ども連れに人気があるそうです。
滝谷池は灌漑と水利保全のために作られた池。
桜と釣りの名所で、白鳥2羽がスイスイと泳ぎ「さくらちゃん」「たきちゃん」と名づけられいつも仲良く泳いでいる姿はなんともほほえましいです。桜の咲く頃にお出かけください。可愛い2羽の白鳥に出会えることでしょう。
今の農村景観は少しずつ美しさから遠ざかりつつあります。でも、今夜ご紹介した美咲町には、そんな美しい集落、人の営みがしっかりと根づいているのです。

旅の足
車で
国道53号で津山から・・・約30分
国道53号で岡山から・・・約60分
バスで 津山から・・・約30分
空港連絡バスで 岡山空港から・・・約60分
鉄道で
JR津山線で津山から亀甲駅・・・約15分
JR津山線で岡山から亀甲駅・・・約60分

浜美枝のいつかあなたと ~ 康宇政さん

先日も素敵なお客様をスタジオにお招きいたしました。
ドキュメンタリー映画「小三治」の監督、康宇政(カン・ウジュン)さん。
康宇政さんは1966年、東京のお生まれ。
東京写真専門学校芸術科を卒業後、90年代にデレクター・デビューされ、
これまでに数多くのテレビ番組、ビデオ作品を監督、演出されてきました。
本年、はじめての長編ドキュメンタリー映画「小三治」を発表いたしました。当代随一の落語家、柳家小三治師匠をモチーフにした1時間44分の作品です。私は公開前に試写会で拝見いたしました。
おりに触れ「元々、私は自分の落語の記録を残すのが嫌な人なんです。噺家なんて、どんどん変わっていくものですしね。」と語られる小三治師匠。そんな師匠が、上野・鈴本で「歌ま・く・ら」 のリサイタルをする際、「歌を録音してくれるかい」と監督にお願いしたのが始まりとか。
小三治師匠”追っかけ”の私としては、早朝箱根の山を下り東京の試写室へ・・・。
もう、たまりません!フアンには。
鈴本演芸場をはじめとする寄席、全国各地での独演会や落語会、北海道から九州までの旅の道中や舞台裏までありのままの師匠が描かれています。
今まで、自分のことを多く語らなかった小三治師匠でしたが、カメラは師匠に寄り添うように、静かに静かに、そっと奥深く「人間・小三治」に迫っていきます。ふっとした仕草、表情、語られる言葉に、ひとりの名人と呼ばれる噺家・小三治の心のうちを見事に映し出しているのです。
お客様には見せない苦労・苦悩の姿も。
「康監督、ありがとうございました」と思わず心の中で感謝いたしました。
小三治語録を少しだけ。
「芸はひとなり。技術で出来ることはたかがしれている。」
「言葉よりも、ひとの”こころ”ありき。」
名跡について。
「名前が人をつくるんじゃない。よい仕事をしていれば、それがよい名前に見えてくる。」
「遊びは真剣に。」
等々・・・心に染み入る言葉のかずかず。
映画のクライマックスには小三治師匠の落語「鰍沢」の模様がおさめられています。
監督のお話は文化放送「浜美枝・いつかあなたと」
2月15日(日曜) 午前10時30分~11時まで お楽しみに。
映画「小三治」は21日(土)から、「ポレポレ東中野」や「神保町シアター」などで公開されます。また映画のインターネット公式サイトもありますのでご覧ください。

寒椿の似合う壷

生きることは ひとすじがよし 寒椿
この句は、私たち映画界の大先輩である五所平之助監督が詠まれたものということです。
箱根の山々に吹く風も初春を感じるようになりましたが、まだまだ肌寒く、この季節に自然とその大好きな句が思い出されます。
朝、まだ冬枯れの庭にでてみると、霜柱が立っています。そんな庭に、ひときわ鮮やかに咲き誇る寒椿の花。寒風に吹かされながらも凛と華やかな薄紅色の花弁は、ひとすじに生きることの美しさと尊さを教えてくれるようです。
モノトーンの風景のなかにあでやかに咲く寒椿にしばし見惚れ、そのひと枝を手折って家の内に戻ると、囲炉裏のある部屋の窓辺に、小さな壷が待っています。
すでに45年間私と共にあって、ずっと私の半生を見守り続けてきてくれた信楽の壷「蹲」うずくまる・・・。その素朴で荒削りな、それでいて繊細さも併せ持った花器には、冬の寒椿が一番似合うのです。
春や秋の季節にその壷に花が生けられることはほとんどなく、いつもただじっと窓辺の同じ場所に蹲って、寒椿の挿される冬を、ただひとすじに待ちつづけます。薄暗い部屋のそこだけに灯りがともったよう・・・、私はしばしその場に寄り添いながら、「蹲」と出逢った遠い昔の冬の日のことを思いだします。
この壷はかっては種壷として使われていたとか。

浜美枝のいつかあなたと ~ 板倉徹さん

文化放送・『浜美枝のいつかあなたと』
毎週日曜日・10時30分~11時まで「やわらかな朝の日ざしにつつまれて、今朝も素敵なお客さまを、我が家にお招きいたします」で始まります。
先日素敵なお客さまをお迎えいたしました。
板倉徹さん。
和歌山県立医科大学脳神経外科教授で「脳の専門家」です。
これまでも数多くの発言をされ、現在は著書「ラジオは脳にきく―頭脳を鍛える生活習慣術」(東洋経済新報社)が発売中です。番組の中では、人間が誰しも持っている「脳」。しかし、「脳」の機能はまだまだ未知数、計り知れないともいわれます。
「便利すぎる文明社会は脳を活性化させない」
特に脳の中の「前頭前野」はとても大切で人間の「やる気」にも関係がある場所とか。その「前頭前野」を鍛えるためには、「ラジオを聴く」「落語を聴く」など音経由で想像力を働かせる脳の使いかた・・・など、「ラジオの「ながら聴き」は脳によい」、「インターネットより新聞を読む方が脳にはよい」等など大変興味深いお話を伺いました。
日本は超高齢化社会にすでに入っています。
何歳になっても、はっきりした頭で生活したい・・は誰もが願うことです。
どんなことを心がけるべきか・・・ぜひ番組をお聴きください。
放送は2月1日(日曜)10時30分から11時までです。

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NHKラジオ深夜便「大人の旅ガイド~酒田・室生寺」

今夜ご紹介するのは山形県酒田にある”土門拳記念館“です。
その前に、年末奈良の室生寺を訪ねました。
私と室生寺の出会いは10代の頃に遡ります。
私を骨董の世界へと導いてくれた写真家・土門拳先生が、「室生寺はぜひ見に行ってごらん」といってくれたのでした。それ以前に、土門拳写真集「筑豊のこどもたち」に出会い、私の宝物のようになっていました。
定価100円のザラ紙に印刷された、一枚一枚のなんという悲しさ。なんという愛らしさ・・・。表紙になっている、るみえちゃんの美しさと底知れない悲しみ。心がくぎづけになりました。
「一度でいい、土門先生にお会いしたい」と当時、思いつづけておりました。念願がかない京都で雑誌の表紙の撮影。が、その日は光の具合がよくなくて中止。そこで先生が誘ってくださり、ある骨董屋さんに連れて行ってくださいました。
その道すがら、土門先生はこうおっしゃられました。「本物に出会いなさい、モノには本物とそうでないモノと、ふたつしかない。これから本物を見に行こう」・・・と。
それが先生との出会いでした。
それ以来先生は、何度病に倒れても不死鳥のように甦り「室生寺」「古寺巡礼」などを世に送り続けました。「女人高野室生寺」の撮影時は3度目の大きな発作に見舞われ、車椅子の上からの撮影となりました。
特に私の好きな
「精神ヶ峰の朝霧」
「雪の鎧坂金堂見上げ」
「室生寺弥勒堂」
「釈迦如来坐像左半面相」
など、数えきれないほどの”室生寺”を先生は正に執念で撮り続けられたのです。
私は奈良での仕事が終わり何故かふっと室生寺に行きたくなり予定を延ばし訪ねてきました。
JR奈良駅から桜井線に乗り、途中で近鉄線に乗り換えました。単線を走る2両仕立ての各駅停車の桜井線はトコトコ、のんびり走り、窓から冬の奈良の景色をゆったり眺めることができました。早朝の朝霧の中、雪はありませんでしたが、先生の作品「雪の鎧坂金堂」の石段にたちたくなったのです。なぜなのでしょうか・・・。

新しい年を迎え、新しい人生のステージに足を踏み入れるとき、人は祈りの場所を求め、心を整理し、大いなるものに背中をそっと押してもらいたくなるのかもしれません。
まだ他に人もおらず、室生山を仰いで清流をゆっくりと渡ると室生寺。仏様を拝み、建物を鑑賞し、堂内を散策してきました。
先生は写真集「室生寺」のまえがきで、このように記しています。
「この本が祖国の自然と文化に対する日本民族の愛情と誇りを振るい起すささやかなよすがともなるならば、ぼくたちの努力の一切は報いられるのである」
室生寺の別名は「女人高野」といいます。
「室生寺は寺伝にいう女人高野の名にふさわしく、可愛らしく、はなやかな寺である。伽藍も仏像も神秘的で、しかもあやしい色気がある。深山の杉の木立の中に咲く山ざくらにもたとえられよう」(「ぼくの古寺巡礼」小学館)
仏様たちと静かにひとり対話し、元気をいただきました。たった一泊延泊しただけですが、ひとり旅っていいなぁと、その醍醐味を味あわせてもらいました。ひとりでお訪ねしたからこそではなかったか、とも思います。
さて、そんな旅のあと、たまたま1月に入り山形での仕事があり、奈良の旅の延長に酒田の「土門拳記念館」に行ってみたくなりました。
仕事が終わり夕暮れの中、奥羽本線で新庄まで、そして、陸羽西線に乗り換え甘目(あまるめ)。今度は羽越本線で酒田へと。凍てつく冬の旅ですが、車窓から遠くにぼんやり民家の灯りが見え東北を旅している・・・と実感できます。
山形県酒田市の「土門拳記念館」は最上川が日本海に流れる河口間近の川ぞいに位置し、飯森山文化公園の中にあります。遠くに雪をかぶった鳥海山。人口の池(草野心平が「拳湖」と名づけた)にはカモが気持ちよさそうに泳いでいます。
水面に浮かぶように建てられた記念館の設計は谷口吉生。
イサム・ノグチの中庭の彫刻、亀倉雄策による銘板、勅使河原宏の作庭による庭園、周囲の素晴らしい自然と調和した建物です。

「土門拳記念館」は日本最初の写真専門の美術館として、また個人の写真記念館としては世界で唯一のものとして昭和58年10月にオープンしました。土門先生の育った自然が望める場所にあります。
個人的には私は冬に訪れるのが好きです。今回は何度目になるでしょうか・・・。
「土門拳の風景」「文楽」「古寺巡礼―日本の仏像」が展示されており、もちろん「室生寺」もありました。
展示室の一画にメモしたノート、使ったカメラが展示してあります。そして1974年6月に65歳の土門拳先生が左手で書いた色紙の前で私は体が動かなくなりました。”逞しく・優しく”という文字。
車椅子に乗り、お弟子さんに背負われ、待ち続けて撮影した「雪の鎧坂堂を見上げる」を見るとき、10代に「本物に出会いなさい」と仰っていただき、「日本人の美」を学ばせていただいてから五十年近く経つのに、まだ耳元に先生の声が聞こえてきます。
そんな酒田の「土門拳記念館」をご案内いたしました。

2009年・・・ 土門拳生誕100年を記念して三人三様展・勅使河蒼風・土門拳・亀倉雄策」が開催される予定です。2009年6月12日~8月23日まで。
旅の足
庄内空港
 東京―庄内空港・・・約60分
 大阪―庄内空港・・・約75分
JR線
東京―新潟(新幹線)―酒田(羽越本線)・・・約4時間
酒田駅より
タクシー約10分
バス約16分

ばっちゃんからの贈り物

大切なものは、土と太陽の匂いがする
ばっちゃん・・・ふるさとだよりの品々が届きましたよ!
栗の渋皮煮、豆糖(みそ味)手づくりジャム、凍りもち(ついた餅を寒風で乾燥させ、砂糖醤油で味付けしたもの)おたっしゃ豆(まめで達者での願いを込めて)にんにく醤油・・・そして、おみ漬け(山形名物のつけ物・青菜の浅漬けは、納豆を混ぜたりお茶漬けでも美味しいとか)


先日、山形県西村山郡大江町に伺ってまいりました。
県のほぼ中央に位置する村山盆地。
柏倉吉代さん(74歳)、横山みつよさん(77歳)、JA高取部長さんをはじめ30代・40代の女性達「JAさがえ西村山」のみなさまの活動を知ることができました。
加工所がある18才(じゅうはっさい)という集落名は、月布川に注ぐ十八番目の沢「十八沢」に由来したとも言われていますが、ばっちゃん達はまさに18歳!そのもの。
28年前にはじめた「もったいない、無駄なく」との思いはまさに今、求められていること。
地域の伝統を大切にし、大江町らしさをだした女性ならではの知恵と技によって、「我が家に伝わる秘伝の味」「子や孫に食べさせたい味」をモットーに受け継がれてきたのです。
“おみ漬け”・・・のなんと美味しいこと。
山形青菜はボカシ肥をいれた土づくりを条件にしているそうです。

「土」が総てを知っています。
私は40年にわたり、日本の農山漁村を訪ねてきました。
最初は民藝に惹かれての旅でした。
やがて、農山漁村の現場を知ることになりました。
第一次生産者が誇りをもって農業・漁業・酪農などに従事できるように、そして消費者が確かな目を育てられるように、ひいては「安らぎの食卓」を支える安全な食品を誰もが当り前に手に入れるようになればと、私なりに情報を発信し、提案を重ねてきたつもりでおりました。
ですから、近年続出した食をめぐる数々の事故・事件は衝撃そのものです。「損得」でビジネスを考えるのではなく、「善悪」という視点から捉え、信頼で生産者と販売者と消費者が互いに切磋琢磨できる関係を作り上げる。
「体に悪いものは作らない・売らない・買わない」という関係をつくりましょうよ。
けっして夢物語ではありません。
だって”ばっちゃんの贈り物”が証明してくれていますもの・・・。
全国には、こうした”正直な味”がたくさんあります。