箱根の秋

箱根に暮すようになって、もう40年以上の月日がたちました。 

”古民家再生”という言葉も当時はありませんでした。長男をおなかに宿していたとき、まるで何かに導かれたかのように、古民家の解体現場に行き合わせ、勢いというか運命というかわからないのですけれど、その古民家を譲り受けることになり…その廃材をどう生かせばいいのか考えあぐねた末に、箱根に家を建てることになりました。”移住”などという言葉もそれほど使われる前のことです。ただ、「箱根」は大好きな場所でした。国立公園の中にあり自然豊かで、都会からもさほど遠くなく、住むなら箱根!と憧れを抱いていました。

古民家再生は当時、まさに手探りの連続でした。最初にできたのは枠だけ。当初3年は台所もお風呂もなく、プロパンガスの簡易ガス台で調理し、近所の旅館にもらい湯をさせてもらったりもしました。その間、子どもたちと顔を合わせて「まるでキャンプ生活みたいね」と笑ったこともたびたびでした。そんな時代に箱根の四季折々の美しさに魅せられていきました。

湯本から1000mほど上ると芦ノ湖をはじめ仙石原・強羅・そして小涌谷。古刹も美術館も、美しい庭園も。東京よりひと月ほど早く木々が色づきはじめます。

長女が小学生になった頃、赤く燃えるような木々の間で遊びました。  ”モミジの葉 赤いテントの木のしたで”と彼女が詠んだときは 「あぁ、ここで子育てができるって幸せ」と思いました。50代になり、子どもたちが少しずつ私の手から離れていきました。60代に入って微妙に私の心が揺るぎはじめました。このまま、50代のスピードで走り続けていくことが私にとって幸せなのかしら…… ”私はこれからどう生きていきたいの”と自問するようになりました。

年上の友人たちが晩年の暮しかたを次々に選択しつつありました。東京から田園に住まいを移し、農業を始めた人もいれば、自然豊かな場所から便利な都会に戻ってきた人も、病に倒れ、残念なことに突然、この世を去った人もいます。晩年の暮らしのあり方を自分の問題として、本気で考えました。東京のオフィスを箱根に移し、暮らしのダウンサイジングを進めました。そうなのです!この箱根があったから、自分にしっかり向き合うことができました。箱根で静かに暮すのが、私の幸せのひとつの形。それは確かなのですが、ただ静かにしているのを私はまだまだ望んでいないのです。

旅もしたい。東京に行き、ラジオの収録で様々な分野で活躍なさっている方々との語らい。大きなスクリーンで映画も観たい。美術展へも…と興味はつきません。それは「箱根」が待っていてくれるから。美しい紅葉も間もなく見ごろを迎えます。大好きな場所もあります。

今回は皆さまに仙石原にある「湿生花園」の秋の花をお届けいたします。さわやかな澄んだ空気と空の色。

10月に入ると秋も深まりススキが見ごろを迎えますし、湿原、川、湖沼などで育つ植物が約1700種。ここでは四季の花が見られ、林ではホトトギス、アキチョウジ、オミナエシ、ワレモコウ、リンドウなどが自然のかたちで見られるのです。

園内は歩きやすく木の遊歩道です。さわやかな澄んだ空気と秋の空。湿生花園から北側斜面に広がる「すすき草原」のススキが太陽の光にてらされ美しく光っています。今年は例年にない酷暑となり、仙石原周辺も平年以上の暑さに見舞われたようです。

でも晴れの日が多く、陽光をよく浴びて輝いています。徒歩で10分ほどで”すすき草原につきます。3月には、ススキの植生保全や維持管理を目的にした山焼きが3年ぶりに行われました。秋深まるこの季節のススキは「金色のじゅうたん」と称されるほどの美しい風景です。

草原の中心部には台ケ岳の中腹まで続く遊歩道があります。

「箱根の秋」を堪能した一日の小さな旅でした。

湿生花園は12月1日から翌年3月19日まで冬季休園となります。

湿生花園公式サイト
https://hakone-shisseikaen.com/

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