映画「親愛なる同士たちへ」

ウクライナの惨事が解決の糸口を見出せないまま、今年の春が過ぎようとしています。

そんな時、一本のロシア映画が目に止まりました。
「親愛なる同士たちへ」。
アンドレイ・コンチャロフスキー監督の作品です。

監督は間もなく85歳を迎えますが、20代の後半に黒澤明監督の影響をうけ、初の長編映画を作りました。その後も、黒澤監督の脚本をもとに作品を制作するなど、現在は巨匠の名で呼ばれています。  

今回の映画は今から60年前に発生した工場のストライキ、そして弾圧の実態などを生々しく再現したモノクロ作品です。カラーではなく、敢えて白黒の画面にしたことに、監督の意思が現れているようです。

当時はまだ共産党の一党独裁、つまり旧ソ連の時代でした。そして、食料・日用品の不足、更に賃金カットなどが続き、工場労働者がストライキを起こしたのです。

旧体制下での労働者の反乱は極めて珍しいことで、国の対応も厳しいものでした。軍隊、警察、諜報機関などが総動員で弾圧を加え、多数の死者や逮捕者が出ました。  

この映画の女性主人公は、共産党の地方幹部です。娘と自分の父親と3人で暮している、いわば地元の実力者でした。しかし、労働者のデモの混乱に巻き込まれ、その中で娘は行方不明になってしまうのです。

母親は、まさかと思いつつ、死者が取り敢えず埋葬された墓地にまで足を運ぶのでした。   国家や党を信じて自らの道を歩んできた主人公は、娘の行方を探し求めながら、様々な疑念に駆られ始めます。

果たして、これまでの生き方を続けていいのか?

娘の身を気遣う母親の愛情との板挟みで、苦悩は深まります。

体制が一旦暴走を始めたら、市民はどうなるのか?
そして、どうすればいいのか?
結局、何を信じるのか?  

監督の視線は女性主人公に注がれて、共に歩み続けます。主人公・リューダ役に、監督は自分の妻・ユリア・ビソツカヤを起用しました。手を携えて、全力でこの作品に挑んだのですね。  

映画に出てくるストライキの現場は、ロシア南西部の町・ノポチェルカッスクで、ウクライナの東隣に位置しています。撮影が行われたのは、2019年の夏でした。  

この作品をロシアの人々は見ることができたのでしょうか。そして、どんな受け止め方をしたのでしょうか。

「親愛なる同士たちへ」のスクリーンや資料には、ロシア文化省とロシア1チャンネルの表示が記されていました。しかし、ロシアが抱え続ける負の遺産と、未来への希望という監督夫妻の複雑で微妙な心境は、この作品に十分注ぎ込まれていたと思うのです。

映画公式サイト
https://shinai-doshi.com/

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