企画展『部屋のみる夢』に思う 

ヴィルヘルム・ハマスホイの『陽光の中で読書する女性、ストランゲーゼ30番地』

新型コロナウイルスが感染症法上「5類」への移行が決まり、マスクの義務化も廃止。日常の平常化が進められています。

コロナウイルスと同居せざるをえなかった3年という年月。人間は万能などではなく、世界はきっかけひとつで急変すると、改めて思い知らされるとともに、どんな状況にも想像を膨らませ、自分で考えることの大切さを実感させられました。

外出を制限された日々を、皆様はどうお過ごしになりましたか。

私は箱根の家の暮らしをいつものように続けておりました。一時は東京に出る機会が減り、キャンセルになった仕事もありましたが、自粛制限が緩められてからは様子を伺いつつ、美術館や映画館にも出かけていきました。

先日も、箱根のポーラ美術館の企画展『部屋のみる夢』に行ってまいりました。19世紀から現代までの作家が室内を描いた作品を集めた展覧会です。近代絵画のボナールやマティス、ベルト・モリゾから、現代に生きる草間彌生さんや写真家のヴォルフガング・ティルマンスまで9人のアーティストの作品が並んでいました。

部屋とひと口にいっても、視点も表現も実にさまざまです。日常の一瞬を細密に描写した作品もあれば、何気ない日常風景をとらえたものも……。家にいる時間が長かったためでしょうか。それぞれがいっそう味わい深く、胸に迫ってきました。

中で最も惹かれたのは、「北欧のフェルメール」とも呼ばれるデンマークのヴィルヘルム・ハマスホイの『陽光の中で読書する女性、ストランゲーゼ30番地』でした。

窓からさしこむ北国の淡い日差しの中、画中の女性は椅子に座り、こちらに背を向け、本を読んでいるのです。余計なものが一切ない空間。そこに流れる沈黙といえるほどの静けさにすっかり魅了されました。

展覧会の帰り道、「部屋」そして「窓」とはなんだろうと考えている自分に気が付きました。部屋は、個的な空間であっても、閉ざされているわけではなく、窓を通して外に開かれているのですね。

すると、これまで自分が窓や縁側から見てきた風景が次々に浮かんできました。夜空を見上げてお月見をした幼い日、子どもたちが庭で遊んでいる姿を見ながら料理をしたこと、そして今、私が日々、目にしている小さな庭のことも。

昨日と同じ空がないように、窓から見える景色も、常に変わり続けます。その日の光、その時の風、その風景は、そこにいる者だけがその瞬間にだけ目にすることができるもの。部屋もまた、同じように見えて、実は少しずつ変容していくのでしょう。

自分はどんな空間で、窓から何を見て過ごすのかと、問いかけられたような気がしました。

今という時間、自分の空間、そして生きることまでも、いとおしく感じる展覧会でした。

ポーラ美術館のこの企画展『部屋のみる夢』は7月2日まで開催されています。お時間がありましたら、ぜひお出かけくださいませ。
公式サイト https://www.polamuseum.or.jp/exhibition/20230128c01/

※企画展『部屋のみる夢』では全作品の撮影が許可されています。

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