C・Wニコルさん

作家で環境保護活動家、探検家のC・Wニコルさんが3日、亡くなられました。

ニコルさんにはじめてお会いしたのは、35、6年前のこと。ニコルさんが荒れた森を再生させるために長野の黒姫に移り住み、自らの手で森づくりをはじめたまさにその頃でした。

「豊かな森は生きる力を与えてくれる。森は心の再生」というニコルさんの考えに、深く共感し、雑誌の取材で黒姫の家にお邪魔いたしました。

「美枝さん、木を切ってはじまる文化もあるけれど、それによって文化を失うこともあるよね。森を失ったら文化は滅びます。森の再生、復元にはたくさんの時間、手間、そして愛情が必要だけれども、誰かがやらなくてはならないんだ」と。

ニコルさんは、以来、黒姫の荒れ果てた土地を、私財を投じて、少しずつ買い集め、ウエールズのアファン(ケルト語で「風が通るところ)という意味)の谷のように、日本でも美しい森を蘇らせようとなさってきました。朽ちた木を間伐するという気の遠くなるような作業を繰り返しました。そして、太陽の光が地面にさしこむようにして、その土地になじむ新しい苗木を植え続けてきました。

ニコルさんとブナの原生林を歩いたある夏のことでした。

そのブナは、天をつくかと思えるほどの高さ。その幹の太さは、巨漢ニコルさんもスリムに小柄に見せるほど。私はブナの木にふれました。水をたっぷり含むその木は、太古からの生命の循環を奥深い胎内に受けとめ、耳をあてると満々たる水のたゆたいが聞こえてくるような気がしました。その木の肌、木の下のあらゆる生物が生き、蠢くさまは、まさにつね日頃、ニコルさんがいう生態系そのものでした。

「放置されたままの状態を森とはいわない。原生林を切り倒して落葉樹を植えてお茶をにごしていると森はジャングルになって、木はヒョロヒョロ不健康になる。原生林は日本列島の大昔の歴史を語り、無数の生き物の原点、そしていい水の原点なんだ。日本人の元気の源・・・・」

沢から流れる水を汲み冷たいお抹茶をいただきました。その幸福感は身体の隅々までいきわたりました。

いい山の見分け方もニコルさんに教わりました。山をみて、尾根に針葉樹がはえているから、遠くに緑がみえるから、それが森林だと思ってはいけません。多くの原生林を切り倒したあとの飾りのようなものというのです。

ちょっと地方に行って、”わあ、自然がいっぱい!”とすぐ感動しがちな都会に住む私たち。無知であり傍観者であり、そのうえ浅はかにも緑色というだけで自然がいっぱい、と感動しているうちに、原生林だけが刻々と姿を消している姿にニコルさんは心をいためていました。環境問題に対して真正面から向き合ってきた活動家として知られるニコルさんはこの日本の現状をどのようにみていらしたのでしょうか。妥協を許さない厳しさでも知られています。

ですが、一方、日常をとても大切にし、さらに繊細で優しく、愛すべき茶目っけを持ち合わせている素敵な方でした。

アファンの森を歩いた数々の日のことが走馬灯のように脳に蘇り、胸が熱くなってきます。これから森のことをどなたに教わればいいのですか、ニコルさん。うかがうと書きかけの小説もまだ半分だったとのこと。

最後にニコルさんは「ぼくたちの望んでいる森は見ることはできないでしょう。でもいま可能性を与えることで必ず望むような森ができると信じています」とおっしゃいました。未来を夢見て、ひたすら歩み続けた二コルさん。

ニコルさんなんて他人行儀な呼び方ではなく、やっぱりいつも私たち仲間がそう呼んでいるように、「ニック、安らかにお眠り下さい」  合掌

写真は黒姫に住みニコルさんを何十年も、寄り添うように、撮り続け深い友情で結ばれていた南 健二に提供して頂きました。私とのツーショットは来日50周年、日本人になられたお祝いのパーティーの二次会で仲間たちと一緒の赤ら顔のニック。生まれた故郷、英ウエールズの美味しいスコッチを飲みながら。

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