正直なつくり手の味

日本に生まれてよかった…と、私がもっとも強く感じるのは、四季折々、この国の豊かな食材に出会った時です。

もう半世紀以上も、全国を旅して歩く仕事をしてきました。「仕事」と、ひとことで言ってしまうのはちょっと申し訳ないような贅沢な日々を重ねていくうちに、いつの間にか、その土地土地の「極上の味」と出会うことが、私の旅の目的のひとつになっていたのでした。

そして何より嬉しいのは、おなかだけではなく心まで満たされる美味しいものとめぐり合った時、必ず、「誇り」と「こだわり」をもってその味を作った方々と出会えるという幸運に恵まれたことです。

「食」にこだわり、時間と手間と心をかけ、じっくりと自分だけの味を生み出そうとしている方々が、日本じゅうにこんなにもたくさんいらっしゃる……それを私は、とても素晴らしいことだと思うのです。

これから、折にふれこのブログでもご紹介させていただきたいと思います。 未来へと羽ばたく子供たちの身体と心を健やかに育んでくれるものばかりです。  

和歌山・湯浅「角長の醤油」

知らなければ知らないでいられたものを、知ったばかりに、もうそれなしではいられない……というような経験、ありませんか。それが食品だった場合、今までの人生がひっくり返るほどではないにしろ、何か、大きく損していたという思いに愕然としますね。

初めて「角長(かどちょう)」のお醤油を口にした時が、私にとってそれでした。角長のお醤油は、今日、私たちが醤油と呼び、味わっている、いわゆる醤油の原点であり先達であり、「極上とは何か」を教えてくれる醤油なのです。

角長は1841年(天保12年)の創業です。 そもそも、日本の醤油の源は鎌倉時代にまで遡ります。紀州の禅寺・興国寺の開祖・法燈円明国師が中国から伝えた嘗め味噌の一種、「径山寺(きんざんじ味噌」(現在は金山寺味噌)の上澄み液から作ったのがはじまりといわれています。

和歌山県湯浅町を訪ねた時、江戸時代以来、当時五代目になる当主・加納長兵衛さんにお目にかかり、私ははじめて醤油のなんたるかをしらされたのでした。戦中戦後の一時期を除いて、角長は醤油の原点に戻り、醤油発祥以来の伝統を守り、いい材料で昔風に造る努力をなされています。

昔のままを守るというのは、実に大変なこと。老舗とはこういうものか、と思いしらされました。手順も設備も、おそらく江戸時代そのままだと思われます。吉野杉でできた仕込み桶を床に埋め込んだ仕込み蔵。これは創業以来といいますから200年ものですね。

コロナが流行する前に私は湯浅の「角長さん」を訪ねました。しっかりと、六代目当主が伝統を受け継いでいましたし、家族総出での家業。 現代の食文化にあった商品も開発されています。

私の好きな銘柄は「紫摘(しずく)」と「濁り醤(にごりびしお)」です。煮物や赤味の魚には、紫摘を。濁り醤は白身魚に合うでしょう。もちろん、お野菜の煮物にも角長は本領を発揮します。つまり醤油の本領である、自己主張しすぎず、素材の味を活かし、それを最大限豊かに発揮させる。そんな奥深い仕事をしてくれるのです。

冬季のみの寒仕込みを守り、機械化に頼らず昔ながらの手づくり醤油。 私が伺ったときには外国の方も訪ねてこられ、今や”醤油”は日本の食文化を担って世界へ羽ばたいております。  

角長(かどちょう)
和歌山県有田郡湯浅町湯浅7
TEL 0737(62)2035
FAX 0737(62)4741  
冬に造り、在庫がなくなり次第販売終了。
営業時間 9時~17時。日曜定休。
詳しくはホームページで。  
https://kadocho.co.jp/

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