藤戸竹喜  木彫り熊の申し子     ~アイヌであればこそ

木彫りの熊は離れて眺めても、その魅力が伝わってきません。近寄って見つめると、思わず触れたくなるようなリアリティーに驚かされます。毛一本一本の質感、そして何かを訴えかけるような表情にも、芸術性と熊の存在感が溢れ出ているのです。

今、東京ステーションギャラリーで「木彫り熊の申し子」と題された企画展が開かれています。”申し子”とは彫刻家・藤戸竹喜(ふじと・たけき)のことです。

「アイヌであればこそ」の副題が付けられた展覧会は熊を中心にした動物、そしてアイヌの先人たちの、まるで生きているかのような立像など、80点余りの作品が周囲を圧倒しています。

50年ほど前、東京・駒場の日本民藝館でアイヌの工芸品に出会いました。どうしても、その手仕事の現場を見たい!その後、テレビの仕事で北海道のアイヌコタン(アイヌの人々が住む集落)を訪れ、素敵な女性にお会いしました。

貝沢トメさん。

アイヌの大切な祭り・イヨマンテ(クマ送り)で熊を寝かせるための”花ござ”を編んでいました。彼女はアイヌの人々の暮らしぶりや織物の素晴らしさなどを、3日もかけて丁寧に教えてくださったのです。

今回の木彫り熊の企画展は、衣装や装飾から出発した私のアイヌ芸術への関心を一層広げ、深めることになりました。

デッサンも下絵もないまま、たった一つの木片から熊を彫り上げていく。なぜ、このようなことが可能なのか?それは、アイヌの人々の精神性に因るものだと感じました。

お寺も神社も持たない彼らは、動物なども含めた山や川、つまり自然そのものを神と崇めているのです。彫刻家の藤戸竹喜は、一つの木から魂を彫り続け、そして堀り当てたのでしょう。

「木彫り熊の申し子」展の会場として、ステーションギャラリーはぴったりでした。

かつての東京駅のレンガ壁を利用した展示場は、出展作品との息遣いがとても似ていたのです。昭和の観光ブームでお土産物として主役の座を維持し続けた木彫りの熊は、今では芸術・文化作品として、アイヌの手仕事の魂を代表する存在になりました。

その立役者の藤戸竹喜は、決して頑固一徹の人物ではなかったようです。会場には、若い頃の彼が大型3輪バイクに乗って微笑む写真が照れくさそうに飾られていました。自宅の工房には、趣味でジャズ喫茶が開かれていたとのことです。

藤戸竹喜さんは3年前に、84歳で亡くなられました。

アイヌの歴史と伝統に限りない誇りと愛情を持ちながら、別の文化にも理解の翼を広げていらしたのですね。

尊敬と合掌

東京ステーションギャラリー
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202107_fujito.html

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