睡蓮に囲まれて

箱根登山鉄道の強羅駅からバスで「こもれび坂」を過ぎると、ヒスイ色をしたガラスの外壁が見えてきます。およそ2ヶ月の臨時休業を経て再びオープンした「ポーラ美術館」です。6月1日、この日を心待ちにしておりました。

冬から春にかけての”自粛生活”では、たくさんの本に囲まれていました。その中でも、原田マハさんの「<あの絵>のまえで」には、強く心を揺さぶられました。

アート小説の名手によるこの本は、女性主人公が自ら求めて絵画を追い続ける姿を描く短編小説で、瞬く間に”原田ワールド”に引き込まれてしまいました。モネ、ゴッホ、ピカソ、セザンヌ、東山魁夷、クリムト。6枚の絵画がそれぞれ別の美術館に展示されており、主人公が次々と訪ね歩くのです。

主人公は人生の悩みや苦しみを乗り越え、新たな希望を見いだそうと、絵画に向き合うのです。幸いにも私はこれまで、小説で描かれた6ヶ所の美術館に足を運んでおりますが、その中には「ポーラ美術館」も入っていました。

6月1日に始まった今回の絵画展は、「モネとマティス もう一つの楽園」と題されています。私は再開の知らせを聞いて以来、”また、モネに逢える!” その一心でした。初日に伺ったのも当然ですよね。

会場にはモネの言葉が記されていました。「ここを訪れる人に、安らぎの場を提供できるだろう」モネの自然観、自然のとらえ方が端的に表現されていました。

そして歩みを進めたのは、「睡蓮」のブロックでした。そこでいきなり目に飛び込んできたのが、「睡蓮」の6枚の連作だったのです。モネの最初期の作品から晩年の作品まで。水面に同じ位置で配列されている睡蓮の花はモネのこだわりでしょうか。

「会いたかった!」私が心の中でそう呟くと、「お待ちしていましたよ、首を長くして!」と、6枚の「睡蓮」が声をそろえて応えてくださったような気がしました。フアンの心理は、やはり面白いですね!?

「睡蓮の部屋」はこの時、たまたま他の参観者の方々がいらっしゃらず、”独り占め”状態の空間となりました。”ラッキー”でした。私は目を閉じ、水の匂いを嗅ぎ、微かな風の音まで存分に聞くことができたように感じました。

それでも会場には子供連れのファミリーや若いカップル、そしていかにも絵画好きの男性など、様々方々が来場されていました。皆さんが周りとの距離を保ち、静かに見入っていらしたのがとても印象的でした。それぞれが、今日を待ち望んでいたのでしょうね。

好きな絵画に会えなくなっていた日常から少しは解放されたものの、やはりまだ戸惑いを感じている一日でしたが、そんな心をモネが優しく抱きしめてくれたようです。

ステキなチャンスをいただけた原田さんの本を抱えながら美術館裏手の”森の遊歩道”を散策しながら絵の余韻に浸ってまいりました。ブナ、ヒメシャラが群生し、野鳥の囀りも聞こえてきました。私の好きな初夏の花”やまぼうし”の花を愛で、美術館を後にしました。

 

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