写真家・土門拳

先日電話で 朝日新聞の取材をうけました。

内容は1960年1月に出版された土門拳写真集「筑豊のこどもたち」についてです。私が2009年2月1日発売の「別冊太陽」(平凡社)に「土門拳ー鬼が撮った日本」の中で「本物を見る目を教えてくれた土門拳先生」というタイトルでエッセーを書かせていただきました。

「土門拳」という名前を始めて知ったのは「筑豊のこどもたち」を手にしたときでした。涙がとまりませんでした。それを読み、今回お声をかけてくださいました。出版から60年以上たって、写真集が現在なお、評価される理由など・・・詳しくは7月28日の紙面をお楽しみに!

京都の骨董の店「近藤」での出会いから60年以上がたちます。

「本物に出会いなさい、モノには本物とそうでないモノと、ふたつしかない。自分の目でしっかりとみつめること」。

あの日からずいぶん月日が経つのに、まだ耳元に先生の低い声が聞こえてきます。それから、土門先生の後を追い続けるように原爆写真集「ヒロシマ」、ライフワークとなった「古寺巡礼」などを見ました。最後の第5集を完結するまでに12年の歳月がかかったそうです。

途中二度目の脳出血に倒れられ、不死鳥のようにたちなおり、再度、倒れられ車椅子に乗っての撮影を続けられました。

私の好きな「室生寺」。

40年にわたってレンズを向け車椅子生活になってからもつづきます。平安時代初期に創建された室生寺の五重塔が平成十年(1998)9月22日、近畿地方南部に上陸した台風七号により甚大な被害を受け樹齢六百五十年の杉の大木が五重塔を直撃し破壊されたとニュースで知った時には「どうしよう・・土門先生が心血を注いだ塔が」と言葉を失いましたが、国宝の五重塔は全国から早期修復を願う手紙が殺到し見事に蘇りました。

桜吹雪の舞う中、うっすらと雪をかぶった鎧坂石段の写真に魅せられ、また土門先生が「日本一の美男子仏」(釈迦如来座像)と語った写真に感動し、春夏秋冬何度通ったことでしょう。

気にいらなければ撮らない。「真の美しさとは何か」を学びました。

山形・酒田の「土門拳記念館」には何度も足をはこびました。かつて画家になろうとして果たせなかったからでしょうか、古美術とくに古信楽には造詣が深く、写真集は京都の近藤のご主人と一緒に世にだされました。

魅かれるものに魅かれるままジーッと眺める。モノを長く眺めれば眺めるほど、それがそのまま胸にジーとこたえるまで相手をじっと見る。見れば見るほど具体的にその魅かれるものが見えて来る。よく見るということは対象の細部まで見入り、大事なものを逃がさず克明に捉えるということなのである。(土門拳『私の美学』あとがきより)

ドキュメントも古寺も骨董も、土門さんにとっては、ひとしく、美たりうるものであったのでしょう。

車椅子の不自由なおからだになった土門さんが、必死の思いで訪ねた骨董店が飛騨古川の「駒」。店主は京都「近藤」で学び お父さまの骨董店を継いで店主となられた方です。

その駒に『遂に来たぞ』と、土門さんが書かれた色紙が飾ってありました。車椅子生活になられた土門さんがここまでたどりついたという思いを、まさに心血を注ぐようにして書いた文字です。骨董に対する思い、生きることへの強靭な思いが、色紙から伝わってきます。

そして、座敷の囲炉裏の上にかかった自在鉤から目が離せなくなった私。「これ、いいですねぇ」「いいでしょう、これはおゆずりすることができないものです・・・土門さんが、これはいいものだねぇ、と気にいってくださったものだから」と。納得でき、嬉しくもありました。「土門さんと同じものに魅かれた」ことに。

何年か後に、京都の「近藤」で「あ、これ・・・」私はしばし呆然としました。土門さんが「いいものだねぇ」とおっしゃった、あの自在鉤と同じようなものが見つかりました。亀甲竹でできたフォルムがとても美しいのです。

自在鉤は箱根のわが家の囲炉裏の中心にかかっております。これから何代にもわたって使われていくことでしょう。

朝日新聞のインタビューを受け、土門拳先生にお会いしたくなりました。

「写真家・土門拳」への2件のフィードバック

  1. 『筑豊のこどもたち』の言葉に思わず気持ちが和らぎました。
    筑豊で育って74年、今はない炭住街の跡地を時々散歩します。
    あの時の情景はないけれど、私たちの小さなころの笑い声が
    聞こえてきそうです。
    もう一度、じっくりと土門拳様の写真集を見たくなりました。

    1. 道崎満寿男様

      ブログへの投稿ありがとうございました。
      筑豊で生まれ、お育ちになられたのですね。
      もう、すっかり街は変わっているのでしょうね。
      子供たちの笑い声がこちらにも聞こえてきそうです。

      でひ、もう一度土門拳さんの写真集ごらんください。
      私にとっても”宝物”の写真集です。
      コロナ禍ですが、お健やかにお過ごしくださいませ。

      浜 美枝

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