世界報道写真展2021~私たちは生きる

物音一つしない会場に、突然閃光が走ったような気がしました。黄色で縁取られた光の中で、親子が抱擁している! でも、それは勘違いでした。

ブラジルのサンパウロにある養護施設で、看護師が85歳の女性を抱きしめているのです。コロナ感染予防のため、施設側には最大限の工夫が求められています。密着を避けながら、少しでも入所者の不安や孤独を癒す。

この難題を解決するために考えたのが、ビニール製の「ハグカーテン」でした。

デンマークのカメラマン、マッズ・ニッセンによるこの作品は「初めての抱擁」と題され、「世界報道写真展 2021」で大賞を受賞しました。

このコンテストは今年で64回目を迎えますが、私はここ数年、毎年のようにその写真展にお邪魔しています。今回は文字通りのパンデミック下、カメラマンの取材も困難を極めたことと思いますが、世界130の国と地域から、4300人を超える写真家が参加し、7万4000点以上の応募があったということです。

恵比寿の「東京都写真美術館」で開かれた写真展には、その中から選ばれたおよそ60点の作品が、それぞれの”今の世界”を語っていました。

そして、会場入口を入ってすぐ右手に、”無言の存在感”を示していた「初めての抱擁」がありました。その一枚の写真には、コロナと向き合う人々の恐れや困惑そして同じ時を生きる人たちとの絆や温もり、更には自分自身への誇りまでもが凝縮されていたのです。

目にした瞬間、足がすくみ、胸が締め付けられました。どれくらい立ち止っていたでしょうか。この女性はおそらく、一瞬の安堵を感じたはずです。懸命に生きてきた証であろう白髪が、今も目に焼きついています。

恵比寿での写真展は先日終了しましたが、9月以降は立命館大学びわこ・くさつキャンパスなどで開催される予定です。

https://www.asahi.com/event/wpph/

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